泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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2018年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・ソング10選

1位「Thousand Years」/BE THE WOLF

弾けるポップセンスとめくるめくメロディ展開の妙。ギターと歌メロの容赦なきせめぎ合い。
現時点において、もっとも万人に開かれたハード・ロック

同じく秀逸なメロディが続けざまに放たれる「Here And Now」、冒頭を飾る疾走曲「Burn Me Out」と迷ったが、僅差でこの曲を。

しかしこちらの楽曲、MVも公式音源もYouTubeに上がっていないので、代わりに「Burn Me Out」を貼ろうかと思ったが、そちらはアルバムベスト10のほうで貼っているため、いっそ同タイプ別バンドのおすすめ曲を貼ってしまおうという、勝手に波乱の幕開け。

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Thousand Years

Thousand Years


2位「Witch Image」/GHOST

見た目どおりの荘厳な音色で、見た目に反したメルヘンチックな美旋律を彩る独自の世界観。

そのやや入り組んだ魅力が、ここへ来て明快かつシンプルな形を手に入れた。

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Witch Image

Witch Image


3位「Undefeated」/TREAT

最新作『TUNGUSKA』は、その大半の曲をこのランキングに入れたいくらい良曲揃いのアルバムだった。

重々しくアルバムの開幕を告げる「Progenitors」、スケールの大きなメロディーをゆったりと全体に行き渡らせる「Rose Of Jericho」あたりと迷いつつ、クセになるサビの歌いまわしを重視してこちらの曲に。

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Undefeated

Undefeated


4位「Brothers Of The North」/GUARDIANS OF TIME

忘れられがちなノルウェー産パワー・メタル・バンドの新作『TEARING UP THE WORLD』より。
過去にも彼らの「TriOpticon」という曲が頭の中を終始駆け巡って離れない時期があって、個人的には時おりツボに嵌まる名曲を繰り出してくる侮り難いバンド。

方向性としてはFIREWINDやNOCTURNAL RITESに近いが、知名度的にもこちらのほうが見過ごされる確率は高いだろう。
とはいえ判官びいきなどではなく、純粋に楽曲の質で選んだ。そのスタンスはランキング全体に共通している。

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Brothers of the North

Brothers of the North


5位 「Metamorphosis」/NOZOMU WAKAI’S DESTINIA

疾走曲のどれもが素晴らしかった新作『METAL SOULS』の中でも、特にいい意味でジャパニーズ・メタル離れした、ワールド・クラスの雄大なメロディー展開を見せてくれた1曲。
若井望のギター・ワークと作曲センスは、実力者から引く手あまたのマグナス・カールソンを彷彿とさせる。

同曲のオフィシャル動画がなかったため、同作から比較的方向性の近い楽曲を貼らせてもらうが遜色はない。

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Metamorphosis

Metamorphosis


6位「Set The World On Fire」/GIOELI-CASTRONOVO

元HARDLINE組の魅力が詰まった1曲。

詳しくはアルバムリリース前に以下の記事で書いたが、アルバムのほうはHARDLINEというよりは「ゆるめのJOURNEY」といった按配の地味めな楽曲が多く、この1曲が突出していた印象。

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Set the World on Fire

Set the World on Fire


7位「Ascension」/LIONE-CONTI

LIONE-CONTIは、イタリアの実力派ヴォーカリスト2人によるプロジェクト。

にもかかわらず、この曲の主役は明らかに、プロデュースをも手掛けるDGMのシモーネ・ムラローニによる圧巻のギター・プレイだろう。
この人のギターもまたマグナス・カールソン的で、楽曲やフレージングのクオリティも勝るとも劣らないレベルにある。

いまテクニカル・ギタリストたちの中心にいるのは、各方面で数々のセッションをこなしてきた(そして近年はそのオーバーワークによりアイデアがやや消耗しているようにも感じる)マグナス・カールソンなのかもしれない。

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Ascension

Ascension


8位「Just Tell Me Something(featuring Danny Worsnop)」/ALL THAT REMAINS

メロディー重視へと向かっていた近作よりも激しさを取り戻し、ハードコア方面へとレイドバックした最新作『VICTIM OF THE NEW DISEASE』は、個人的には期待していたのとは違う方向性の作品だった。

