泣きながら一気に書きました

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2021年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

1位『X MARKS THE SPOT』/ART OF ILLUSION

エックス・マークス・ザ・スポット

エックス・マークス・ザ・スポット

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今年のはじめにこの作品のレビューを書いた時点で、すでに2021年のベストはこのアルバムになるだろうと半ば確信していたが、やはりその通りになった。これはやはり、年に何枚も出てくるレベルの作品ではない。

ROBBY VALENTINEの1stで達成された「北欧美旋律+QUEEN」という図式を、隅から隅まで行き渡らせてある豪華絢爛な逸品。

メンバー構成は、GRAND ILLUSION、WORK OF ART、LIONVILLEという手練れの融合体だが、それぞれのバンドのいまいち煮え切らない部分を、文字通りの化学反応により昇華させ、見事に突き抜けてみせた。

詳細は以下レビューにて。メロディを愛するすべての人へ届くべき傑作。ファンタジックな北欧美旋律の理想郷。

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2位『OF POETRY AND SILENT MASTERY』/PLATENS

オヴ・ポエトリー・アンド・サイレント・マスタリー

オヴ・ポエトリー・アンド・サイレント・マスタリー

  • アーティスト:プラテンズ
  • マーキー・インコーポレイティドビクター
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どこを切っても泣きのメロディが横溢している。まさに「琴線に触れる」という言葉がふさわしい楽曲群。

イタリア産バンドの3rdだが、かの国らしいオペラティックな壮大さというよりは、とにかく芯にある旋律のクオリティの高さが心に残る。その点、むしろ北欧のバンドに近い繊細さを感じさせる。

ジャケットの絵柄と書体のイメージから、いかにもな「クサメタル系」を想像するかもしれないが、そこまで過剰演出頼みのマッチョな音楽性ではなく、アコギ一本で歌っても映えるであろう主旋律の強度がある。①「Conspiracy」のようなミドルテンポの楽曲も、メロディの展開力できっちり聴かせ切る頼もしさ。

逆に言えば、音質やアレンジにはまだ改善の余地があるように思えて、もうひとまわり予算をかけてプロデュースされた作品を聴いてみたくなる。そうなると現状ある純朴さはやや引っ込むかもしれないが、この歌メロの強靱さは、より大きな舞台を求めているように思われる。

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3位『II』/CREYE

クレイII

クレイII

  • アーティスト:クレイ
  • マーキー・インコーポレイティドビクター
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空気感はプログレ、メロディはポップでありキャッチー、エッジはそれなりにハード・ロック。ではこれをなんと呼ぶべきかとなると、「北欧プログレ・ハード」あたりの表現がふさわしいだろうか。そんなスウェーデン産バンド、充実の2nd。

プログレと言っても楽曲はどれも3分程度のコンパクトなものであり、複雑さや難解さはあまり感じられない。そういう意味ではJOURNEYやKANSASを連想させる部分もあるが、そのメロディには繊細ながらより開放的な感触があって、ロックやメタルというよりは、いっそAORと言ったほうが近いかもしれない。

とはいえそこには当然、北欧ならではの哀愁も多分に含まれてくるため、純粋なAORには反応しないHR/HMファンも、この芳醇なメロディには反応せざるを得ないだろう。やや明るめの、爽快感を伴った哀感。

全体に統一された雰囲気があるため、アルバムとしての完成度が高く、逆に言えば当初はどの楽曲も似通っているように感じられもする。それゆえもう少し重さや速さも取り込んで、強弱や緩急のメリハリをつけてほしいと感じる瞬間もあるが、そこは聴き込んでいくにつれて、個々の楽曲の良質さが徐々に沁み渡ってくるという按配。

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4位『DELIRIUM』/SEVENTH CRYSTAL

デリリウム

デリリウム

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やや乾いた、グランジ以降のアメリカン・ヘヴィ・ロックの音像に、スウェーデンのバンドならではのナイーヴな旋律が乗ることで、ある種独特のねじれた響きが生まれている。

全体の感触としてはいわゆる北欧ハード・ポップというよりも、かつてアメリカで大ブレイクを果たした3 DOORS DOWNあたりに近いものがある。やや陰鬱な重さを伴う美旋律。その陰りが、その他大勢の北欧勢と一線を画する個性として際立っている。

それをこのデビュー作ですでに確立しているというのが末恐ろしい。この先どう変化/進化していくのかにも注目したい。

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5位『SILVER LAKE BY ESA HOLOPAINEN』/SILVER LAKE BY ESA HOLOPAINEN

メロディック・デス・メタル黎明期から活躍を続けるAMORPHISのギタリスト、エサ・ホロパイネンによるソロ・プロジェクト

その音楽性は、まさしくAMORPHISの音楽からデス・ヴォイスを取り除いたような内容で、AMORPHISの中枢にあった北欧の民族音楽という核心部分のみを、すっかり抽出して煮詰めたような濃厚な旋律が凝縮されている。

それによりAMORPHISというバンドが持っていた元来のメロディがより際立つ結果になっているうえ、ニュー・ウェイヴ由来の退廃的な美しさもより前面に出てきており、「バンドに所属するミュージシャンにとっての理想的なソロ・プロジェクト」といった趣がある。

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6位『KINGS IN THE NORTH』/CROWNE

