泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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2020-01-01から1年間の記事一覧

短篇小説「坂道の果て」

大学受験当日の朝、満員電車から予定通りスムーズに脱出した嶋次郎は、受験会場である志望校へと続く坂道を歩いていた。右へ左へうねりながら延々と続くその登り坂は、まるでこの一年間の道のりのようだなと思いながら。 だが嶋次郎がこの道を辿るのは初めて…

短篇小説「土下男」

土下男はすぐに土下座ばかりするから土下男と呼ばれている。名前はまだない。なんてことはないが誰も彼を本名で呼んだりはしない。彼が死んだら、間違いなくその戒名には土下男の三文字が含まれるだろう。だが土の下に埋められるにはまだ早いと言っておく。 …

短篇小説ブログ出戻りのお知らせ~早すぎるカムバックサーモン~

先月、こんなお知らせをしたばかりですが……。tmykinoue.hatenablog.comさっそくですが退却戦のお知らせです(笑)。これは長坂の戦いか姉川の戦いか。しんがりは張飛と猿と麒麟にまかせます。燕人張飛は橋の上に。短篇小説部門を独立させた新規ブログを開設…

書評『一九八四年』/ジョージ・オーウェル

誰もが認めるディストピア小説の代表作である。読んでみるとたしかにそうだと言わざるを得ない。同じ作者の『動物農場』と比べても、ちょっとレベルが違う。徹頭徹尾、とにかく示唆に富んでいる。物語の端々から発せられるのは、現代社会への警告であり人類…

2020年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

1位「Runner Of The Railways」/MARKO HIETALA元TAROT、現NIGHTWISHのマルコ・ヒエタラ初のソロ・アルバムより、もっとも初期TAROTっぽいこの文字通りの疾走曲を。曲名から真っ先に思い浮かべたのはIRON MAIDENの「The Loneliness Of The Long Distance Run…

2020年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

1位『WE ARE THE NIGHT』/MAGNUS KARLSSON'S FREE FALLウィー・アー・ザ・ナイトアーティスト:マグナス・カールソンズ・フリー・フォール発売日: 2020/06/10メディア: CD敏腕職人ギタリストと新旧実力派ヴォーカリストたちの共演。正統派HR/HMの新たなる教…

書評『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』/デヴィッド・グレーバー

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論作者:デヴィッド・グレーバー岩波書店Amazon僕はこれまでことあるごとに、「日本では、どういうわけか楽しそうに仕事をしている人の給料が安い」と感じてきた。思い知らされてきたと言ってもいい。もちろん、…

ジョージOL

じゃなくてジョージ・オーウェルを最近ようやく読みはじめた。このタイトルから、OLの格好をした高橋ジョージを期待してしまった人には本当に申し訳ない。著者近影を見る限り、髪型は少し似ているかもしれないが。なぜ今ジョージを読もうと思ったかといえば…

短編小説専門ブログ開設のご案内

このたび、当ブログの短編小説部門を独立させて、『机上の変~不条理短編小説工房~』https://desktopincident.hateblo.jp/という新規ブログを立ち上げることにしました。実のところ、これはしばらく前からの懸案事項でして。2008年末からやってきたこのブロ…

馬鹿擬音語小説「ギュンギュンのウ~ン」

擬太郎がバーンと開けてガチャッと回しザッザッザッと降りると、空はスカッではなくドンヨリとしてシトシトと降っていた。ザーザーというほどではないしもちろんザンザンにはほど遠い。 マンションのエントランスをパカーンと出た擬太郎は、トントンしていた…

今さラー油

先日スーパーでラー油を買おうと思い、久々にラー油売り場を覗いてみたところ、かつてその画期的なネーミングセンスで一大ブームを巻き起こしたあれと目が合った。 『辛そうで辛くない少し辛いラー油』 懐かしかった。目頭が熱くなった。熱くなりそうで熱く…

短篇小説「未遂刑事」

未遂刑事は未遂事件しか扱わない特殊な刑事だ。彼が関わる事件は殺人未遂、強盗未遂など未遂事件ばかりであり、その解決もまた未遂に終わることを運命づけられている。 未遂刑事の行動は仕事に限らず日常の些事に至るまで、何事も未遂に終わる。だから彼は未…

短篇小説「連鎖」

小雨が降ってきた。まだ降りはじめなので、誰も傘を差していない。日傘の季節でもなかった。 駅前の商店街を歩いているひとりの紳士が、ブリーフケースから取り出した折りたたみ傘をパッと広げた。するとその脇を通りかかった父親の腕の中にいる赤ん坊が、口…

ショートすぎるショートショート「恐怖! 座り漕ぎ男」

サドルの上に立って進む立ち漕ぎ男の脇を、座り漕ぎ男が追い抜いてゆく。座り漕ぎ男は文字通り、地面に座ったまま自転車を漕いでいる。 www.youtube.com tmykinoue.hatenablog.com