だがその中で、前作まで積み上げてきたアメリカン・ヘヴィ・ロック寄りのキャッチーな歌メロがひときわ輝いていたのがこの楽曲。

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ジャスト・テル・ミー・サムシング (feat. Danny Worsnop)

ジャスト・テル・ミー・サムシング (feat. Danny Worsnop)


9位「The Moment」/CONCEPTION

再結成CONCEPTIONのミニ・アルバムから、落ち着いた中にも摩訶不思議なアレンジ・センスが炸裂するエキゾチックな曲を。

中盤のギター・ソロのあたりから顔を出す中華風のメロディーと音色、そして曲調に対して手数の多いドラム、意外と自在な動きを見せるベース・ラインと、カーンの歌だけではない、バンドとしてのCONCEPTIONの魅力が存分に発揮されている。

再結成前の路線における佳曲「Grand Again」と迷ったが、さらなるバンドの新境地を感じさせるこちらに。

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The Moment

The Moment


10位「Firepower」/JUDAS PRIEST

各方面から絶賛を浴びたプリーストの新作。
しかし神盤『PAINKILLER』を聖典と仰ぐ身としては、ソリッドさよりも往年のダルなロック風味が支配的なアルバムで、正直物足りなさのほうが大きかった。

そんな中、アルバム冒頭に位置するこの曲に対する力の入れようが、作品の評価を底上げしているのは間違いないと思われる。
とはいえプリーストの過去の名曲群に比べれば、正直全体としてはさほど特筆すべき曲でもない。

しかしこの曲のクオリティを各段に向上させているのは、サビ直後に差し込まれるギターソロのフレーズ一発だろう。
いかにも「後からプロデューサーの提案で差し込みました」という「後のせサクサク」感のあるフレーズで、ロイZあたりが付け加えそうなソロである。
しかし今回ロイZは関わっていないようなので、今作をプロデュースしたアンディ・スニープあたりの提案によるものかと勝手に邪推している(そういえばマイケル・アモットが弾きそうなフレーズではある)。

アレンジの力を改めて思い知らされる1曲。

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Firepower

Firepower


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2018年ハード・ロック/ヘヴィ・メタル年間ベスト・アルバム10選

1位『TUNGUSKA』/TREAT

ツングースカ【通常盤】

ツングースカ【通常盤】

  • アーティスト: トリート
  • 出版社/メーカー: FRONTIERS RECORDS Licensed by Frontiers Records s.r.l.
  • 発売日: 2018/09/05
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間違いなく、今年断トツで回数聴いたアルバム。聴けば聴くほど発見があり、好きな曲がどんどん増えていくという稀有な聴取体験。北欧メロディアス・ハードの魅力が凝縮された一作。

作り手も聴き手も、先人たちの手によってすっかり刈り取られてしまったかに見えるメロディのバリエーションに限界を感じ、逃げるようにリズムやグルーヴ重視の方向へと退路を求める昨今。

それでも音楽においてメロディこそが最重要なのだと、改めて美旋律の底力を堂々と証明してみせた。

詳細は以下アルバム・レビュー参照。
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2位『PREQUELLE』/GHOST

PREQUELLE

PREQUELLE

荘厳な茶番。退廃のポップ。絶望のユートピア。あらゆる対立イメージを丸ごと呑み込み生まれ変わらせてしまう音楽的包容力。

それでいて至極キャッチーな仕上がり。ロック勢が苦戦する中、全米チャート第3位に食い込んだ。

こう見えて、いまメタルの中心地はここにある。

詳細は以下アルバム・レビュー参照。
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3位『EMPRESS』/BE THE WOLF

エンプレス

エンプレス

哀愁を撒き散らして疾走する①「Burn Me Out」を聴いた時点で、「北欧のMOTORHEAD」という表現が頭をよぎる。あれBE THE WOLFってこんなバンドだったっけ? いやそれ以前にイタリア産なのだが。

しかし2曲目以降は全然そうではない。MOTORHEAD的な前のめりの爆走感ではなく、縦に跳ねる感触。王道のメタルというよりは、FALL OUT BOYMY CHEMICAL ROMANCEあたりのエモ系に近い甘美な旋律。①の完成度が高すぎるためこの方向で駆け抜けてほしいと思いつつも、②以降のポップ・センスこそがこのバンドの本質だろう。

