泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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2020-01-01から1年間の記事一覧

短篇小説「鶴太郎の恩返し」

むかしむかし、北の国の山奥に、とある老夫婦が住んでいた。ひどく雪の多い冬だった。 ある日、お爺さんはたまの晴れ間を縫うように、森へ柴刈りに行った。森の奥へと歩いてゆくと、さっきからずっと鳥の鳴く声がしていることに気づいた。それは「キューちゃ…

短篇小説「鶴よ恩返せ」

むかしむかし、北の国の山奥に、とある老夫婦が住んでいた。ひどく雪の多い冬だった。 ある日、お爺さんはたまの晴れ間を縫うように、森へエロ本を拾いに出かけた。山道の脇に、よく落ちているのだった。お婆さんには「柴刈りに行く」と嘘をついて出てきた。…

短篇小説「某校の卒業式」

今日は晴れて我が校の卒業式であった。それはこのたび、晴れて卒業を迎えた私にとって忘れられぬ卒業式となった。忘れるほうが難しい、といったほうが正確かもしれない。 我が校の卒業式は、廃線となったかつての最寄り駅のホームを貸し切りにして行われる。…

電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』無料配布キャンペーンのお知らせ

このたび、久々に拙著電子書籍の無料配布キャンペーンを開催することにしました。そうです。このたびの新型コロナウイルス絡みで、いろんなところが部屋にこもらざるを得ない子供たちのためにと、無料キャンペーンを行っているのを見て、僕も何かしなければ…

短篇小説「アバウト刑事」

トレンチコートのようでトレンチコートでないような、いやコートとすら言えないかもしれないアバウトな上っ張りの襟のような一帯を立て、今日もアバウト刑事が事件の捜査を開始する。具体的にそれがどんな事件かと問われれば答えようがない。なぜならば彼は…

書評『ハンバーガー殺人事件』/リチャード・ブローティガン

「人生は選択の連続である」という言葉がある。自分でもそれを痛感することは多い。試しに検索窓にそう入力してみると、「シェイクスピア」や「ハムレット」といった関連ワードが出てくるが、もう少し調べるとシェイクスピアの『ハムレット』にそのような言…

トイレットペーパーの変

新型コロナウイルス絡みのデマに踊らされてトイレットペーパーを買い占めた奴らの部屋に、アメマバッジの大量在庫が降り注ぐといい。アメマバッジがわからない人は、ぜひこちらを読んでみてほしい。泣きながら笑えると思う。二・三個なら僕だってだいぶ欲し…

書評『モレルの発明』/アドルフォ・ビオイ=カサーレス

モレルの発明 (フィクションの楽しみ)作者:アドルフォ ビオイ=カサーレス出版社/メーカー: 水声社発売日: 2008/10メディア: 単行本ガルシア=マルケス、ボルヘスとともに南米文学を代表するカサーレスの代表作、らしい。「カサーレス」=「傘レス」=「傘がな…

短篇夢小説「目覚めのチャーハン」

引っ越したばかりの新居で目を覚ました私は、どうやら自分が床で寝ていたことに気づいた。そんなことはこれまで一度もなかった。引っ越したてなのでまだベッドがないのかもしれなかった。しかし引っ越すとしたら、真っ先に寝床の心配をするのが自分であるよ…

企画倒れの「五字熟語」

思いついたときは電球が光るようなひらめきを感じたのに、いざ本腰を入れて考えてみるとちっとも面白くないということはよくある。いわゆる企画倒れというやつである。世の中の企画書の冒頭に書かれているのは、大半がこのようなアイデアと相場が決まってい…

短篇小説「ドーナツ化商談」

「なんだこれは。話が違うだろう!」 「違うってほうが違いますよ」 「今どきこんな大きいの、誰が買うんだよ」 「大きくないですよ。むしろこれが小さいっていう人が古いんですよ」 「これが大きくなかったら何が大きいと?」 「そら十年前だったらこれでも…

短篇小説「絵馬神」

絵馬専門の神を「絵馬神」という。絵馬というのはもちろん、願い事を書いて吊るす五角形のアレである。近ごろは神様の仕事も分業化が進んでおり、絵馬神は絵馬に書かれた願いごとを叶えること以外やってはいけないことになっている。いわゆる働き方改革とい…

映画評『パラサイト 半地下の家族』

この作品、とにかくTwitterで僕の信頼している映画好きの人たちが絶賛していて、居ても立ってもいられず観に行ってしまった。そういう場合、鑑賞前に期待のハードルが上がりきって越えられないことが少なくないが、本作に関しては見事に越えてきた。〈半地下…

短篇小説「理由あり不動産」

更新を二ヶ月後に控え、目下賃貸物件を探して商店街を練り歩く憑彦が不動産屋の前を通りかかったのは、まさに運命というほかないだろう。その程度のお安い運命ならばどこにでも転がっている。 路上に設置された立て看板には、〈リーズンホワイ〉という店名が…

短篇小説「失礼くん」

「失礼しま~す!」 今日も失礼くんが、元気よく知らない家に上がりこんでゆく。もしもあなたが彼に失礼されたくないのなら、この時点で「失礼しないでください!」と即座に返答しなければならない。さもなくば、失礼くんはこのひとことが受け入れられたこと…

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