書評(小説)
最近聴いたり読んだりした/している作品についての所感。 【音楽】 ◆『MY FATHER'S SON』/JANI LIIMATAINEN マイ・ファーザーズ・サンアーティスト:ヤニ・リマタイネンマーキー・インコーポレイティドビクターAmazon 元SONATA ARCTICAのギタリストのソロ作…
まるで任天堂のような小説だ。荒唐無稽だからこそのワクワク感がある。けっして現実的な設定ではないのに、リアリティも手応えもふんだんにある。だとすればリアリティの正体とはいったいなんなのか。読み手にそんな根源的な疑問を抱かせるというのは、それ…
誰もが認めるディストピア小説の代表作である。読んでみるとたしかにそうだと言わざるを得ない。同じ作者の『動物農場』と比べても、ちょっとレベルが違う。徹頭徹尾、とにかく示唆に富んでいる。物語の端々から発せられるのは、現代社会への警告であり人類…
じゃなくてジョージ・オーウェルを最近ようやく読みはじめた。このタイトルから、OLの格好をした高橋ジョージを期待してしまった人には本当に申し訳ない。著者近影を見る限り、髪型は少し似ているかもしれないが。なぜ今ジョージを読もうと思ったかといえば…
これは物語のふりをした、世界一読みやすい予言の書であるかもしれない。予言の書は予言が現実化する前に読まねば意味がないように思われるが、いざ見事にすべてが現実化してしまったあとのいま読んでこそ、背筋の凍る答えあわせが楽しめるというメリットも…
「人生は選択の連続である」という言葉がある。自分でもそれを痛感することは多い。試しに検索窓にそう入力してみると、「シェイクスピア」や「ハムレット」といった関連ワードが出てくるが、もう少し調べるとシェイクスピアの『ハムレット』にそのような言…
モレルの発明 (フィクションの楽しみ)作者:アドルフォ ビオイ=カサーレス出版社/メーカー: 水声社発売日: 2008/10メディア: 単行本ガルシア=マルケス、ボルヘスとともに南米文学を代表するカサーレスの代表作、らしい。「カサーレス」=「傘レス」=「傘がな…
フランス文学の異端児による奇譚。再読して改めて気づくのは、この作品がとにかく遊び心にあふれているということだ。そしてそれがなぜか哀しい。そんな作者の独特なスタンスを理解するためには、巻末の安部公房による解説にある、本作の謎めいた題名に触れ…
「中国のカフカ」こと残雪による第一長編。作者名を聴いて、まずはイルカの名曲「なごり雪」が頭に流れる。カフカを彷彿とさせる不条理な予感は、冒頭の一文からして十二分に漂っている。《あの町のはずれには黄泥街という通りがあった。まざまざと覚えてい…
とにかく徹頭徹尾ふざけまくっている小説である。この小説を真顔で読み終えることのできる人は、人生のあらゆる局面で「もっともらしい」人や物に騙されている可能性が高いので充分に気をつけたほうがいい。もちろん極度の「悪ふざけ」と極度の「生真面目」…
カフカを好むがゆえにカフカ・フォロワーと見るや手に取ることが多いが、このマリオ・レブレーロもそのひとり。とはいえ南米ウルグアイの作家であり、カフカとの地理的な距離感がどのように作用しているか、という興味もあって。これは音楽の世界でもよくあ…
東京モンタナ急行作者: リチャード・ブローティガン,藤本和子出版社/メーカー: 晶文社発売日: 1982/10メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (6件) を見るこの世にブローティガンほど「当たり外れ」の激しい作家はいない。にもかかわらず、「…
本と人との関係というのは人間同士の関係と同じで、趣味嗜好は合わなくても友達や恋人になれるというケースが少なからずある。僕にとって村上春樹の作品とは、常にそういう存在であるのかもしれない。この『騎士団長殺し』という作品をいま読み終えて、改め…
昨年の大河ドラマ『軍師官兵衛』を観るにあたり、僕は黒田官兵衛の生涯を描いた司馬遼太郎の『播磨灘物語』を読み返していた。学生時代に読んだときよりも、遥かに言葉が染み渡ってくる。名作の持つ意味は、読む側の経験や成長によって如実に変化する。だか…
「薬草」といえば真っ先に『ドラクエ』あたりのRPGを想起するが、この奇想天外なアフリカ文学への入口として、そのイメージはどうやら間違ってはいない。これはファンタジックな冒険譚であり、言うなれば「日本型RPG」小説である。その証拠に、主人公の狩人…
