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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

短篇小説「いい意味で唯々男」

飯田唯々男はいい意味でいい加減な男だった。唯々男はいつもいいスーツをいい具合に着崩していたが、そのラフさが彼をいい意味でいい人に見せていた。そのうえ唯々男は近ごろいい感じに太ってきているため、勢いよく息を吸い込んでスーツのボタンを留めると…

短篇小説「天天天職」

どんな仕事にもその職務内で発揮される「才能」というものがあり、逆にいえば人にはその「才能」を生かす「天職」というものがあるらしい。「才能」というのはけっして、スポーツ選手や芸術家にのみ求められるものではない。映画チケットのもぎりにすら「才…

短篇小説「もはやがばわないばあちゃん」

がばいばあちゃんが思ったほどがばわなくなったのはいつの日からだろうか。がばいばあちゃんは、とにかくいつでも誰にでもがばうばあちゃんだった。イケメンにも不細工にも分けへだてなくがばうし、いったんがばうと決めたら老若男女も国籍も問わない。西に…

短篇小説「号泣家」

私は奇妙なことに、泣きながら産まれてきたのだとのちに母親から聞かされた。私がそんな奇抜なスタイルで産まれてきたのは、きっと両親が泣きながら出逢ったからだ。産まれてこのかた、私はずっと泣いている。何をするときも確実に泣いている。飯を食うとき…

短篇小説「最後の勇者」

王様に呼び出されるというのは、つまり職員室に呼び出されるようなもので、だいたい叱られるものと相場が決まっている。しかしこの日は違った。城の大広間にでんと鎮座している王様の前に跪くと、王様は僕の手を取り神妙な顔を作り込んで言った。「よくぞ参…

短篇小説「私が全自動になっても」

何もかもが全自動化されたこの世界で、自動でないのはもはや人間の心だけだ。もちろんこの文章も全自動で書いている。いや書かせている。むしろ書かれている。その証拠はいずれ表れることになるだろう。水道の蛇口が自動水栓になった際にも驚いたものだが、…

短篇小説「忘却無人」

ポストにちらしが入っていたのがすべてのはじまりだった。ちらしといっても広告ではなくちらし寿司である。ポストかと思ったものはホストで、要はホストが家の前でちらし寿司を食っていたのである。いや食っていたのではなく、繰っていたのかもしれない。と…

短篇小説「かもしれない刑事」

「こいつが犯人かもしれないし、あいつが犯人かもしれない。犯人かもしれなくない奴なんて、この地球上には誰ひとりいないのかもしれない」かもしれない刑事は、あらゆる可能性を信じる男だ。彼にとって確率の高低は意味をなさない。1%も99%も、「可能性が…

短篇小説「冬将軍と鍋奉行」

東京に初雪の降った夜、鍋奉行は家で冬将軍を待っていた。冬将軍と鍋奉行はSNSで出会った。なのでこの日が初対面となるはずだった。鍋奉行はまずは得意の鍋によるおもてなしで、冬将軍の心を溶かそうと考えていた。しかし冬将軍は各地の雪軍曹に雪を降らす指…

短篇小説「眠れる盛り土美女」

ある真夜中、床下からザクザクと不穏な音がするのを僕は聴いたのだった。トイレに起きた僕はたしかにその音と振動を感じたが、家の前をトラックか何かが通ったのだろうと思い、その日は用を足すとそのまま寝てしまった。平屋建てアパートの一階は、何かとよ…

短篇小説「万物ファースト社会」

果物ファーストの八百屋と珈琲ファーストの喫茶店とパーマネントファーストの美容院がショップファーストの商店街に並んでいる。いつの間にやら、この世はすっかりファーストまみれになってしまった。果物ファーストの八百屋で野菜を買うともちろん店主に怒…

短篇小説「河童の一日 其ノ十」

河童は冬が苦手だ。というと「いつも裸で寒いから」と思われがちだが、そこは慣れでなんとかなる。近年ではヒートテックの甲羅も、すっかり普及してきたし。だから本当の問題は乾燥のほうだ。河童は乾くと急激に弱体化する生物である。特に頭部に載っかった…

短篇小説「柿食えば鐘鳴る機」

「こないだ寺で柿食ってたらさ、ちょうど鐘が鳴ったんだよね」政尾加志貴(まさお・かしき)が自慢の横顔を見せつけながら得意気にそう言うと、友人らは「ま、そういうことってあるよね」と軽く受け流したので、加志貴は意地になって、「……てゆうことが今年…

