泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

馬鹿擬音語小説「ギュンギュンのウ~ン」

擬太郎がバーンと開けてガチャッと回しザッザッザッと降りると、空はスカッではなくドンヨリとしてシトシトと降っていた。ザーザーというほどではないしもちろんザンザンにはほど遠い。 マンションのエントランスをパカーンと出た擬太郎は、トントンしていた…

今さラー油

先日スーパーでラー油を買おうと思い、久々にラー油売り場を覗いてみたところ、かつてその画期的なネーミングセンスで一大ブームを巻き起こしたあれと目が合った。 『辛そうで辛くない少し辛いラー油』 懐かしかった。目頭が熱くなった。熱くなりそうで熱く…

短篇小説「未遂刑事」

未遂刑事は未遂事件しか扱わない特殊な刑事だ。彼が関わる事件は殺人未遂、強盗未遂など未遂事件ばかりであり、その解決もまた未遂に終わることを運命づけられている。 未遂刑事の行動は仕事に限らず日常の些事に至るまで、何事も未遂に終わる。だから彼は未…

短篇小説「連鎖」

小雨が降ってきた。まだ降りはじめなので、誰も傘を差していない。日傘の季節でもなかった。 駅前の商店街を歩いているひとりの紳士が、ブリーフケースから取り出した折りたたみ傘をパッと広げた。するとその脇を通りかかった父親の腕の中にいる赤ん坊が、口…

ショートすぎるショートショート「恐怖! 座り漕ぎ男」

サドルの上に立って進む立ち漕ぎ男の脇を、座り漕ぎ男が追い抜いてゆく。座り漕ぎ男は文字通り、地面に座ったまま自転車を漕いでいる。 www.youtube.com tmykinoue.hatenablog.com

ショートすぎるショートショート「立ち漕ぎ男」

男が自転車を立ち漕ぎしている。 文字通り、サドルの上に立って。 www.youtube.com

短篇小説「自動音声ダイヤル」

はい、お電話ありがとうございます。こちらはヒューマン・インスティンクト・テンプル・カンパニー、サポートセンターでございます。 この電話は、自動音声ダイヤルとなっております。通話には、20秒ごとに10円の料金がかかります。場合によっては、10秒ごと…

「新語・流行語全部入り小説2020」

コロナ禍ですっかりテレワーク慣れしたアマビエが、いっちょまえにZoom映えを意識してアベノマスクに香水を振りかけた。マスクに香水を振りかけたところで、においはどんな電波でも伝わらないのだから、アマビエが画面越しに映えることは一切なかった。 本来…

短篇小説「あれ」

ある朝のことである。家を出て駅へと向かう道すがら、私は「あれ」を家に忘れてきたことに気づいた。私はいますぐに「あれ」を取りに帰るべきだろうか。だが「あれ」がなくても、今日一日くらいなんとかなるだろう。そう思って私は踵を返すことなく、いつも…

短篇小説「違いがわかる男」

判田別彦は違いがわかる男だ。彼に違いがわからないものはない。いや、わからない違いはないと言うべきか。もちろん「レタス」と「キャベツ」の違いだってわかる。 いい感じなほうが「レタス」で、そうでもないほうが「キャベツ」だ。 別彦にかかれば、「牛…

書評『穴』/小山田浩子

穴 (新潮文庫)作者:浩子, 小山田発売日: 2016/07/28メディア: 文庫「穴」というモチーフには、なぜだか常にワクワク感がある。だからカフカも安部公房も村上春樹も穴を使う。ということはつまりカフカが使ったからか。影響関係を考えると。その題材の強さの…

短篇小説「品書きのエモい料理店」

誰もがグルメグルメとほざく昨今、私はいよいよ通常の美味いだけの料理では飽き足らなくなってしまった。料理とは、ただ物理的に美味いだけで良いのだろうか。演奏の上手いだけの音楽が味気ないように、美味いだけの料理というのもまた、文字どおり味気ない…

台風狂想曲

とりあえず、何かにつけて「最大級」的な文言があちこちに躍っていた台風10号の被害が思ったほどではなくて勝手にひと安心しているが、それでももちろん被害に遭っているかたもあると思うし、むしろこれからがシーズン本番であると考えるべきかもしれない。…

客中求人4~「お客様の中に、○○なかたはいらっしゃいませんか?」~

《アテンション・プリーズ、アテンション・プリーズ。機内でトラブルが発生いたしました。お客様の中に、これから申し上げる条件に該当するお客様がおられましたら、お近くのキャビン・アテンダントまでお声掛けくださいますと幸いです》 「お客様の中に、ク…

書評『声の網』/星 新一

これは物語のふりをした、世界一読みやすい予言の書であるかもしれない。予言の書は予言が現実化する前に読まねば意味がないように思われるが、いざ見事にすべてが現実化してしまったあとのいま読んでこそ、背筋の凍る答えあわせが楽しめるというメリットも…

短篇小説「耳毛をちぎらないで」

真夜中の路地裏。濡れた壁面に押しつけられ、片耳細コードイヤホンの北村が、大型ふかふかヘッドホンの西沢に左手で胸ぐらを掴まれている。大型ふかふかヘッドホンの西沢は、片耳細コードイヤホンの北村の胸元で自分を挑発するように揺れ動くコードを、右手…

