泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

コント「無傷だらけのヒーロー」

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【登場人物】
 ガジロー選手(野球のユニフォームを着ている)
 アナウンサー

 試合後のヒーローインタビュー。お立ち台に選手が立ち、その横でアナウンサーがマイクを向ける。深めのエコーがスタジアム全体に響き渡る。

アナウンサー「放送席~放送席~。本日の試合で見事完封勝利をおさめました、スワルトヤクローズのガジロー投手です。(ガジローに)いやー、それにしても完璧な復帰戦でしたね!」
ガジロー  「ありがとうございます! 復帰っていうか、ずっと出てましたけどね」
アナウンサー「気づきませんでした! しかし一年半ぶりの登板ということで、だいぶ緊張したんじゃないですか?」
ガジロー  「いや、だからずっと中五日でコンスタントに出てたんで、そのへんの心配はなかったですね。あなたにも何度かこうやってインタビュー受けてますし」
アナウンサー「なるほど。やはり選手というのは、怪我で休んでいる期間中も、毎日試合に出ているつもりで、しっかりと体を作っているわけですね。見習いたいものです」
ガジロー  「つもり、ではないですけどね。怪我もしてないし、もちろん休んでもいないです」
アナウンサー「やはり今回は、アメリカに渡って手術を受けたということで、向こうでの食生活なんかも、だいぶ気を遣われたんじゃないですか?」
ガジロー  「特にないですね。ずっと日本で試合に出ていたので、やっぱり基本和食が多かったですかね。あ、ちなみに手術はしてません。怪我をしてないんでね。だからアメリカにも今のところ用事はないです。もちろん、メジャーにはいつか挑戦したいとは思ってますけど」
アナウンサー「お、いきなりビッグな発言が飛び出しましたねー病み上がりのクセに。(ガジロー、驚きの表情。アナウンサー、無視して話を続ける)ところで、久々に乗ったリリーフカーの乗り心地はどうでしたか? かなり緊迫した場面での登板となりましたが」
ガジロー  「まあいつも通り先発だったんで、乗ってないですね。自分の足で歩いてマウンドまで行きました」
アナウンサー「つまりそれくらい地に足が着いていたと」
ガジロー  「実際に着いてましたから」
アナウンサー「おぉ~、まさかそこまでとは! しかし久々の登板、しかもあの誰もが涙した、選手生命が危ぶまれるほどの致命的な大怪我からの復帰第一戦にもかかわらず、それほどまでに落ち着いて試合に臨めるというのは、やはり何か秘訣があるんでしょうか? いざというときに実力を出し切れないと悩んでいる人も、テレビの前には大勢いらっしゃると思うので」
ガジロー  「もう十年間先発ローテーションから外れることなく試合に出てるんで、そりゃ緊張もしないですよ。怪我もしてないですし」
アナウンサー「それはつまり、気持ち的に、ということですね。『初めてや久々の場面でも、すでに十年間そこに居続けているくらいの気分で臨め』と。(カメラ目線で)テレビの前の受験生のみんな、ちゃんとメモったかな?」
ガジロー  「メモるとこないですけどね。気持ちじゃなくて単なる事実なんで」
アナウンサー「えー、それではちょっと今日のプレーについて、具体的な話に移らせていただこうと思います。今日の試合を見る限り、以前とフォームが大きく変化しているように感じたんですが、そこはやはり怪我の影響なんでしょうか?」
ガジロー  「特に変えてはいないですね。怪我をしていないので」
アナウンサー「ではやはり意識して変えたわけではなく、無意識のうちに怪我をした箇所をかばうフォームになってしまっている、ということでしょうか? そうなると、今度は別の箇所に無理がかかって怪我をしてしまう、という話をよく聞きますが」
ガジロー  「まずひとつめの怪我をしていないので、それをかばって二つ目の怪我をするという心配は皆無ですね。かばう箇所がないので」
アナウンサー「いや~、実に力強い言葉です! 怪我をするならば一つでも二つでも同じだと。治ってしまえば何箇所でも関係ないということですね。たしかに治るってのは、そういうことですからね。非常に頼もしい言葉を聴くことができて、ファンの皆さんもホッとしているのではないでしょうか。それでは最後に、大きな怪我からのこの見事な復活劇を応援してくださったテレビの前の皆さんへ、ガジローさんから熱いメッセージをお願いします!」
ガジロー  「本当に怪我はしてません! だから復活もしてません! さっきから言ってるように、僕は休まずこの十年間……」
アナウンサー「(ショートカットして)はいはいなるほどなるほど。つまりまだまだ怪我は治りきっていないのにもうこんなに凄いんだぞと。完全復活したらこんなもんじゃないぞと。いやこれはもう、期待するしかないですね! そうですよね、ファンの皆さん!(スタンドから太鼓のリズムに合わせて『ガ・ジ・ロー、ガ・ジ・ロー』の大声援)あ、そろそろお時間のようです。えー本日、一年半前のあの瀕死の重傷から劇的な復活を遂げた、ガジロー選手でした!」

 舞台左右からそれぞれ二人ずつ、計四人の救急隊員が担架やと点滴等の器具を持ってガジローの元へ駆けつけてくる。酸素吸入マスクや点滴器具を装着され、担架に乗せられて舞台袖へと連れ去られるガジロー。連れ去られながら叫び声をあげる。

ガジロー  「俺は怪我なんかしてない! ずっと試合に出ていたし本当にどこも痛くない! 信じてくれ! 俺は深爪すらしてないぞ!」

 暗転

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