短篇小説「RP爺」

ヒント爺は、今日もRPGの世界を旅する勇者たちに情報を与えるためだけに生きている。この世界はすっかり荒廃してしまった。しかしそれがなぜなのかは、ヒント爺風情にはわからない。彼に与えられている情報は、あまりにも少ないからだ。いまヒント爺の住んで…

短篇小説「炎上ビジネス feat. マッチ売りの少女」

ある冬の夜、少女が路上でマッチを売っていた。少女がマッチを売っていたのは、マッチを買うおじさんがいるからであった。好きで売っているわけではない。マッチを買うおじさんもまた、マッチが好きなわけでも必要なわけでもなかった、マッチを買うおばさん…

「新語流行語全部入り小説2016」

歩きスマホでポケモンGOをしながら都内のあちこちへ片手間に火を噴きまくるジカ熱のシン・ゴジラを、もはや民泊中のアモーレたちが築いた愛の盛り土だけで防ぐことは不可能だった。しかも、その盛り土すら実際には行われていなかったという事実が発覚したと…

短篇小説「頭痛が痛い田村」

頭痛が痛い田村は腹痛も痛くなってきたような気がしているが腹痛は痛くない。膝痛が痛いのはいつの間にか治って完治していたし、歯痛が痛いのも半年前に治療して治したばかりだからこの問題は問題ない。虫歯が蝕まれていたのだ。ただし寒さが寒い季節には、…

短篇小説「スプーン女子」

「スプーンおばさん」こと丸坂匙代は、一切の優柔不断を許さない性格に生まれた。おそらくそれは、スプーンという「片面(=凹面)しか使用しない道具」を携えてこの世に生を受けてしまったからだろう。右手に持って生まれたものがスプーンではなく箸であっ…

短篇小説「犯罪動機One & Only~それでもボクはやってます~」

刑事「お前がやったんだな。で、動機は?」 犯人「はい、ついカッとなって」 刑事「ありがちだな。工夫がない」 犯人「えっ、没とかあるんすか? 動機なのに?」 刑事「当たり前だ。没のない社会があるか。誰だって上司や取引先に没を出されて、それでもやり…

短篇小説「おとぼけフランス人シラーヌ・ゾンゼーヌ」

「ハテ、ナンノコトデスカナ?」ホームセンターから一歩出たところを取り押さえられたフランス人シラーヌ・ゾンゼーヌは、ロングコートのポケットをパンパンに膨らませながら、腕を掴んできた万引きGメンの女・東海林メアリーにそう言い放ったのだった。ちな…

短篇小説「うろおぼ刑事」

今まさに、うろおぼ刑事が万事うろおぼえなまま現場へ突入しようとしている。懇意にしている情報屋から、「海沿いの第三倉庫でこのあと麻薬取引が行われる」という情報を聞きつけたような気がしないでもないからである。第二倉庫だったかもしれないし、街道…

短篇小説「何も言えなかった…夏」

今年も冬彦の夏は、何も言えないうちに終わってしまったのだった。大学のサークル仲間と繰り広げたBBQ…口に放り込んだ安い肉をいっこうに噛み切れぬまま、何も言えず終わった。高校時代の友人としこたま買い込んで楽しんだ花火…口にくわえたロケット花火が不…

悪戯短篇小説「タテ割り刑事」

張り込み刑事が今日も現場に張り込んでいる。張り込み刑事は文字どおりの張り込み刑事であるから、張り込む以外の仕事は何もしないし教わってもいない。手錠の掛けかたすら知らないし、そもそもそんなもの所持してもいない。銃なんてもってのほかだ。それぞ…

悪戯短篇小説「損失の多い挑戦者」

今日は久しぶりに、小銭拾い放題の店に行った。もちろん、自分で落とした銭を自分で拾うのである。デニムのポケットから革財布を取り出し、半径1メートルあたりに小銭をそっとばら撒いていると、横からサッと手が差し出され、落としたての百円玉をかっさらっ…

短篇小説「河童の一日 其ノ九」

まもなく夏休みが終わる。僕は河童だけど人間の学校に通っているので、夏休みもあれば宿題もある。こんなに宿題があるなら夏休みなんていらない。というのはもちろん嘘で、むしろ人一倍(じゃなくて河童一倍?)この夏休みを「夏休んだ」覚えはある。オリン…