ショートすぎるショートショート「立ち漕ぎ男」

男が自転車を立ち漕ぎしている。 文字通り、サドルの上に立って。 www.youtube.com

短篇小説「自動音声ダイヤル」

はい、お電話ありがとうございます。こちらはヒューマン・インスティンクト・テンプル・カンパニー、サポートセンターでございます。 この電話は、自動音声ダイヤルとなっております。通話には、20秒ごとに10円の料金がかかります。場合によっては、10秒ごと…

「新語・流行語全部入り小説2020」

コロナ禍ですっかりテレワーク慣れしたアマビエが、いっちょまえにZoom映えを意識してアベノマスクに香水を振りかけた。マスクに香水を振りかけたところで、においはどんな電波でも伝わらないのだから、アマビエが画面越しに映えることは一切なかった。 本来…

短篇小説「あれ」

ある朝のことである。家を出て駅へと向かう道すがら、私は「あれ」を家に忘れてきたことに気づいた。私はいますぐに「あれ」を取りに帰るべきだろうか。だが「あれ」がなくても、今日一日くらいなんとかなるだろう。そう思って私は踵を返すことなく、いつも…

短篇小説「違いがわかる男」

判田別彦は違いがわかる男だ。彼に違いがわからないものはない。いや、わからない違いはないと言うべきか。もちろん「レタス」と「キャベツ」の違いだってわかる。 いい感じなほうが「レタス」で、そうでもないほうが「キャベツ」だ。 別彦にかかれば、「牛…

書評『穴』/小山田浩子

穴 (新潮文庫)作者:浩子, 小山田発売日: 2016/07/28メディア: 文庫「穴」というモチーフには、なぜだか常にワクワク感がある。だからカフカも安部公房も村上春樹も穴を使う。ということはつまりカフカが使ったからか。影響関係を考えると。その題材の強さの…

短篇小説「品書きのエモい料理店」

誰もがグルメグルメとほざく昨今、私はいよいよ通常の美味いだけの料理では飽き足らなくなってしまった。料理とは、ただ物理的に美味いだけで良いのだろうか。演奏の上手いだけの音楽が味気ないように、美味いだけの料理というのもまた、文字どおり味気ない…

台風狂想曲

とりあえず、何かにつけて「最大級」的な文言があちこちに躍っていた台風10号の被害が思ったほどではなくて勝手にひと安心しているが、それでももちろん被害に遭っているかたもあると思うし、むしろこれからがシーズン本番であると考えるべきかもしれない。…

客中求人4~「お客様の中に、○○なかたはいらっしゃいませんか?」~

《アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ。機内でトラブルが発生いたしました。お客様の中に、これから申し上げる条件に該当するお客様がおられましたら、お近くのキャビン・アテンダントまでお声掛けくださいますと幸いです》 「お客様の中に、ク…

書評『声の網』/星 新一

これは物語のふりをした、世界一読みやすい予言の書であるかもしれない。予言の書は予言が現実化する前に読まねば意味がないように思われるが、いざ見事にすべてが現実化してしまったあとのいま読んでこそ、背筋の凍る答えあわせが楽しめるというメリットも…

短篇小説「耳毛をちぎらないで」

真夜中の路地裏。濡れた壁面に押しつけられ、片耳細コードイヤホンの北村が、大型ふかふかヘッドホンの西沢に左手で胸ぐらを掴まれている。大型ふかふかヘッドホンの西沢は、片耳細コードイヤホンの北村の胸元で自分を挑発するように揺れ動くコードを、右手…

短篇小説「ベバルの誤塔」

十年かけて、ついに私は金字塔を打ち立てた。いや実際には金字塔ではなく、隣の塔にそっくりな近似塔なのであった。 高さもデザインも内装もまったくそっくりな違法建築である。そもそも隣の塔が違法建築なのだから、それを真似したらそうなってしまうのは仕…

ディスクレビュー『MIDNIGHT EMPIRE』/ONE DESIRE

Midnight Empireアーティスト:One Desire発売日: 2020/05/22メディア: CDヨーロッパとアメリカの中間地点が、フィンランドにあったとは。正確に言えば「欧州ヘヴィ・メタル」と「アメリカン・ハード・ロック」の中間地点だが、そんな「欧米折衷」を理想に近…

レジ袋有料化後の世界

いま我々は、レジ袋有料化以後の世界に生きている。もうあと戻りはできない。いや、しようと思えばできるんだろうけど。レジ袋が完全有料化されたおかげで、あちこちで珍妙な光景を頻繁に見かけるようになった。弁当と缶コーヒーと漫画雑誌を両手いっぱい胸…

短篇小説「AでもないBでもない」

背が高くも低くもない、特に男っぽいわけでも女っぽいわけでもない男が、お昼すぎとも夕食前とも言えない時間帯に、定食屋にもレストランにも見えない飲食店で、昼定食でもランチでもない何かを食べていた。男のほかに客はいなかった。 男が店に入ってきた瞬…

短篇小説「逆接族」

つい先日、関東地方にいわゆる「火球」が落下したのは記憶に新しい。だがそれはもちろん、一般市民の混乱を防ぐために画策された、為政者サイドによる隠蔽工作に過ぎない。実際には皆さんご期待のとおり、そのとき未確認飛行物体が地球上に着陸したのである…

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