キングズ・イン・ザ・ノース

キングズ・イン・ザ・ノース

  • アーティスト:クラウン
  • マーキー・インコーポレイティドビクター
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ART NATION、DYNAZTY、EUROPE、THE POODLES、H.E.A.Tといったスウェーデン人脈によるプロジェクト。

同じスウェーデン出身のハード・ロック・バンドという共通点があるとはいえ、それぞれの音楽性には少なからず違いがあるため、このバンド名の並びから音楽性を想像するのは案外簡単ではない。しかし聴いてみれば、たしかにそれらのちょうど真ん中であるといえばそうであるようなバランスに仕上がっている。

とはいえ、やはりヴォーカルという楽曲の中心を担うパートの存在感は強く、ART NATIONの溌剌とした、跳ねるような躍動感が全体を牽引している。そこにDYNAZTYの煌びやかなメロディ・センスが繊細さをもたらし、この二人を中心に北欧らしい王道ハード・ロックが組み立てられているといった様子。

だが後半やや飽きが来るという点においては、ART NATIONの諸作品と同等の「竜頭蛇尾」感があり、やはりこのプロジェクトの軸になっているのはART NATIONのサウンドなのだということを、改めて感じた次第。

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7位『RETRANSMISSION』/W.E.T.

Retransmission

Retransmission

  • アーティスト:W.E.T.
  • Frontiers
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すっかり「ECLIPSEの楽曲をジェフ・スコット・ソートが歌う」ようなことになっているプロジェクトの4th。

そのわりにはいかにもTALISMAN的なリフで幕を開ける本作だが、やはり印象に残るのはジェフの、替えの効かない独特の節まわし。

あくまでその歌声を中心に置いた楽曲作りが、4作目にしてかなり熟練の度合いを増してきたというか、楽器陣が開き直って完全に脇役に徹する覚悟を固めた感があり、今回はそれが良いほうに働いている。

これと次に来る「本家」ECLIPSEのどちらを上にするかで迷ったが、楽曲のクオリティが同等であった場合、やはりジェフの歌唱分の上乗せがこちらにはあり、僅差でこちらが上であると判断した。

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8位『WIRED』/ECLIPSE

ワイアード

ワイアード

  • アーティスト:エクリプス
  • マーキー・インコーポレイティドビクター
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彼らに関しては、「前作が良すぎたから」というありがちなフォローも、今回ばかりは認めるべきだと思う。詳しくは以下、2019の年間ベスト10アルバムと前作のレビューを参照。

tmykinoue.hatenablog.com

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それに比べると本作は、「前作よりひとまわり小さい佳作」といった位置づけになる。依然として楽曲のクオリティは高いが、今回は前作に比べると、楽曲がロックンロール系とアコースティック系にはっきりと二極化している。

その二極化により作品にメリハリをつけようとの意図は感じられるものの、皮肉なことに大きく二つに分けたことにより、それぞれ同系統内にある楽曲が似通ってしまっている。それゆえ聴いているうちに、楽曲のバリエーションがやや乏しいように感じられてくる。

結果として前作と比べるとややメロディの哀感が控えめで、北欧の湿り気よりはアメリカンな明快さが強調されている。だがそのことが全体のスケールを大きくしているという感触もなく、むしろ小さくまとまる方向へと向かいはじめているように響く。それでもいまだ楽曲の質が安定しているのは間違いないため、この位置に。

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9位『EYE TO EYE』/THE DATSUNS

Eye To Eye

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ニュージーランド産爆走レトロックバンドによる7年振り7枚目の新作だが、インパクトは充分にある。

とはいえ個人的にはメロディを最重要視する人間なので、ここに入れているということは旋律のクオリティも高いということになる。

特にイントロを飾るフレーズのインパクトは随一で、印象に残る出だしがいくつもある。中でも⑤「Brain To Brain」の、哀愁と狂気を同時に感じさせる音階の並びは、脳内をグルグルまわり続ける。

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10位『COMMON GROUND』/BIG BIG TRAIN

英国産プログレッシヴ・ロック・バンドの新作。’90年台前半から活動しているベテランであり、HR/HMというよりは純粋なプログレと言うべきだが、RUSHやDREAM THEATERを通過してきたプログレ・メタル系リスナーの耳には魅力的な響きを持っていると思う。

たとえば②「All The Love We Can Give」の冒頭などでは、XTCあたりの影響も色濃く感じさせ、英国産ハード・ロックNWOBHMとはまた別の、より広い意味での豊かな英国的旋律を感じることができる。

HR/HMファン向けには、激しさという意味ではやや物足りなさもあるが、そこからちょっと背伸びしてみるには格好の位置にある、良質な大人のプログレッシヴ・ロック

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【次点の10枚】
HELLOWEEN』/HELLOWEEN
『DARK CONNECTION』/BEAST IN BLACK
『PERSONA NON GRATA』/EXODUS
『TORN ARTERIES』/CARCASS
『A VIEW FROM THE TOP OF THE WORLD』/DREAM THEATER
『VERA CRUZ』/EDU FALASCHI
『TORINO』/BE THE WOLF
『THE BATTLE AT GARDEN’S GATE』/GRETA VAN FLEET
『OUT OF THIS WORLD』/KAYAK
『OVERLOAD』/SPEKTRA


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