偉大なる司会者くん

日本人選手が多くのメダルを獲得したリオ五輪レスリング競技の影響を受け、人気クイズ番組『世界ふしぎ発見!』でも、マスコット人形を投げ入れる「チャレンジ」制度が導入されることになった。投げ入れられるのはもちろん、偉大なる司会者の偶像としての「…

捨てる神に拾う神、その他の神も様々にあり

「捨てる神あれば拾う神あり」とことわざにあるが、むろん両者の数が同じであるとは限らない。事実、近年は「拾う神」の減少(少神化)が叫ばれている。捨てて身軽になる神ばかり多くて、「拾う神」はいつも両手いっぱいに人間を抱えて歩いている。これでは…

悪戯短篇小説「出かけない三郎」

三郎はとにかく出かけない。一郎と二郎はむしろ頻繁に出かけるほうだが三郎はわざわざ出かけたりしない。晴れの日も出かけないが雨の日はさらに出かけない。雪の日に出かけるのは、特に雪が好きだからではなく、三郎が「俺は晴れの日も、雨の日も、曇りの日…

短篇小説「河童の一日 其ノ八」

夏が来た。河童だって流れるプールが好きだ。今日は茨城から泳いできた爺ちゃんと、遊園地のプールへ行った。遊園地へ行くと必ず子供たちが寄ってくるけど、握手をしてあげると皆あっさり引き下がってくれるので問題はない。手が思いのほかビチョビチョだか…

「動詞君ノンストップ」

駅前の喫茶店内であばれる君があばれ出したとき、勇敢にも彼を止めにかかったのは店長のふられる君ではなく常連客のつよがる君だった。ふられる君は昨日雇ったウエイトレスにたったいま厨房でふられたばかりで、それどころではなかったのだ。とはいえ、特に…

「揺れながら落ちる寿司」

「回転寿司は、どうして回っているの?」街道沿いにある全国チェーンの回転寿司店内に、男の子の素朴な疑問が響きわたった。タッチパネルで注文するタイプの大型店であるため握り手の姿は遥か遠く、その問いかけは届くはずもない。少年の左隣に座っている母…

人類を滅ぼすお掃除のテーマ、そして完璧な人間の逆襲

百貨店のフロアを歩いていると、映画『ゴーストバスターズ』のテーマ曲が軽快に流れていることにふと気がついた。どこかに霊がいるのだろう。 あるいはウインドウショッピング・オンリーの客、つまり何も買わない賑やかしの客を「ゴースト」と名づけ、それら…

短篇小説「河童の一日 其ノ七」

近ごろ甲羅のフィット感が悪いので、調整してもらうため久々にスポーツ用品店へ行った。そもそも僕は、甲羅のフィット感なんて気にするタイプの河童ではなかった。しかし以前、グローブ用オイルを買いにスポーツ用品店を訪れた際、「おい坊主、プロテクター…

曲名小説「ロマンスのゆくえ」

ありあまった「ロマンス」は、広瀬香美のところに持っていくと無料で引き取ってもらえるらしい。そうやってありあまった「ロマンス」を集めて練り込み陽のあたらない場所で数年寝かせると、熟成して「ロマンスの神様」になるという。一方、「ロマンティック…

短篇小説「河童の一日 其ノ六〜河童 vs 家電量販店〜」

河童だって音楽が好きだ。文字どおり、音を楽しんでいる。といっても、川のせせらぎとか鈴虫の鳴き声とかじゃなくて、普通に人間の好む音楽を河童も聴く。エミネムとか。NO MUSIC,NO KAPPA LIFE.ただしイヤホンがすぐ駄目になるので困る。河童は年がら年中濡…

短篇小説「河童の一日 其ノ五」

今日は八百屋のおっさんにきゅうりで殴られた。売りもので殴るなんてどうかしてる。ちなみに二刀流だった。しかもきゅうりが僕の大好物だってことを、八百屋のおっさんはもちろん知っている。となると、「わざわざ相手の好物を用いて殴る」という行為は、果…

新語流行語全部入り小説2015

秘技アゴクイと切れ目のない対応で結果にコミットする上級国民のプロ彼女と、風呂上がりに全裸で腰を屈めた五郎丸ポーズで「安心して下さい、穿いてますよ。」と言いつつ毎度穿いてない、というルーティンを繰り返す自称ミニマリストの下級老人との恋愛関係…

悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

賛成派の筆頭がウーピーで、反対派の筆頭がゴールドバーグだった。もはや何について賛成し反対しているのかは、誰にもわからなかった。とりあえずウーピーはコーヒーを、ゴールドバーグは野菜ジュースを飲んでいる。ゴールドバーグがストローを加えた隙に、…