メタル以外のリスナーにもアピールし得る開けた感性が光る、粒揃いの楽曲群。

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4位『METAL SOULS』/NOZOMU WAKAI’S DESTINIA

METAL SOULS【初回限定盤CD+ボーナスDVD(初回限定盤ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付)】

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  • アーティスト: Nozomu Wakai's DESTINIA,若井望,ロニー・ロメロ,マルコ・メンドーサ,トミー・アルドリッジ
  • 出版社/メーカー: ワードレコーズ
  • 発売日: 2018/05/23
  • メディア: CD
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RICHIE BLACKMORE'S RAINBOWのロニー・ロメロ(Vo)に、マルコ・メンドーサ(B)、トミー・アルドリッジ(Dr.)という、現時点で集め得る最高のメンバーを召還して制作された日本人ギタリスト若井望率いるバンドの新作。といっても、メンバーが全然違うのでニュー・プロジェクトと言うべきかもしれない。

とにかく驚いたのは、業界では引っ張りだこの実力者ロニー・ロメロの歌唱力が、ここでこそもっとも引き出されていると感じられること。それほどまでに歌メロが充実している。

むろん歴戦のリズム隊はおそろしくタイトで、それに対し若井のギターはまだまだ「味」という面で伸びしろがありそうだがソリッドに攻める様が潔い。

特に疾走曲のクオリティにはいずれも目を見張るものがあり、その根底に流れるメロディには、ジャパニーズ・メタル特有の哀感とともに、日本人離れしたスケールの大きな飛翔感や希望的感触が間違いなくある。

その分、ミドルテンポ~バラード系の楽曲においては哀愁が足りないと感じる部分もあるが、このグローバルなメロディ・センスは、世界と戦う上で強力な武器となるだろう。

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5位『ARMOR OF LIGHT』/RIOT V

アーマー・オブ・ライト【初回限定盤CD+ライヴCD(日本語解説封入/歌詞対訳付)】

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「マーク・リアリのいないRIOTなんて」そんな後ろ向きな気持ちを、8割方解消してくれたRIOTの新作。残りの2割だけ物足りなさが残ってしまうのは、限定版特典ディスクのライブ音源に収められているマーク時代の楽曲群があまりに素晴らしいせいだ(なぜ名曲「Flight Of The Warrior」が収録されていない?)。

今回も『THUNDERSTEEL』あたりを彷彿とさせる疾走曲満載で、方向性はまさにファンの求めるそれだが、そのぶんやや単調なきらいもある。

だが残されたメンバーでここまでできるというのを証明したという意味では、今後に希望の持てる前向きな一作。

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6位『THE FACE OF FEAR』/ARTILLERY

Face of Fear -Digi-

Face of Fear -Digi-

とにかく「切れ味」を感じさせる一枚。

これまでよりミドル・テンポの楽曲が多いことにやや不満を感じないでもないが、疾走パートで見せる鋭さに鈍りはない。

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7位『TIARA』/SEVENTH WONDER

ティアラ

ティアラ

今年はKAMELOTの新作もリリースされ大忙しのトミー・カレヴィックだが、彼の繊細なビブラートがより生きるのは、このSEVENTH WONDERのほうなのかもしれない。

プログレッシヴ・メタルの複雑な旋律が、彼のポテンシャルを最大限引き出している。

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8位『SEVENTEEN』/KAYAK

セヴンティーン

セヴンティーン

ファンタジックかつメルヘンチックな美旋律をプログレッシヴな展開美で描き出す柔らかな世界観。

オランダ産ならではの牧歌的な旋律と音色が、すっと心に入ってくる。

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9位『ANTHEM OF THE PEACEFUL ARMY』/GRETA VAN FLEET

アンセム・オブ・ザ・ピースフル・アーミー

アンセム・オブ・ザ・ピースフル・アーミー

  • アーティスト: グレタ・ヴァン・フリート,ジョシュア・マイケル・キスズカ,ジャコブ・トーマス・キスズカ,サミュエル・フランシス・キスズカ,ダニエル・ロバート・ワグナー
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  • 発売日: 2018/10/19
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いま各方面で話題の驚異の新人バンド。

