- 作者:七郎, 深沢
- 発売日: 1964/08/03
- メディア: 文庫
日本文学史上の名作とされる「楢山節考」。しかし期待に反して表題作は特別面白いとは感じなかった。良くある昔話というくらいの印象。もちろん上手いが。
ここではむしろ、この中に収録されている「東京のプリンスたち」という作品をお薦めしたい。これがすっかり中原昌也なのだ。あるいはボリス・ヴィアン。
音楽喫茶に集まる若者たちの、上すべりする会話。デートを「デイト」と表記してあるだけでもう面白いのだが、例えばこんな台詞たち(台詞間の繋がりはありません)。
「コッペ買って来いよ」
「プレスリーのばかりかけてくれよ」
「マネー持ってるかい?」
「何だよ、早く言えよ、俺、今日ジャンパー買いに行くんだから」
「俺、これからジャンパー買いに行くんだ」
「今返してもいいけど、ジャンパー買うのに足りないかもしれないから」
これがもしかしたら、当時最先端のイケてる口調だったのかもしれない。読みはじめは、僕もそのつもりで読んだ。解説には「何ものにもとらわれることのない人間の理想の生き方を、ロカビリーに熱狂する一群の青年たちの姿をかりて追求した小説」と真顔で書いてある。あるいはそうなのかもしれないが、だとすると特に面白くはない。
が、これを当時の流行を逆手に取って茶化しているものとして読むと、途端に面白くなる。突如ニヒリズムが炸裂するのを感じる。深沢七郎とは、本来そういう作家なのではないかと思う。