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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

書評『騎士団長殺し』/村上春樹 ~ダイソン的吸引力で読者を物語へと引き込む「ほのめかし文学」~

本と人との関係というのは人間同士の関係と同じで、趣味嗜好は合わなくても友達や恋人になれるというケースが少なからずある。僕にとって村上春樹の作品とは、常にそういう存在であるのかもしれない。この『騎士団長殺し』という作品をいま読み終えて、改め…

人の心がわかりすぎるということ~『播磨灘物語』/司馬遼太郎

昨年の大河ドラマ『軍師官兵衛』を観るにあたり、僕は黒田官兵衛の生涯を描いた司馬遼太郎の『播磨灘物語』を読み返していた。学生時代に読んだときよりも、遥かに言葉が染み渡ってくる。名作の持つ意味は、読む側の経験や成長によって如実に変化する。だか…

『薬草まじない』/エイモス・チュツオーラ

「薬草」といえば真っ先に『ドラクエ』あたりのRPGを想起するが、この奇想天外なアフリカ文学への入口として、そのイメージはどうやら間違ってはいない。これはファンタジックな冒険譚であり、言うなれば「日本型RPG」小説である。その証拠に、主人公の狩人…

『族長の秋』/ガブリエル・ガルシア=マルケス

一文一文に含まれる情報量がすこぶる多く、脳に大きな負荷のかかる文体で描かれる大統領の一代記。ちなみに「情報量」とは役に立つという意味ではまったくない。一文で伝わってくる感覚、感情、イメージ量が圧倒的に多いということで、別に物語進行上必要不…

『人間小唄』/町田康

近年の町田康作品における突き抜けた傑作。バランスの取れたエンターテインメント性よりも、初期作品に通じる文学的な過剰性が随所で優先されているように見える。せっせと拵えた設定を自らの手により積極的破綻に追い込む狂気のテンション。

『靴の話/眼 小島信夫家族小説集』/小島信夫

小島信夫らしい因果律の狂いは一貫しているが、作風は案外バラエティに富んでいる。前半の数作はカフカ的あるいは安部公房的不条理文学。後半はやや私小説的な作品が並ぶ。「抱擁家族」はもちろん名作だが、それ以上にその原型である短篇「馬」のほうが個人…

『家族ゲーム』/本間洋平

今やっている櫻井翔版ドラマ『家族ゲーム』が、あまりに素晴らしい。今のところ(5話目終了時点)平均視聴率が12%程度であることが不思議なほどだが、あの展開についていけるほどの積極的姿勢がテレビ視聴者にないというのも、わからないではない。その原作…

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』/村上春樹

毎度のことながら、発売前から毀誉褒貶激しい村上春樹の最新作。しかしそれが純粋に作品に向けられたものであるかどうかは、相変わらず疑わしい。何しろ発売前から賛否両論あるのだから。でもその気持ちはわかるし、かなり意図的に視界を狭めて情報を遮断し…

「小説でしかできないこと」しかやらないという冒険〜『三姉妹とその友達』/福永信

個人的には中原昌也・青木淳悟・福永信という芥川賞未受賞作家の三人こそが、ここしばらく日本文学の先頭を走っていると思っている。そんな福永信の最新作はもちろん問題作。「スマートフォンを海へ投げ捨て、貝がらを耳にあてろ!」という謎の帯文が、ふざ…

『私のいない高校』/青木淳悟

ストーリー皆無。人格不在。もちろん作者の「言いたいこと」など何ひとつ書かれてはいない。史上最も国語入試問題に不向きな小説の誕生。しかし何気ない描写がいちいち面白く、だがそこに物語的な面白さは一切ないと言い切れるのが凄い。描かれているのはた…

『尼僧とキューピッドの弓』/多和田葉子

何か特殊な設定を持つ作品を書くときに、作家は取材を必要とすることがある。だが取材はしすぎるとその調べた現実から飛躍しきれなくなり、逆にイマジネーションを限定するケースも少なくない。ドイツの修道院に住む尼僧たちの人間模様を描く本作を執筆する…

『1Q84』BOOK3/村上春樹 Part2

物語全体の流れや構成を考えれば、悪く言えば「蛇足」、良く言えば「補足説明」といった感の強いこのBOOK3だが、だからこそ発揮されている面白さというのもまた確実にある。それは「ストーリーを前に進めなければならない」という義務感から開放されたことで…

『1Q84』BOOK3/村上春樹 Part1

これはつまり大ボスを倒した後のピロートークなのだ。たとえば漫画でもRPGでもいい。少年漫画ならば連載を長続きさせるための引き延ばし工作であるし、RPGならばもはや決まりごとのように「クリア後の世界」が期待されている。だがそういった「その後の世界…

