泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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2020-01-01から1年間の記事一覧

短篇小説「誰得師匠」

今日も劇場の楽屋は誰得師匠のおかげでてんやわんやである。楽屋口から出たり入ったりしながら、トイレへ行った一瞬の隙に連れてきた鳩がいなくなったと誰得師匠が騒いでいる。担当の新人マネージャーを呼びつけては鳩の生態を語って聴かせ、劇場の女性スタ…

ディスクレビュー『WE ARE THE NIGHT』/MAGNUS KARLSSON'S FREE FALL

ウィー・アー・ザ・ナイトアーティスト:マグナス・カールソンズ・フリー・フォール発売日: 2020/06/10メディア: CD良く言えば引っ張りだこ、悪く言えば尻軽もしくは器用貧乏なギタリスト、マグナス・カールソンの名を冠した「本業バンド」待望の3rdアルバム…

短篇小説「自転車通学者の恋」

純介は高校時代、男子校へ自転車で通っていた。おかげで彼はひとりの女子ともつきあうことができなかった。 だがそれはけっして、貴重な青春期の行き先が男の園だったからではない。純介は、すべては自転車通学のせいだと思っている。自転車通学という手段は…

短篇小説「課金村」

この村ではなにもかもが無料である。一見そのように見える。本当にそうなのかもしれない。本当はそうなのかもしれない。ということは、そうじゃないのかもしれない。 朝から公園を散歩していた私は、喉が渇いてきたので自販機でジュースを購入しようと考える…

短篇小説「連&動」

膝五郎が街でたい焼きを食べ歩いている。いや正確には究極のたい焼きを求めて何軒もまわっているというわけではなく、単に歩きながら手近な一匹を食べているだけなので「歩き食べている」と言ったほうがいい。日本語の複合動詞では、後に来る動詞のほうが主…

短篇小説「迷信迷走」

迷村信彦はスマホであれ一眼レフであれ、写真を撮られるのが嫌いだ。それはもちろん、〈写真を撮られると魂を抜かれる〉という迷信を信じているからにほかならない。 なぜそうなのかは知らないが、おそらく生きた魂は固定されることを嫌うのだろう。その証拠…

短篇小説「挨拶の懊悩」

元気は元気であることに疲れていた。誰かと久しぶりに会うたび、いちいち「お元気ですか?」と訊かれるのが面倒で仕方なかったのである。 そんなのはもちろん単なる挨拶の常套句であって、本当に目の前の相手が元気か元気でないかなど誰も気にしているわけで…

短篇小説「風が吹けば桶屋が儲かるチャレンジ route 1」

一陣の風が、吹いた。はたして桶屋は儲かるだろうか。 駅前の大通りを通り抜けた風が、路上に落ちていたコンビニ袋を舞い上げた。宙を舞ったコンビニ袋が、直進してきた八百屋の軽トラックのフロントガラスに貼りつき、その視界を奪う。八百屋の軽トラは急ブ…

短篇小説「正論マン」

正論ばかり言う正論マンがセイロンティーを飲んでいる。これは駄洒落だが駄洒落こそが正論なのではと正論マンは最近思う。 たとえ言葉の響きだけであっても、一致している部分があるというのは間違いなく正しい。もしも正論マンがダージリンティーを飲んでい…

短篇小説「売らない師」

僕はその日も売らない師の店を訪れていた。 売らない師の店では、なんでも売っているがなんにも売っていない。食品もおもちゃも洋服もペットも電化製品も、その他なんだかわからないものまで扱っているが、この店で誰かがなにかを購入する場面を、僕はこれま…

短篇小説「机の上の空論城」

いよいよ私はたどり着いた。旅の最終目的地である、この大いなる「空論城」へと。 門前から見上げると、「空論城」は四本の太い木の柱に支えられた巨大な板の上に、そう、まるで机の上に建っているように見えた。さすがはかの有名な言葉「机上の空論」の語源…

短篇小説「電動アシスト式告白機」

たいした脚力も必要なく坂道をすいすい登れる電動アシスト式自転車に驚いていたのも、今は昔。近ごろではすっかり、何から何まで電動の力を借りるようになった。箸の上げ下げに至るまで、今や電動アシストなしには考えられない。もはや人類そのものが、すで…

短篇小説「よろずサポートセンター」

私は何か困ったことがあると、必ず「よろずサポートセンター」に相談することにしている。みんなもそうするといい。電話に出た「よろずサポーター」が、なんでも解決してくれる。本当に最高のサービスがここにある。その手段さえ問わなければ。 仕事から帰っ…

短篇小説「抽選の多い料理店」

近ごろ、美食家兼ギャンブル好きのあいだで評判のレストランがあるという。その店は、「抽選の多い料理店」と呼ばれている。「抽選の多い料理店」を訪れるには、まず抽選に当たらなければならない。なにしろ「抽選の多い料理店」なのだから、当然の話である…

短篇小説「親切な訪問者」

とある休日の昼下がり、私は自宅で時間指定の宅配便を待っていた。指定した時刻は十四時~十六時。そしてラジオの時報が十四時を知らせた瞬間、早くも部屋のインターホンが鳴った。 こんなことは珍しい。こういうのはたいがい中途半端な、最も来られては都合…

