泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

短篇小説

短篇小説「ポジティブ刑事」

ポジティブ刑事が現場へ急行している。拳銃を忘れて走り出してしまったがきっと大丈夫だろう。なぜなら彼はポジティブ刑事だからだ。武器などないほうが物事はスムーズに運ぶことも時にはある。どんなにネガティブな状況であっても、それをポジティブに捉え…

短篇小説「ジダハラ」

世間では時短ハラスメント、略して「ジタハラ」というものが流行っているようだが、わたしの職場では「ジダハラ」にすっかり迷惑している。 ジダハラの原因は、わたしと同じ職場で働く壇田踏彦という男である。踏彦はことあるごとに地団駄を踏む。その足音が…

間違いだらけの「新語流行語全部入り小説2019」

ある朝求人サイトにあな番の広告が出ていた。電話をかけてみたらいきなり採用となった。あな番とはアナウンサーの番組でもアナーキーな番長でもなく、穴の見張り番をする仕事だと説明されて、それくらいなら僕にもできると思ったのが不幸のはじまりだった。…

短篇小説「来店ルーティーン」

泣ける曲を口ずさんでいる男が街角を歩いていると、本当は喫茶店をやりたかった八百屋の前でいつもニヤニヤしている男と出会った。泣ける曲を口ずさんでいる男といつもニヤニヤしている男は中学時代の同級生であったが、特に仲が良いわけではない。「やあ、…

短篇小説「なにがなんだか飛翔体」

隣国から正体不明の飛翔体が発射されたまさにそのとき、前日のフットサルで起きたアクシデントにより負傷体となった翔平は、強くひねった右の足首体が発する激しい痛みのせいで、予定より一時間も早く起床体となった。 だが足首体が石膏体によりすっかり固定…

短篇小説「ABCマートの店内でだけ流れてるラジオ」

強く細かな雨がノイズのように降り注ぐ平日の昼下がり。差した形跡のない白い粉を吹いたビニール傘を手に、濡れそぼった姿で我がオフィスの会議室に現れた自称23歳の女は、面接官である私の目の前で、恐るべき志望動機を語ったのであった。「《ABCマートの店…

【当ブログへの入口】ウェルカム短篇小説おすすめ5選【もしかするとそのまま出口】

久しぶりに長編小説を書こうと思っていて、何かネタになるものはないかという浅ましい思いで、当ブログに書いた自作短篇小説を珍しく読み返してみたりしている。本来自分が書いたものを読み直すのは好きじゃないのだが、改めて読んでみるとまったく身に覚え…

短篇小説「夢のまた夢のまた夢」

目が覚めると僕はプロ野球選手になっていた。これは僕が生まれてはじめて抱いた夢だ。寝て見る夢ではなく、起きて抱く夢だ。だからこれは夢の中の話ではなく、外の話ということになる。どちらが現実かなんて、取るに足らないことだろう。 しかしプロ野球選手…

短篇小説「過言禁止法」

SNSの流行により日本語は乱れに乱れた。どう乱れたかといえば端的に言って万事表現がオーバーになった。 短文の中で自己表現をするとなれば自然と過激な言葉に頼るようになる。さらには、ただ一方的に表現するだけでなく互いのリプライによる相乗効果も働く…

短篇小説「紙とペンともの言わぬ死体」

繁華街の路地裏で、紙とペンを持った男の死体が発見された。彼は死ぬ間際、いったい何をそこに書きつけようとしていたのか。 そこで真っ先に「遺書」と考えるのは、いかにも浅はかな素人推理である。なぜならば死体が着用していた上着のポケットからは、別に…

短篇小説「ALWAYS 二番目の銀次」

あまり知られていないが、あらゆるジャンルでコンスタントに二番手のポジションを獲得し続けてきた男がいる。男の名を銀次という。皮肉なことに、銀次はその出生からして二番目であった。だがそれは、いわゆる「次男」という意味ではなく。 山に、老夫婦が住…

短篇小説「フクロウこそすべて」

この世のすべてフクロウになったのは、いつからだったろうか。 ある日、意中の女性とデートしていた私は、一件目の盛りあがりを受けて、彼女を二件目に誘った。だがそこで彼女が発した言葉に、私は衝撃を隠せなかった。「ごめんなさい、今日はウチにフクロウ…

短篇小説「ことわざ殺人事件」

ある冬の朝、都心の路上で、腹部に餅屋の暖簾を被せられた中年男性の死体が発見された。男は一般的な背広姿、目立った外傷は見当たらず、死因は特定されていない。この不可解な死を解明するため、二名の刑事と一人の探偵が現場へと急行した。 初めにベテラン…

短篇小説「縁起者忙殺録」

幸介はとにかくかつぐ男だ。どれだけ重いものをかつぐのかといえば、彼のかつぐべきその総重量は甚だしく大きいと言わざるを得ないだろう。そう、彼は縁起をかつぐ男。成功体験の数だけ、かつぐべき縁起がある。 幸介は自身を幸福へと導く縁起を、それはもう…

短篇小説「筋肉との対話」

おい、オレの筋肉! やるのかい、やらないのかい、どっちなんだい? やるとしたらいつ、何を、どのようにやるのかい? 今すぐ、バーベルを、鬼のように上げるのかい? 今宵、ブルドーザーを、東京から大阪まで引っ張るのかい? あるいは明朝、ラジオ体操第2…