悪戯短篇小説「恋は瀕死」

健壱は桜子のことが死ぬほど好きだったが桜子は健壱のことが死ぬほど嫌いだった。それは健壱が桜子に、「君のことが死ぬほど好きだ」と決死の覚悟で告白したからだ。その言葉を聴いた桜子は、本当に「死ぬほど好き」ならばいっそ死んでくれ、と声を殺して呟…

短篇小説「河童の一日 其ノ四」

「河童も恋をするの?」という質問を近ごろよく受ける。芸能人が立て続けに結婚を発表しているせいだろうか。YES,もちろん河童だって恋をする。カラオケに行けば、渡辺美里の「恋したっていいじゃない」も歌う。「MAJIでKOIする5秒前」は歌ったことがない。…

短篇小説「河童の一日 其ノ三」

僕ら河童は漢字で書くと「河」の「童」ということにいつの間にかなっているが、これも河童がこうむっている風評被害のひとつである。河童だからといって、もちろん「童=子供」ばかりなんてはずはなく、河童にもジジイやババアはいる。最近はむしろそっちの…

短篇小説「河童の一日 其ノ二」

今日は人間の友達の家へ遊びに行った。彼の家へ行くのは初めてだった。家にあがるやいなや、人間の女にすこぶる嫌な顔をされた。友達の母親らしかった。一瞬にして花柄のスリッパをビショビショにしてしまったからだと思う。河童なのだから当然だ。河童を家…

短篇小説「河童の一日 其ノ一」

朝起きたらヘッドソーサーにうっすらカビが生えていて抜群に哀しかった。テレビのニュースであまりに熱中症熱中症言うものだから、警戒しすぎて寝る前に皿を経口補水液で濡らしすぎたせいだ。CMで所さんにまで言われたら濡らすしかない。あの人熱中症でいく…

悪戯短篇小説「非売品未体験レポーター吹子」

いえいえほんと、飲むだけで痩せるなんて、これっぽっちも思ってなかったんです。だって普通思いませんよね、1日にたった30キロ走って、サウナで2時間まんじりともせず、この水(編集部註:『フレッシュスリムポイズンウォーター』)をくぴっと3リットル弱飲…

悪戯短篇小説「あくまで死にたい小田島」

誰にも似てない田之倉が、高校時代からの友人である気持ちで負けない岡島との待ち合わせ場所であるいつもの喫茶店に到着すると、気持ちで負けない岡島の横に仏頂面の見知らぬ男が座っていた。気持ちで負けない岡島は、注文を取りに来た店員にお冷やを豪快に…

悪戯短篇小説「故事らせ恋物語」

恋のはじまりは目薬だった。煎じて飲むための爪垢収集にしばし熱中していた故彦(ゆえひこ)は、その細かな作業のせいで七度転んだり八回転げたりするほどではない疲れをその目の奥にじんわりと感じたので、目薬を注すことにした。思いがけず降り続けること…

悪戯短篇小説「新語流行語全部入り小説2014」

もはや昼間っから暇を持てあましたタモロスのマイルドヤンキーと、地方議員のセクハラやじを書き続けてきたゴーストライターしか住んでいない消滅可能性都市の絶景をバックに、こじらせ女子を卒業した輝く女性がアイス・バケツ・チャレンジを行った。それは…

悪戯短篇小説「隣は何をする人ぞ」

学校の門前に文具屋があり、競馬場の向かいに消費者金融があり、飲食店にトイレがある。世のなか合理的にできている。男が倒れたのは美容院の前だった。男の頭髪は燃えていた。パーマネントに失敗したのだ。失敗の方法は色々ある。男はとりあえず、美容院の…

電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』発売のお知らせリターンズ

AmazonのKindleストアにて発売中の電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』が、このたびiOS(iPhone、iPad、iPod Touch)対応になりました。もちろんKindleやAndroid携帯でも読めます。ただしスイカ割りなどの最中で目隠しをしていると読めないこと…

電子書籍『悪戯短篇小説集 耳毛に憧れたって駄目』発売のお知らせ

当ブログに掲載していた悪戯な短篇小説らをこのたび一斉召集し、電子書籍化しました。プロの絵師にわざわざ発注した表紙画をはじめ、著者あとがき・解説(講談社文芸文庫並みの長文)・レーベル名(虚実空転文庫)・ロゴマーク(髭の奴)、挿絵(耳毛の奴)…

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