短篇小説「ベバルの誤塔」

十年かけて、ついに私は金字塔を打ち立てた。いや実際には金字塔ではなく、隣の塔にそっくりな近似塔なのであった。 高さもデザインも内装もまったくそっくりな違法建築である。そもそも隣の塔が違法建築なのだから、それを真似したらそうなってしまうのは仕…

ディスクレビュー『MIDNIGHT EMPIRE』/ONE DESIRE

Midnight Empireアーティスト:One Desire発売日: 2020/05/22メディア: CDヨーロッパとアメリカの中間地点が、フィンランドにあったとは。正確に言えば「欧州ヘヴィ・メタル」と「アメリカン・ハード・ロック」の中間地点だが、そんな「欧米折衷」を理想に近…

レジ袋有料化後の世界

いま我々は、レジ袋有料化以後の世界に生きている。もうあと戻りはできない。いや、しようと思えばできるんだろうけど。レジ袋が完全有料化されたおかげで、あちこちで珍妙な光景を頻繁に見かけるようになった。弁当と缶コーヒーと漫画雑誌を両手いっぱい胸…

短篇小説「AでもないBでもない」

背が高くも低くもない、特に男っぽいわけでも女っぽいわけでもない男が、お昼すぎとも夕食前とも言えない時間帯に、定食屋にもレストランにも見えない飲食店で、昼定食でもランチでもない何かを食べていた。男のほかに客はいなかった。 男が店に入ってきた瞬…

短篇小説「逆接族」

つい先日、関東地方にいわゆる「火球」が落下したのは記憶に新しい。だがそれはもちろん、一般市民の混乱を防ぐために画策された、為政者サイドによる隠蔽工作に過ぎない。実際には皆さんご期待のとおり、そのとき未確認飛行物体が地球上に着陸したのである…

短篇小説「誰得師匠」

今日も劇場の楽屋は誰得師匠のおかげでてんやわんやである。楽屋口から出たり入ったりしながら、トイレへ行った一瞬の隙に連れてきた鳩がいなくなったと誰得師匠が騒いでいる。担当の新人マネージャーを呼びつけては鳩の生態を語って聴かせ、劇場の女性スタ…

ディスクレビュー『WE ARE THE NIGHT』/MAGNUS KARLSSON'S FREE FALL

ウィー・アー・ザ・ナイトアーティスト:マグナス・カールソンズ・フリー・フォール発売日: 2020/06/10メディア: CD良く言えば引っ張りだこ、悪く言えば尻軽もしくは器用貧乏なギタリスト、マグナス・カールソンの名を冠した「本業バンド」待望の3rdアルバム…

短篇小説「自転車通学者の恋」

純介は高校時代、男子校へ自転車で通っていた。おかげで彼はひとりの女子ともつきあうことができなかった。 だがそれはけっして、貴重な青春期の行き先が男の園だったからではない。純介は、すべては自転車通学のせいだと思っている。自転車通学という手段は…

短篇小説「課金村」

この村ではなにもかもが無料である。一見そのように見える。本当にそうなのかもしれない。本当はそうなのかもしれない。ということは、そうじゃないのかもしれない。 朝から公園を散歩していた私は、喉が渇いてきたので自販機でジュースを購入しようと考える…

短篇小説「連&動」

膝五郎が街でたい焼きを食べ歩いている。いや正確には究極のたい焼きを求めて何軒もまわっているというわけではなく、単に歩きながら手近な一匹を食べているだけなので「歩き食べている」と言ったほうがいい。日本語の複合動詞では、後に来る動詞のほうが主…

短篇小説「迷信迷走」

迷村信彦はスマホであれ一眼レフであれ、写真を撮られるのが嫌いだ。それはもちろん、〈写真を撮られると魂を抜かれる〉という迷信を信じているからにほかならない。 なぜそうなのかは知らないが、おそらく生きた魂は固定されることを嫌うのだろう。その証拠…

短篇小説「挨拶の懊悩」

元気は元気であることに疲れていた。誰かと久しぶりに会うたび、いちいち「お元気ですか?」と訊かれるのが面倒で仕方なかったのである。 そんなのはもちろん単なる挨拶の常套句であって、本当に目の前の相手が元気か元気でないかなど誰も気にしているわけで…

短篇小説「風が吹けば桶屋が儲かるチャレンジ route 1」

一陣の風が、吹いた。はたして桶屋は儲かるだろうか。 駅前の大通りを通り抜けた風が、路上に落ちていたコンビニ袋を舞い上げた。宙を舞ったコンビニ袋が、直進してきた八百屋の軽トラックのフロントガラスに貼りつき、その視界を奪う。八百屋の軽トラは急ブ…

短篇小説「正論マン」

正論ばかり言う正論マンがセイロンティーを飲んでいる。これは駄洒落だが駄洒落こそが正論なのではと正論マンは最近思う。 たとえ言葉の響きだけであっても、一致している部分があるというのは間違いなく正しい。もしも正論マンがダージリンティーを飲んでい…

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