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短篇小説「抽選の多い料理店」

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 近ごろ、美食家兼ギャンブル好きのあいだで評判のレストランがあるという。その店は、「抽選の多い料理店」と呼ばれている。

「抽選の多い料理店」を訪れるには、まず抽選に当たらなければならない。なにしろ「抽選の多い料理店」なのだから、当然の話である。しかしこの入店権を得るまでの道のりも、やはりひと筋縄ではいかない。

 この店の噂を耳にした人間は最初、必ずやインターネットの検索窓に「抽選の多い料理店」と入力して店のことを調べる。驚くべきことに、この段階で早くも抽選が行われているとも知らずに。

 そこで表示された検索結果一覧に店側の用意した抽選ページが表示される人は、ごく少数に限られている。同じワードを入力した多くの人の検索結果には、「抽選の多い料理店」にまつわる情報など一件たりとも表示されることはない。それはもうすでに、抽選で落とされていることを意味している。本人が落とされていることにさえ気づかないうちに。

 この段階で落とされた人にとって、「抽選の多い料理店」とは、実在の店舗ではなく単なる都市伝説として処理されることになる。すっかり「検索社会」となったこの現代において、検索に引っかからないものは、すなわち存在しないものとして扱われるからである。

 さて、ここで万が一、貴殿の検索一覧に「ようこそ抽選の多い料理店へ。抽選はこちら」という幸運な文字列が並んでいたとしよう。喜び勇んだ貴方は、その文字列を迷わずにクリックすることだろう。

 しかし大半の場合、その先に立ち上がるのは「抽選の多い料理店」の抽選ページなどではなく、海外発の怪しいエロサイトと相場が決まっている。ここでもまた、抽選が行われているというわけだ。まるであなたの食欲が、確実に性欲を凌駕しているのか否かを試してでもいるように。

 ここで「抽選の多い料理店」の抽選ページが立ち上がった貴方は、すでに相当な幸運の持ち主といっていい。抽選ページの真ん中に表示される「抽選はこちら」と表記されたバナーをクリックすると、次に表示されるのは「抽選整理券の抽選はこちら」というバナーである。

「抽選の多い料理店」への入店権を手に入れるための抽選を受けるにはまず、その前に「抽選整理券」というものが必要であり、その「抽選整理券」を入手する段階においてもまた、当然のように抽選が行われるのである。

 ここまで来るとすでに奇跡的な確率となるが、引き続きすべての抽選に当たり続けてゆくという前提で、当選ルートに則って話を続けよう。晴れて「抽選整理券」を入手し、そのクーポンコードを入力して次の入店権の抽選にもさらに当選した奇跡の人には特別なページが現れ、一週間後に招待状が郵送されてくるとの内容が画面上で伝えられる。 

 この特別な招待状は、まず「抽選の多い料理店」で働く店員の手により最寄りの郵便局へ持ち込まれ、店員はそのまま郵便局裏に設置された小屋へと通される。その小屋には薄汚れた一匹のヤギが鎮座しており、店員はポストではなく、ヤギの口へその手紙を投函することになる。

 そこでヤギが手紙をうまうまと食べてしまえば、当たり前だがその招待状は届かない。つまりそれは、抽選ではずれたことを意味するだろう。

 だが逆に、もしもヤギが手紙を噛まずに吐き出してくれたならば、その手紙は改めて郵便局員の手によって確実に配達される。「抽選の多い料理店」から手元に届いた招待状が、雨でもないのに必ずや微妙にふやけて異臭を放っているのは、ここでヤギがいったん口に入れているからに他ならない。

 そうしてようやく届いた招待状にも、やはり当たりとはずれがあるのは言うまでもない。だがここでのはずれには、「小はずれ」と「大はずれ」の二種類が存在する。

「大はずれ」の招待状には、ただ料理のメニューと営業時間が載っているのみであり、そこには店の住所も地図も一切記載されていない。

 一方で「小はずれ」の招待状には、メニューの裏面に文字を使わず絵だけで構成されたアバウトな店の地図が描かれている。ただしこちらも住所はもちろんのこと、最寄り駅の名前や近所の店名といった、地域を特定するために必要不可欠な文字情報はひとつも書かれてはいない。

 この「小はずれ」の招待状を手がかりに、なんとか店の場所を特定しようと躍起になる人も中にはいるというが、それで店舗を探りあてた者はいまだかつていないという。つまりどっちにしろ「はずれ」であることには変わりないのである。

 さて、ここまで来るとすっかり天文学的な確率になってくるが、逆に言えばもはや「抽選の多い料理店」に辿りついたも同然である。あとは招待状の地図と住所を頼りに、営業時間内に現地へ向かえば良い。

 そしておそろしく運の良い貴方は、今ようやく「抽選の多い料理店」の入口に立っている。だがその古びた木の扉は営業時間内であるにもかかわらず、固く閉ざされている。扉の中央には一枚の貼り紙があり、そこにはこう書かれているだろう。

「当選者の発表は、賞品の発送をもって代えさせていただきます」

 後日、料理が自宅に届けられたという話を、私はいまだかつて聞いたことがない。


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