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ディスクレビュー『WE ARE THE NIGHT』/MAGNUS KARLSSON'S FREE FALL

良く言えば引っ張りだこ、悪く言えば尻軽もしくは器用貧乏なギタリスト、マグナス・カールソンの名を冠した「本業バンド」待望の3rdアルバムである。

先に言っておくがたぶん今年の年間ベスト・アルバムは本作で決まりだろう。まだ半年残しているのに気が早いが、このレベルの作品にはそうそう出会えるものではない。おかげで近ごろはこればかり聴いていて、いっこうにそのループから抜け出せそうにない。

だがそれはむしろ、一聴したときのインパクトがさほどでもなかったからかもしれない。人によっては、どの曲も決め手に欠けると感じる可能性もある。しかしそもそもマグナス・カールソンとは、そういう曲を書く人なのだ。表面のインパクトよりも、その奥にあるクオリティで勝負する職人芸。

方向性はキャッチーなのに、派手さはない。オーソドックスなプレーン味なのに、不思議とクセになる。だからこそ彼は、業界で重宝されているのだろう。これはあからさまに個性を前面に押し出すよりも、むしろ難しいことをやっているとも言える。これはこれで、代えのきかない存在である。

とはいえ近年の、まるで生き急いでいるような常軌を逸した多作っぷりには正直疑問を感じていたのも事実。今さらPRIMAL FEARに入る必然性はまったく感じなかったし、同じく引く手あまたのロニー・ロメロと組んだTHE FERRYMENもALLEN/OLZONも、悪くはないが絶賛するほどでもない。

かつてLAST TRIBEの楽曲群に衝撃を受けた身としては、さすがに大量生産による才能の消耗を感じざるを得ない段階に来ていた。だがやはり彼の創作活動における本丸は、このMAGNUS KARLSSON'S FREE FALLにあったようだ。他のプロジェクトに提供している楽曲とは、やはり本人の名義を背負っているぶんだけクオリティが違う。

その質の違いは、一聴したところあまりわからないかもしれない。だが聴き込んでいくと、やがてそれが決定的な違いであることに気づく。個性よりも純粋に質で勝負する世界とはそういうものだ。

アルバム単位で言うならば、キャッチーなメロディが目白押しな1stと、そこからややエッジを強めた王道パワー・メタルの2ndのいいとこ取りを目論んだこの3rd、といった方向性。実に着実な一歩である。

毎度注目のヴォーカリスト選考に関しては、DIRTY SHIRLEYのディノ・ジェルシックとELECTRIC MOBのレナン・ゾンタという、ブルージーな新鋭二人を抜擢してきたのが面白い。

確かな歌唱力を持つ二人はいずれも様式美を難なく歌いこなし、自らの可能性の幅を広げることに見事成功している。かつてのリッチー・ブラックモアイングヴェイ・マルムスティーンがそうであったように、マグナス・カールソンもまた歌い手発掘人たる名伯楽の血統を受け継いでいる。

特にゾンタの歌う⑤「Dreams And Scars」は本作のハイライトのひとつだろう。彼の歌はもう、一語一語の発音レベルからして隅々まで格好よさと気持ちよさに溢れている。技術的にはもちろん、よりブルージーな歌いまわしが許されているELECTRIC MOBのほうが際立つのだが、やはりこのマグナス・カールソン楽曲の質の高さに乗ると、歌手としての格が一段階上がる印象がある。

そして個人的なベスト・チューンは⑥「All The Way To The Stars」。聴けば聴くほど心に残る、ストレートなのに頭から離れなくなる透明度の高いメロディ。当初はサビ裏で鳴っている安っぽいシンセ音(かつて一世を風靡した芸人はんにゃの「ズグダンズンブングンゲーム」の前段で流れる「ツッチーツッチーツッチーツッチー」みたいな効果音)が妙にダサくて邪魔だと感じていたが、いつのまにかそれが不可欠だと感じられるようになり、やがてはこの音こそがむしろ裏で楽曲の鍵を握っているのではないかとすら思えてくるアレンジの妙。

そしてアルバム終盤、お馴染みのトニー・マーティンが歌う⑫「Far From Over」のフィット感はいったい何事だ? 出だしのアレンジからして様式美BLACK SABBATHの傑作『TYR』風味全開であり、名曲「Cross Of Thorns」のようでもあるという完全マーティン仕様。とはいえそれらを超えているわけではないけれど、作曲者から歌い手への圧倒的リスペクトが感じられる様子が実に微笑ましい。

全体としてやや派手さに欠けるきらいはあるため、大声で「名曲揃い」とは微妙に言いにくいのだが、「佳曲揃いの名作」という言葉ならば本作にふさわしい。しかしこれは「佳曲揃いの佳作」などではなく、佳曲がズラリと並べばそれはもはや佳作ではなく「名作」へと自動的に格上げされるのだということを、見事に証明してくれる。聴き込んだぶんだけ誠実にクオリティで返してくれる、匠の一枚である。


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