『楢山節考』/深沢七郎

日本文学史上の名作とされる「楢山節考」。しかし期待に反して表題作は特別面白いとは感じなかった。良くある昔話というくらいの印象。もちろん上手いが。ここではむしろ、この中に収録されている「東京のプリンスたち」という作品をお薦めしたい。これがす…

『脱走と追跡のサンバ』/筒井康隆

とにかくすべてに必然性があって、一切の無駄がない。あるいはすべての要素が、まったく無駄に浪費されているように見える。それが筒井康隆の小説であり、エンターテインメントと純文学の融合ということである。特にこの作品は、その次元が高い。すべてに意…

「ヌード・マン」(『愛と癒しと殺人に欠けた小説集』所収)/伊井直行

裸で街を歩きまわる男になどまったく共感などできないのに、面白いうえに感動さえできてしまうというのは、一体どういうことなのだろうか。そんなことがありえるのだろうか。おそらくは作者でさえ、この小説の主人公である細川には、基本的に共感できていな…

圧倒的売り上げのみが作りだすことのできる渦、好き嫌いを越えて〜村上春樹『1Q84』を聴く〜

村上春樹『1Q84』に関して、すでに書評集のようなものも出ていますが、とりあえず無料でいろいろな意見を聴きたいという方は、以下の仲俣暁生氏のブログで紹介されている2つのポッドキャストを聴くと良いと思います。(いちおうここでもポッドキャストへのリ…

『1Q84』/村上春樹 追記

村上春樹の『1Q84』はたしかに力作なのだが、今という時代において彼の言葉から匂い立つ「致命的なダサさ」についての批判がなさすぎると感じている。相変わらずのレモンドロップ&自作サンドウィッチといい、ジャズやクラシックを賛美しロックを無条件に見…

『1Q84』/村上春樹

ファンタジーにしては現実的すぎ、ミステリーにしては現実味が足りない。純文学にしては物語的すぎ、エンターテインメント小説にしては文体がまどろっこしい。社会派小説にしては軽すぎ、ユーモア小説にしては重すぎる。あらゆる意味で中間的な小説である。…

うろ覚え脳男の疑わしい仮説〜佐々木敦×福永信対談感想〜

6/11、ジュンク堂書店新宿店にて行われた佐々木敦×福永信のトークイベントに行ってきた。もう二日前。当日帰ってきて何かを書こうと思ったら、何も頭に残っていないことに気づき挫折。あんなに面白かったのに。だが不思議なもので、二晩寝たらなんとなく思い…

『アクロバット前夜90°』/福永信

福永信『アクロバット前夜 90°』のサイン本を、渋谷パルコのリブロで購入。8年前にわざわざ横組み、しかも1ページ目の1行目の続きが2ページ目の1行目に来るという、風変わりな構成で出版されたデビュー作(短篇集)を、通常の縦組みにしただけの代物。内容に…

『城』/フランツ・カフカ

壮大な物語というより、極上コントの連発という意味での大傑作。笑いという意味では、小説以外を含めても、これ以上のレベルには未だ誰も到達していないと言い切れる。 物語の筋など「城に辿りつきたいがいっこうに辿りつけない」という程度でしかなく、ただ…

悩ましき文芸漫談〜後藤明生「挟み撃ち」〜

今日はいとうせいこう×奥泉光の「文芸漫談」に行った。今回のテーマ作品は後藤明生の「挟み撃ち」。これまで取り上げられた中で最もマイナーな作品だが、見事に満席でいとうせいこうも驚いていた。 今回はいつになくいとうせいこうが熱く語っていたのが新鮮…

老婆vs 河童vs虫〜読まずに芥川賞所感〜

↓《ニュース記事》【芥川賞講評】宮本輝氏「作家として成長した」 http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/090115/acd0901152154007-n1.htm近ごろどうも文学の良し悪しを決める選考基準が、「的確に今という時代を切り取っているか否か」に偏っているよ…

『カフカ・セレクションⅠ〜Ⅲ』/フランツ・カフカ

このジャンク寄せ集め短篇集を読むと、あらゆる物事に結末など必要ないような気になる。物語はもちろん、お笑いのオチも、様々な人生の節目も。「起承転結」とか誰が決めたんだよ、と言いたくなる。 そもそも世の中には、誰が決めたのだかわからないルールが…

『やし酒飲み』/エイモス・チュツオーラ

アフリカの大自然(に対する恐怖)のみが生み出し得るのかもしれぬ奇譚。 展開もキャラクターも能力も、すべてが相当にいい加減な思いつきに従って次々と生み出され、無理矢理編み込まれてゆく。その強引さが魅力であり、民話的でもある。桃太郎がそこらへん…

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