泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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短篇小説「縁起者忙殺録」

幸介はとにかくかつぐ男だ。どれだけ重いものをかつぐのかといえば、彼のかつぐべきその総重量は甚だしく大きいと言わざるを得ないだろう。そう、彼は縁起をかつぐ男。成功体験の数だけ、かつぐべき縁起がある。 幸介は自身を幸福へと導く縁起を、それはもう…

短篇小説「筋肉との対話」

おい、オレの筋肉! やるのかい、やらないのかい、どっちなんだい? やるとしたらいつ、何を、どのようにやるのかい? 今すぐ、バーベルを、鬼のように上げるのかい? 今宵、ブルドーザーを、東京から大阪まで引っ張るのかい? あるいは明朝、ラジオ体操第2…

短篇小説「マジックカッター健」

マジックカッター健はどこからでも切れる。彼を切れさせるのに、切り込みなど必要ない。お肌だってツルツルだ。 マジックカッター健は、端から見れば何ひとつ原因が見当たらないのに切れる。しかし実を言うと、健には本当に切り込みがないのではない。彼の切…

書評『黄泥街』/残雪

「中国のカフカ」こと残雪による第一長編。作者名を聴いて、まずはイルカの名曲「なごり雪」が頭に流れる。カフカを彷彿とさせる不条理な予感は、冒頭の一文からして十二分に漂っている。《あの町のはずれには黄泥街という通りがあった。まざまざと覚えてい…

短篇小説「マウント屋」

仕事で大きなプロジェクトを成し遂げた翌日、私は必ずマウント屋へ行くことにしている。今日の私があるのは、すべてマウント屋のおかげだと思っている。 今夜も私は、任務達成の悦びと抜けきらない疲れに酔いしれた身体を引っさげて、会社帰りにマウント屋を…

短篇小説「つまらな先生」

つまらな先生はすなわちつまらないからつまらな先生と呼ばれているのであり、もしも一片でも彼に面白味のようなものがあったなら、そう呼ばれてはいないだろう。 つまらな先生の授業は、やはり滅法つまらない。しかし彼は自分の授業がつまらないのではなく、…

短篇小説「フェイク・オフィス」

六本木の高層階にあるオフィスで、振介は今日も働くフリをすることに忙しかった。 具体的にいえば振介はいま、プリントアウトした資料を見るフリをしながら、そこに書いてあるデータをノートPCに打ち込むフリをしている。 もっといえばその「資料」とはプリ…

日本十大あけましておめでとうございます2019

せめて年の初めくらいは、真面目にごあいさつをと思い。(思う自由) あけましておめでとうございます!(偉人の棺桶を)あけましておめでとうございます!(ようやく半熟になったかさぶたを)あけましておめでとうございます!(選挙ポスターの目に画鋲で穴…

2018年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

1位「Thousand Years」/BE THE WOLF弾けるポップセンスとめくるめくメロディ展開の妙。ギターと歌メロの容赦なきせめぎ合い。 現時点において、もっとも万人に開かれたハード・ロック。同じく秀逸なメロディが続けざまに放たれる「Here And Now」、冒頭を飾…

2018年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

1位『TUNGUSKA』/TREAT ツングースカ【通常盤】アーティスト: トリート出版社/メーカー: FRONTIERS RECORDS Licensed by Frontiers Records s.r.l.発売日: 2018/09/05メディア: MP3 ダウンロードこの商品を含むブログを見る間違いなく、今年断トツで回数聴…

ネジゴンクエスト~真空のネジ穴~

日常には様々なミッションが潜んでいて、その規模が大きければまた達成感も大きいとは限らない。たとえば面白いゲームというのは達成感を得られるものだが、その面白さの主たる要因は何かというと、基本的には難易度設定であると思う。これは仕事でも遊びで…

「感濃小説」

ある夜仕事から帰宅すると、ドアの前に透け感のある服を着た抜け感のある中年男が立っていた。男は見るからに生き感に欠け、その夢感そしてうつつ感の強い表情から読み取れる化け感は、まるで死に感に包まれた幽霊のようでもあった。それにしては左手に持っ…

竹届物語

今日は海女損に注文していたさまぁ~ずの青竹一樹が届いた。いやこの竹がもしも都会派なら青竹まことかもしれず、演技派なら青竹しのぶかもしれない。わりといい値段がしたのは、これがかぐや姫を輩出したその竹だからだろうか。だとすれば、「かぐや姫使用…

「新語流行語全部入り小説2018」

あるテニスの試合のハーフタイム中に、U.S.A.帰りのなおみがTik Tokの動画を観ながらかつお節のおにぎりを食べていた。これすなわち、ご飯論法でいうところのなおみ節である。これはそのとき食べているものと、食べている人の名前をただくっつけてしまうとい…

短篇小説「魔法使いの口説きかた」

いまこの竜的はサムシングが支配する世の中において、世界各地を冒険する戦士である私が考えているのは、どうすれば魔法使いをパーティーにスカウトできるかというこの一点である。魔法使いだって遊びではないのだから、まさかきびだんごひとつで誘うわけに…

