泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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ルパンに奪われしものたち シーズン3

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ルパンはこれまで、世界中の人々からさまざまな物を奪ってきた。いや、奪われたのは物だけではない。心や概念までも。

これはルパンの最新版盗難記録である。


銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのモスキート音です」(ジャパネット高田姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの息子の運転免許証です」(志茂田景樹姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの首の自立心です」(横山弁護士姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのレインボーブリッジを封鎖する権利です」(織田裕二姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの坂下千里子をひな壇に置きたがるところです」(池上彰姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのあばずれな涙腺です」(徳光姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの元アイドルという肩書きです」(彦摩呂姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの松岡修造に引っ張られがちなテンションです」(織田信成姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのウーパールーパー感とゴールデン感とハンバーグ感です」(ウーピー・ゴールドバーグ姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの子供がまだ食ってる途中の料理です」(田中邦衛姫に)


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短篇小説「忘却無人」

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ポストにちらしが入っていたのがすべてのはじまりだった。ちらしといっても広告ではなくちらし寿司である。ポストかと思ったものはホストで、要はホストが家の前でちらし寿司を食っていたのである。いや食っていたのではなく、繰っていたのかもしれない。ということはやはりちらし寿司ではなく、広告のほうのちらしだったのか。だとしたらホストではなくポストだと考えたほうが自然だということになる。

いつも帰宅時にするように、鍵を差してひねってポストの蓋を開けたところ、中から大量のちらしがこぼれてきた。そのときツンとする酢の匂いを嗅覚が記憶しているということは、やはりそれは広告の別名としてのちらしではなく、酢飯をベースとするちらし寿司だったのだろう。しかし焼き上がり直後の写真というのもある種酸っぱい匂いのするものであるから、広告のほうのちらしであることも完全には否定できない。

もしも中身が酢飯だとするならば、やはり私が開けたのはポストではなく人間、つまりホストの口であったのかもしれない。もしも口に鍵のついたタイプのホストがいればだが。それはとんでもなく口の固いホストということになるだろう。ホストにとって「口が固い」というのが、はたして良いことなのかどうか。

こぼれ落ちたちらしは黄・赤・緑と実に色とりどりで、その色彩感覚はカラーの広告にもちらし寿司にも共通している。それを見てさすがに食べる気は起こらなかったが、そう感じた原因が紙であるせいなのか、地面に落ちて不潔であるせいなのか、他人の口の中にあった気持ち悪さのせいなのかは、いずれとも判断しかねる。しかし食べたいとは微塵も思わなかったのは事実だ。

ちらしが何を伝えたがっているのかはよくわからなかったが、それはちらしの文字情報が相も変わらず空間恐怖症的にゴチャついていたせいだろう。もしくはホストの口の中が、ちらし寿司で埋め尽くされていたからかもしれない。

もちろん、それがホストクラブのちらしであった可能性もある。その場合のちらしとは、いったい広告なのか寿司なのか。ホストとの相性という点から考えると、寿司のほうが良いような気はする。アフターで客と寿司屋へ行ったのか。しかしうちは寿司屋ではないのだが。

結局私は面倒になり、ポストあるいはホストとちらしはそのままにして、家に入り鍵を閉めて風呂に浸かってその日は寝た。幸い次の日は休日であったが、朝早く暴力的なインターホンに叩き起こされたのだった。玄関のドアを開けると二人の男が立っており、一人が警察手帳を誇示しつつ、今日未明あなたの家の前にあるポストの中から、ちらし寿司と広告ちらしにまみれたホストの死体が発見されたと告げた。死体はすでに撤去したという。

そのあと手帳を見せつけてこないほうの刑事から、つきましてはちょっとお話をお聞かせ願いたい、まずはこのちらしをどうぞと言って手渡されたものは、捜査情報をまとめ急ぎ作成されたちらしであったか、あるいは取り調べ時にドラマで刑事がよく頼んでくれるカツ丼的な意味あいにおけるちらし寿司であったか。

どちらにしろその時、食べたいと思わなかったことだけは憶えているのだが。


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短篇小説「かもしれない刑事」

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「こいつが犯人かもしれないし、あいつが犯人かもしれない。犯人かもしれなくない奴なんて、この地球上には誰ひとりいないのかもしれない」

かもしれない刑事は、あらゆる可能性を信じる男だ。彼にとって確率の高低は意味をなさない。1%も99%も、「可能性がある」という意味において、まったく同じと見なされる。どちらも「かもしれない」ということだ。

お陰で常に容疑者は増えるばかりである。かもしれない刑事はいつでもどこでも聞き込みばかりしているが、それは「犯人かもしれない」人物が街中にあふれているからである。逆にいえば、「犯人かもしれなくないと確信できる人物」がどこにも見当たらないからである。

それは犯人がまだ捕まっていない以上、当然のことなのだが。犯人さえ捕まれば、「犯人かもしれない」人物たちは一斉に「犯人かもしれなくない人物」に変身する。しかし犯人が捕まってしまえば、もはや刑事が捜査する必要などないのである。

つまり、かもしれない刑事が聞き込みをしなければならないのは、誰もが「犯人かもしれない人物」に見えるときだけだ。

かもしれない刑事はいま、殺人犯を追っている。殺人犯は人を殺したのかもしれないし、殺していないのかもしれない。ということは逆に、殺人犯でない人は、人を殺していないのかもしれないし、殺したのかもしれないということだ。

ゆえに、かもしれない刑事にとっては、世の中の全員が容疑者ということになる。そう考えていくと、「全員」と言っている以上、その中にはもちろん自分自身も含まれるのかもしれないということに、かもしれない刑事はふと気がついたのだった。

思い立ったが吉日。かもしれない刑事は聞き込みを切りあげて職場へ戻り、とりあえず自首してみることにした。

職場の刑事たちはいちおう逮捕して聴取して釈放してあきれ顔。いつものことである。


100%・・・SOかもね! (オルゴール)

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