一文一文に含まれる情報量がすこぶる多く、脳に大きな負荷のかかる文体で描かれる大統領の一代記。ちなみに「情報量」とは役に立つという意味ではまったくない。一文で伝わってくる感覚、感情、イメージ量が圧倒的に多いということで、別に物語進行上必要不…
近年の町田康作品における突き抜けた傑作。バランスの取れたエンターテインメント性よりも、初期作品に通じる文学的な過剰性が随所で優先されているように見える。せっせと拵えた設定を自らの手により積極的破綻に追い込む狂気のテンション。
小島信夫らしい因果律の狂いは一貫しているが、作風は案外バラエティに富んでいる。前半の数作はカフカ的あるいは安部公房的不条理文学。後半はやや私小説的な作品が並ぶ。「抱擁家族」はもちろん名作だが、それ以上にその原型である短篇「馬」のほうが個人…
今やっている櫻井翔版ドラマ『家族ゲーム』が、あまりに素晴らしい。今のところ(5話目終了時点)平均視聴率が12%程度であることが不思議なほどだが、あの展開についていけるほどの積極的姿勢がテレビ視聴者にないというのも、わからないではない。その原作…
毎度のことながら、発売前から毀誉褒貶激しい村上春樹の最新作。しかしそれが純粋に作品に向けられたものであるかどうかは、相変わらず疑わしい。何しろ発売前から賛否両論あるのだから。でもその気持ちはわかるし、かなり意図的に視界を狭めて情報を遮断し…
個人的には中原昌也・青木淳悟・福永信という芥川賞未受賞作家の三人こそが、ここしばらく日本文学の先頭を走っていると思っている。そんな福永信の最新作はもちろん問題作。「スマートフォンを海へ投げ捨て、貝がらを耳にあてろ!」という謎の帯文が、ふざ…
ストーリー皆無。人格不在。もちろん作者の「言いたいこと」など何ひとつ書かれてはいない。史上最も国語入試問題に不向きな小説の誕生。しかし何気ない描写がいちいち面白く、だがそこに物語的な面白さは一切ないと言い切れるのが凄い。描かれているのはた…
何か特殊な設定を持つ作品を書くときに、作家は取材を必要とすることがある。だが取材はしすぎるとその調べた現実から飛躍しきれなくなり、逆にイマジネーションを限定するケースも少なくない。ドイツの修道院に住む尼僧たちの人間模様を描く本作を執筆する…
物語全体の流れや構成を考えれば、悪く言えば「蛇足」、良く言えば「補足説明」といった感の強いこのBOOK3だが、だからこそ発揮されている面白さというのもまた確実にある。それは「ストーリーを前に進めなければならない」という義務感から開放されたことで…
これはつまり大ボスを倒した後のピロートークなのだ。たとえば漫画でもRPGでもいい。少年漫画ならば連載を長続きさせるための引き延ばし工作であるし、RPGならばもはや決まりごとのように「クリア後の世界」が期待されている。だがそういった「その後の世界…
楢山節考 (新潮文庫)作者:七郎, 深沢発売日: 1964/08/03メディア: 文庫日本文学史上の名作とされる「楢山節考」。しかし期待に反して表題作は特別面白いとは感じなかった。良くある昔話というくらいの印象。もちろん上手いが。ここではむしろ、この中に収録…
とにかくすべてに必然性があって、一切の無駄がない。あるいはすべての要素が、まったく無駄に浪費されているように見える。それが筒井康隆の小説であり、エンターテインメントと純文学の融合ということである。特にこの作品は、その次元が高い。すべてに意…
裸で街を歩きまわる男になどまったく共感などできないのに、面白いうえに感動さえできてしまうというのは、一体どういうことなのだろうか。そんなことがありえるのだろうか。おそらくは作者でさえ、この小説の主人公である細川には、基本的に共感できていな…
村上春樹『1Q84』に関して、すでに書評集のようなものも出ていますが、とりあえず無料でいろいろな意見を聴きたいという方は、以下の仲俣暁生氏のブログで紹介されている2つのポッドキャストを聴くと良いと思います。(いちおうここでもポッドキャストへのリ…
村上春樹の『1Q84』はたしかに力作なのだが、今という時代において彼の言葉から匂い立つ「致命的なダサさ」についての批判がなさすぎると感じている。相変わらずのレモンドロップ&自作サンドウィッチといい、ジャズやクラシックを賛美しロックを無条件に見…