短篇小説「雑談法」

七年前にいわゆる「雑談法」が施行されて以来、気軽に「雑談でもしましょう」などと言えない世の中になった。難儀なことである。 「雑談法」により、「雑談」という文字どおり雑然とした概念は、改めて明確に定義されることとなった。はたして何が「雑」で何…

短篇小説「憤と怒」

憤介が怒っているのは、いつものバス停に時間通りバスが来ないからであった。すでに時刻表から十分も遅れている。会社に遅刻すれば怒られるのは憤介なのだから、彼が怒るのも無理はない。しかしまにあったらまにあったで、要領の悪い憤介はどうせ別件で上司…

短篇小説「三割神」

野球で打率三割といえば好打者といえるが、三割だけ願いを叶えてくれる神様はどう評価すべきだろう? 神だってなんでもかんでも完璧に叶えられるわけではない。神に完全無欠な仕事ぶりを常時要求したりすれば、今どきパワハラだなんだと訴えられかねない。神…

短篇小説「条件神」

photo by Hartwig HKD ひとりなのだかたくさんいるのだか知らないが、世にいう神々が必ずしもやさしいとは限らないのは、地球の現状を見れば誰にでも簡単に理解できることである。しかしまさかここまでとは。 その日、神が喪師喪田畏怖男を見つけたのか、喪…

ディスクレビュー『TUNGUSKA』/TREAT

ツングースカ【通常盤】アーティスト:トリート出版社/メーカー: キングレコード発売日: 2018/09/05メディア: CD名盤は、時として摑みどころがない。それはまるで取っ手のないトランクのようなもので、一聴したところ、どこを掴んで良いものかわからない。な…

風邪の歌を聴け

考えてみれば、その日は朝起きた瞬間から妙な浮遊感があった。週の初めに風邪の症状を自覚してから五日目となる木曜の朝、六時過ぎにふと目が覚めた。前日の夜、すっかり風邪のピークは過ぎて、あとは時間の経過とともに自然治癒していくはず、という確信が…

噛むガム Is Coming!

数年に一度、ガムブームが来る。「来る」といっても自分の中に来るというだけの話である。ちなみに「噛む」という日本語動詞と「ガム」という英単語の親和性はどういうわけか。そして噛むべきガムのブームがCOME(来る)。そういえば世の中的に、いつガムブ…

【映画評】デヴィッド・リンチ/『アートライフ』

デヴィッド・リンチ:アートライフ [DVD]デヴィッド・リンチAmazon現世にデヴィッド・リンチほど「奇才」という呼び名がふさわしい人間はいないと思うが、どんな奇才にもルーツはある、ということが少しだけわかる一作。むろんどんな開示のされ方をしようと、…

ビラ配ラーとの攻防

受験や就活に限らず、この世のあらゆる場面では冷酷無比な「セレクション」が行われている。それは路上においても例外ではない。といってもナンパや勧誘の類ではなく、いやある意味勧誘の一種ではあるのだが、ビラ配りの話である。駅前の路上なんかを歩いて…

純眠欲

本が好きだが本を読むと眠くなってしまう。本をあまり読まない人は、本を読むと眠くなるのは本がたいして好きじゃないからだと思っているかもしれないが、そんなことはまったくない。本には自らのことを愛する者をも眠らせる圧倒的な力がある。となるとこれ…

理想的な「三曲」を求めて――メタル史上最強のトリロジー(三部作)ベスト10

音楽を聴取あるいは評価する単位として一般的なのは、言うまでもなく「曲単位」か「アルバム単位」だろう。特にアプリやYouTubeで聴くことが増えている昨今、その比重はだいぶ前者に寄ってきているのかもしれない。しかしそんな「単位」は、あくまでも商品と…

文体実験型短篇小説「順接ブレイクダウン」

喉が渇いたからといって水を飲みにいくとは限らない。 就活生の何故彦は面接の出来がさんざんだったので、帰りにコンビニへ寄って牛乳を買った。もしも面接で充分な手応えを感じられていたならば、彼はきっとミネラルウォーターを買っていただろう。どちらが…

無理比喩短篇小説「因果オーライ」

朝の通勤電車はコンビーフの缶詰のように混んでいた。中段をぐるぐる巻き取るあの独自の構造は切腹を思わせるが、満員電車に乗っているサラリーマンたちの会社への忠誠心も実質的な切腹を前提としている。 列車がテーブルの上に置いて三秒後の生卵のように揺…

無理を承知で厳厳厳選した生涯のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・ソング・ベスト10

先日書いた「アルバムベスト10」からの流れで、これは選ばざるを得ないという正体不明の使命感に駆られ、今回は曲単位で「オール・タイム・ベスト10」を選ぶことに決めたはいいが。いや難航、難航、桂南光。これは大変なことになった。1枚のアルバムに10数曲…

あくまで「アルバム単位」で厳選した、生涯のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・アルバム・ベスト10

いわゆる「年間ベスト・アルバム」のようなことは、僕もやるしみんなわりとやるけれど、そういえば「生涯のベスト・アルバム」的な、真の意味で自分にとって最上の10枚を選ぶ、というような、これまでの全音楽体験を総括するような選び方は、これまでちゃん…

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