コロナ禍頻出語迎撃用メタルソング13選

コロナ禍に頻出しているキーワードにまつわりそうでまつわらない、でも頑張ればまつわっているように聞こえなくもない感じの、主にメタルソング13選を貴方に。【自粛警察】 通報者の動機はきっと――St. Anger、 www.youtube.comだがその光景は客観的に見れば―…

短篇小説「過言禁止法」〈改稿〉

SNSの流行により日本語は乱れに乱れた。どう乱れたかといえば端的に言って万事表現がオーバーになった。 短文の中で自己表現をするとなれば、自然と過激な言葉に頼るようになる。さらには、ただ一方的に表現するだけでなく互いのリプライによる相乗効果も働…

短篇小説「桃太郎そのあとに〈童話後日譚〉」

かつてない鬼退治の大成功により、その中心人物である桃太郎の人気は爆発した。 民衆に甚大な被害をもたらしていることを認識していたにもかかわらず、その事実を隠蔽して鬼を放置し続けてきた時の政権はにわかに求心力を失い、鬼に苦しめられてきた人民の誰…

短篇小説「豚に真珠そのあとに〈ことわざ後日譚〉」

豚は戸惑っていた。今朝、飼い主である王様から突然に、真珠の首飾りをかけられたからである。それはとてもキラキラと輝いていたが、残念ながら美味しそうには見えなかった。きっと口には入れないほうがいいだろう。 豚は最初、一部の凶暴な動物たちのように…

短篇小説「犬も歩けば棒に当たる〈ことものわざがたり〉」

これは紆余曲折を経て、最終的に犬が歩いて棒に当たるまでの話である。 犬が、歩いていた。あるいは、歩いている犬がいた。場所はどこにしようか。とりあえず街中にしてみようか。 犬の前にまず、電柱が現れる。これは棒と言えるだろうか。かなり長くて大き…

短篇小説「かつぎ屋」

その日の私は、とてもかつぎたい気分だった。舌先三寸で難攻不落の某大手企業を口説き落とさなければならないという、かつてない大仕事が翌日に控えていたからだ。我が社の命運をかけた新商品のプレゼンを、私は任されていた。こんなときは何かしらかつがな…

ディスクレビュー『SHAKE THE WORLD』/BLACK SWAN

Shake the Worldアーティスト:Black Swan発売日: 2020/02/14メディア: CD元MSGのロビン・マッコーリー、元WINGERのレブ・ビーチ、元DOKKENのジェフ・ピルソンらによる「スーパー・バンド」――と言いたいところだが、実際には「サブキャラ(二番手以降キャラ)…

短篇小説「逆接さん」

その魅力を語るには、どうしても逆接を用いずして表現できない女、それが「逆接さん」である。 逆接さんは魅力的な女性ではあるが美人ではない。身長は高くないが実際の身長を聞いてみると、それよりはだいぶ高いなと誰もが思う。性格は温厚だけれども激しい…

短篇小説「桃太郎ネガ」

むかしむかし、ある暗雲たちこめる鬱蒼とした僻地に、中二病のお爺さんと、実年齢よりもはるかに老けて見えるお婆さんがいました。 ある日、お爺さんは自殺の名所として有名な山へ柴刈りに、お婆さんは上流にある工場排水で汚染された川へ洗濯に行きました。…

思いついたこと思いついた順に書くぞ日記

このブログもすっかり短篇小説だらけになっているが、そもそもは日記を書くためにはじめたような気がする。音楽や『M-1』のレビューを書くためだったかもしれない。いずれにしろ、小説ブログになるはずじゃあなかった。だがそれはそれでいい。むしろ小説のほ…

短篇小説「喩え刑事」

管轄内で立てこもり事件が発生したとの通報を受け、喩え刑事がパトカーで現場へ急行した。五十代の男が、別れた妻とその娘を人質に立てこもっているという。 喩え刑事は、助手席に乗るゆるふわパーマの新米刑事に言うでもなく呟いた。「いま俺たちは、まるで…

短篇小説「未然ちゃん」

天災人災事件事故、何もかも自分が未然に防いだと言い張る彼女のことを、人は「未然ちゃん」と呼ぶ。ひょっとすると、世界は未然ちゃんのおかげでなんとかまわっているだけなのかもしれない。 三月の未然ちゃんは、とある高校の掲示板の前にいた。その日は入…

短篇小説「人望くん」

どこの世界にも、いったいその人がなぜそんなに評価されているのか、その要因がどうにも思いあたらない人物というのがいる。イケメンでも演技派でもない大御所俳優。美人でも巨乳でもないグラビア女王。失言まみれ汚職まみれの大物政治家――。 挙げればキリが…

短篇小説「某気茶屋」

そう、ここは繁華街にある居酒屋『某気茶屋』。今日も我が店は、あらゆる「気」にあふれている。 その原動力となっているのが、各店員がそれぞれに放っている「気分」である。我が店ではスタッフの個性を重視して、各人の胸の名札に、苗字とともに「その日は…

短篇小説「い・ら・な・いオートマティック」

二十二世紀に入り、この世のあらゆるものが自動になったが、どこを自動化するかは個々人のセンス次第だ。 僕は毎朝八時に目を覚ます。もしも寝ぼけてスマホのアラームを止めてしまったとしても、まったく問題はない。五分後に再びアラームが鳴ったときには、…

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