- アーティスト:One Desire
- 発売日: 2020/05/22
- メディア: CD
ヨーロッパとアメリカの中間地点が、フィンランドにあったとは。正確に言えば「欧州ヘヴィ・メタル」と「アメリカン・ハード・ロック」の中間地点だが、そんな「欧米折衷」を理想に近い形で実現しているのが北欧のバンドであるというのが興味深い。
あるいはむしろ、どちらの中心地でもないからこそ、躊躇なく両者を取り込んで遠慮なく混ぜあわせることができるのかもしれない。フィンランド産メロディアス・ハード、充実の二枚目である。
これまで、欧州HMと米HRを理想的なバランスで融合させたバンドの代表格は、6th『ELECTRIFIED』以降のPINK CREAM 69だと個人的には思っている。特にその『ELECTRIFIED』の冒頭を飾る「Shame」は、HR/HM屈指の名曲である。
だがPC69の場合、そもそものメンバー構成が欧米混合軍であったから、両者を掛けあわせた音楽的方向性に不思議はない。しかし中心人物と目されていたアンディ・デリスを失ってから、迷走逡巡しつつ欧米の中心地点にようやくたどり着いたという一筋縄ではいかないプロセスには、妙な説得力がある。
アンディがいた初期もヨーロッパ的哀愁とアメリカンな明るさは共存していたが、それよりもアンディという「個」が際立っていたのだということに、我々は彼が加入したHELLOWEENの自作楽曲を聴いて気づかされることになった。
ゆえにPC69というバンドとしての音楽的完成度は、アンディ時代の初期二枚よりも、『ELECTRIFIED』以降に軍配が上がると僕は思っている。個人的には初期二枚にも好きな曲、というよりクセになる曲は多いが、そこにはバンドというよりもアンディ印が色濃く刻印されているように見える。
さて、なぜこんなにもPC69の話をしているかというと、それはONE DESIREの本作を聴いて真っ先に思い浮かべたのが、まさに6th以降のPC69であったからである。
かといって、特に楽曲自体が似ているとか、フレーズ単位で明確な影響がうかがえるというわけではない。というよりはもっと質感的な部分、それこそ欧州HMと米HRのちょうど中間地点に焦点をあわせた配合比率に、とても近いものを感じるのである。そしてその比率は、ある種の「黄金比率」なのかもしれない、とも。
欧州的哀愁と、アメリカンな爽快感の両立。あるいは前者を強く求める向きには泣きが足りず、後者を欲する向きには湿度が高すぎると言われてしまうかもしれない。
だがその両極にあらずとも、昔のラジオで端からダイヤルを回していくとどこかでちょうどラジオの周波数にあわさるように、それらの中間地点にも琴線に触れる場所は確実にいくつも存在している。
明るさの裏にも哀しみはあり、絶望的な表情よりも笑顔に隠された哀しみのほうがグッと来ることもある。ある種の青春的甘酸っぱさ、と言ってもいいかもしれない。もしくは今様に言えば「エモい」のひと言になるのかもしれないが(いや、音楽用語で「エモ」ってのはとっくの昔からあったんだけども)。
一方で彼らの音楽性の根底には、同じく北欧のTREAT(当ブログの2018年間ベスト・アルバム1位に選出)やECLIPSE(同じく2019年1位)にも通じる透明な美旋律があり、欧米折衷とは言いながらも、やはり北欧のバンドにしか紡ぎ出せぬメロディがあると痛感させられる場面も少なくない。特に本編ラストを締めくくる⑩「Only When I Breath」が放つ雨に濡れた哀しみは圧巻で、最後に強烈な余韻を残す。
2ndでここまで来てしまったら、次作以降いったい何をやれば良いのかと余計な心配をしたくもなる。メロディ至上主義者を自認する者は、とりあえず聴いてみるにしくはない一枚。
【この作品をチェックした人(筆者)はこんな作品もチェックしています(笑)】
- アーティスト:ピンク・クリーム69
- 発売日: 1998/09/23
- メディア: CD