短篇小説「マジックカッター健」

マジックカッター健はどこからでも切れる。彼を切れさせるのに、切り込みなど必要ない。お肌だってツルツルだ。 マジックカッター健は、端から見れば何ひとつ原因が見当たらないのに切れる。しかし実を言うと、健には本当に切り込みがないのではない。彼の切…

短篇小説「マウント屋」

仕事で大きなプロジェクトを成し遂げた翌日、私は必ずマウント屋へ行くことにしている。今日の私があるのは、すべてマウント屋のおかげだと思っている。 今夜も私は、任務達成の悦びと抜けきらない疲れに酔いしれた身体を引っさげて、会社帰りにマウント屋を…

短篇小説「つまらな先生」

つまらな先生はすなわちつまらないからつまらな先生と呼ばれているのであり、もしも一片でも彼に面白味のようなものがあったなら、そう呼ばれてはいないだろう。 つまらな先生の授業は、やはり滅法つまらない。しかし彼は自分の授業がつまらないのではなく、…

短篇小説「フェイク・オフィス」

六本木の高層階にあるオフィスで、振介は今日も働くフリをすることに忙しかった。 具体的にいえば振介はいま、プリントアウトした資料を見るフリをしながら、そこに書いてあるデータをノートPCに打ち込むフリをしている。 もっといえばその「資料」とはプリ…

「感濃小説」

ある夜仕事から帰宅すると、ドアの前に透け感のある服を着た抜け感のある中年男が立っていた。男は見るからに生き感に欠け、その夢感そしてうつつ感の強い表情から読み取れる化け感は、まるで死に感に包まれた幽霊のようでもあった。それにしては左手に持っ…

「新語流行語全部入り小説2018」

あるテニスの試合のハーフタイム中に、U.S.A.帰りのなおみがTik Tokの動画を観ながらかつお節のおにぎりを食べていた。これすなわち、ご飯論法でいうところのなおみ節である。これはそのとき食べているものと、食べている人の名前をただくっつけてしまうとい…

短篇小説「魔法使いの口説きかた」

いまこの竜的はサムシングが支配する世の中において、世界各地を冒険する戦士である私が考えているのは、どうすれば魔法使いをパーティーにスカウトできるかというこの一点である。魔法使いだって遊びではないのだから、まさかきびだんごひとつで誘うわけに…

短篇小説「雑談法」

七年前にいわゆる「雑談法」が施行されて以来、気軽に「雑談でもしましょう」などと言えない世の中になった。難儀なことである。 「雑談法」により、「雑談」という文字どおり雑然とした概念は、改めて明確に定義されることとなった。はたして何が「雑」で何…

短篇小説「憤と怒」

憤介が怒っているのは、いつものバス停に時間通りバスが来ないからであった。すでに時刻表から十分も遅れている。会社に遅刻すれば怒られるのは憤介なのだから、彼が怒るのも無理はない。しかしまにあったらまにあったで、要領の悪い憤介はどうせ別件で上司…

短篇小説「三割神」

野球で打率三割といえば好打者といえるが、三割だけ願いを叶えてくれる神様はどう評価すべきだろう? 神だってなんでもかんでも完璧に叶えられるわけではない。神に完全無欠な仕事ぶりを常時要求したりすれば、今どきパワハラだなんだと訴えられかねない。神…

短篇小説「条件神」

photo by Hartwig HKD ひとりなのだかたくさんいるのだか知らないが、世にいう神々が必ずしもやさしいとは限らないのは、地球の現状を見れば誰にでも簡単に理解できることである。しかしまさかここまでとは。 その日、神が喪師喪田畏怖男を見つけたのか、喪…

文体実験型短篇小説「順接ブレイクダウン」

喉が渇いたからといって水を飲みにいくとは限らない。 就活生の何故彦は面接の出来がさんざんだったので、帰りにコンビニへ寄って牛乳を買った。もしも面接で充分な手応えを感じられていたならば、彼はきっとミネラルウォーターを買っていただろう。どちらが…

無理比喩短篇小説「因果オーライ」

朝の通勤電車はコンビーフの缶詰のように混んでいた。中段をぐるぐる巻き取るあの独自の構造は切腹を思わせるが、満員電車に乗っているサラリーマンたちの会社への忠誠心も実質的な切腹を前提としている。 列車がテーブルの上に置いて三秒後の生卵のように揺…

短篇小説「ラジカセの木」

男は庭の畑でラジカセの苗を育てていた。 苗とはいっても、水を遣るわけにはいかない。なぜならばラジカセは、電化製品だからである。庭にはビニールの屋根がついていた。音を聴かせて育てるしかない。それも正確な育て方かどうかはわからない。そんなこと、…

短篇小説「ハズキルーペがハズかない」

「今日も私は精一杯、力の限りハズけていたのだろうか? あるいは楽をして、中途半端に七割方ハズいたあたりで、満足してしまっていやしないだろうか?」 近ごろ私は、仕事を終えた帰りの電車内で、毎日そう考えている。それはもちろん、私が最近ハズキルー…

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