泣きながら一気に書きました

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ディスクレビュー『PARADIGM』/ECLIPSE

Paradigm

Paradigm

  • アーティスト:Eclipse
  • 出版社/メーカー: Frontiers
  • 発売日: 2019/10/11
  • メディア: CD

ここへ来て一気にスケールアップしたスウェーデン産中堅ハード・ロック・バンドの7枚目。

前作あたりでかなり幅を広げた感はあったものの、ECLIPSEには常にB級感が漂っていた。それは楽曲の地味さやスケール感の乏しさなどもあったけれど、個人的には先駆者の影響が見えすぎるフレージングにそれを強く感じていた。

二人のギタリストは明らかにジョン・サイクス(主にWHITESNAKE以降)から多大な影響を受けており、随所に頂きもののリフやメロディが現れては聴き手を興醒めさせる瞬間があった。たとえば前作の「Born To Lead」という曲は、間違いなくWHITESNAKEの「You're Gonna Break My Hear Again」の換骨奪胎だろう。

北欧メロディアス・ハードに、英国的というにはアメリカナイズされたジョン・サイクスのギターを投入したようなミスマッチ感がこのバンドの基本路線。しかし彼らはこの7作目にしてようやくそんな単純な足し算を脱することに成功し、もはやECLIPSEとしか言えない独自の領域を生み出した。

その進化の鍵は、ルーツをもうひとつ遡ったことにあるのではないかと僕は思う。バンドにとってターニングポイントとなった曲は、おそらく前作に収録されていた「The Downfall Of Eden」だろう。前作でもっとも印象的な曲であり、明らかにゲイリー・ムーアの影響を受けたメロディラインを持つ曲である。その雄大な旋律はもはや、北欧を飛び越えてアイルランドの風を感じさせた。

そしてゲイリー・ムーアといえば、ジョン・サイクスにとってはTHIN LIZZYの先輩ギタリストでもあり、彼に大きな影響をもたらしたギターヒーローでもある。つまりこのバンドのルーツであるサイクスの、さらにもう一個奥にあるルーツと言えるわけで、音楽的影響というものは、どうやらあいだにひとり挟むことによって途端に消化がよくなるものらしい。これは音楽に限らない事実かもしれない。

それでなくとも、ルーツというのはどういうわけか古いものほど、やや強引に取り入れても馴染みがよく臭みが消える。時間の経過や受け手の忘却力がそうさせるのか、あるいは時代を生き抜いてきた芸術の普遍性ゆえか。

北欧ハード・ロックジョン・サイクスを足した時点ではまだ固形でそれぞれ素材の原型をとどめていた料理が、そこにゲイリー・ムーアという成分を混ぜた途端にミキサーで粉砕されかき混ぜられて液状化し、バンドの手によってイチから再構築されることでここに新たなメニューが誕生した。

そして本作でもたらされたこの変革により、エリック・モーテンソンの歌の巧さが改めて際立っているのが興味深い。その格段にエモーショナル度合いを増した歌声は、GOTTHARDの今は亡きスティーヴ・リーを思わせるレベルに達している。

本作の冒頭を飾る「Viva La Victoria」は、前作の「The Downfall Of Eden」の流れを汲む、ゲイリー・ムーアの影響を感じさせる曲だ。アルバムは大きなメロディを持つこのアンセムとともに、北欧離れした壮大なスケール感を伴って幕を開ける。

いっぽうでベストソングに推したいのは、8曲目に登場するあまりに北欧然とした哀愁のメロディを放つ「.38 Or .44」だ。ゲイリー・ムーアの影響で劇的に高品質化した作品の中で、もっともその影響が少ない、むしろ北欧的すぎるこの曲が輝くというのも逆説的ではあるが、完全に消化された影響というものは裏面にまで響き渡るものだ。

個人的には沁みる美旋律満載の、北欧ハード・ロック史に残る名盤たるクオリティを備えていると感じるが、このバンドの中堅イメージとミドルテンポ楽曲の多さが足を引っ張って、あまり聴き込まずに「ああ、いつもの感じね」と決めつけてしまっている向きも少なくないと思う。

というのは僕がまさに当初そうなりかけていたからで、これは聴けば聴くほど秀逸なメロディを聴き手が次々と発見してゆくタイプの作品である。

ミドルテンポの良曲を作れるバンドは地肩が強い。この作品をもって、彼らは遅ればせながら、自らにワールドクラスのポテンシャルがあることを示した。


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