古くて新しいそのスタイルはLED ZEPPELINの影響下にあり、今のところその影響があからさますぎて興を削がれる瞬間も少なくない。

しかし①「Age Of Man」あたりの郷愁あふれるメロディには、聴き手の情感に訴える非凡なセンスを感じる。むしろおとなしめの曲のほうが、メロディが引き立つタイプなのかもしれない。

この先LED ZEPPELINの巨大な影響からどのように離陸していくのか、その道のりはとても興味深い。

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10位『MY DARK SYMPHONY』/CONCEPTION

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KAMELOTで名を馳せたロイ・カーン(Vo)が戻り、まさかのCONCEPTION再結成。

個人的にトゥーレ・オストビーは稀代のギタリストだと感じていて、ヨルン・ランデと組んだARKでも抜群のアレンジ・センスとギター・プレイを披露していた。カーンの復帰も嬉しいが、奇才トゥーレの復活というところにこのバンド再結成の大きな意味があると感じている。

再結成前の初期作品と比べるとややおとなしめの楽曲が多いが、陰鬱なメロディーと細やかなアレンジの妙はやはりCONCEPTIONならでは。

全6曲のミニ・アルバムなのでやや反則気味ではあるが、フル・アルバムへの期待も込めてここに。

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ネジゴンクエスト~真空のネジ穴~

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日常には様々なミッションが潜んでいて、その規模が大きければまた達成感も大きいとは限らない。たとえば面白いゲームというのは達成感を得られるものだが、その面白さの主たる要因は何かというと、基本的には難易度設定であると思う。これは仕事でも遊びでも日常生活でも変わらない。

つまらないゲームというのは、多くの場合「難しすぎる」か「簡単すぎる」かのどちらかで、どちらの場合も人間はわりとすぐにモチベーションを失う。たとえばサッカーのゴールがもうひとまわり小さかったら、多くの試合が0対0で終わり、やる人間も観る人間もはるかに少なかったかもしれない。反対にゴールがひとまわり大きくて人数も5人ずつ多かったら、今度はイージーすぎてやはり人気が出なかった可能性もある。

大事なのは難易度設定であり、逆に難易度さえ適切であれば、すべての事象はゲームに変えられる。

僕の住んでいる賃貸物件で先日、シンク下収納の扉を支えている四つの蝶番のうち、一箇所だけネジが外れているのを発見した。そういえば当初から、扉の締まりが甘いことを見て見ぬふりしてきたのだった。その甘さがついに限度を越えてぐらぐらになり、この段になって初めて詳細に目を配ったところ、問題箇所を発見してしまったという按配である。

もしかすると最初からその一箇所だけネジが外れていたのかもしれないし、使用しているうちに外れてしまったのかもしれない。いずれにしろネジが一本見当たらないのだが、拾って捨てた覚えもない。だとするとやはり、初めから一本欠けたまま、ギリギリの状態で支えていたところに限界が訪れた、と考えるのが妥当であると思われる。

こういう問題は、発見してしまった時点で明確な問題となる。発見しなければ問題にはならないのだが、発見してしまったものを発見していない状態に戻すことはもはや不可能である。それが問題としていったん確定したからには、それを解決しなければならない。

ここで僕が望むのは、ただその問題が、どうか適切な難易度であってくれというただ一点である。先ほども書いたように、物事は適切な難易度でさえあれば、ゲーム内のミッションとして楽しむことができるのであるから。

この場合まず第一に考え得る対応策は、不動産屋に連絡して修繕を依頼することだろう。さすればおそらく無料で直してもらえるはずだが、そもそも連絡を取りあったり日程調整するのが面倒である。それにたったネジ一本のことでなんとなく「物件を雑に扱っている客」と思われるのも、のちのち退去時などに不利に働きそうで、長い目で見ると損失のほうが大きいような気になってくる。

そして何より、この方法は難易度が低すぎてつまらない。難易度が低いのに面倒くさくてイメージダウンにもつながるなんて、わざわざ最初に選ぶべき選択肢ではない。これは最後の手段に取っておくべきだと考えた。

そこで第二の手段として考えたのは、ごく当たり前だが自分でネジを買ってきて入れるという方法である。とりあえず僕は、残り三箇所の蝶番に埋め込まれているネジのうち一本を外し、その形状を確かめることにした。

すると取り出したネジの形状は思いのほか短く、嫌な予感がした。こんなに短いネジは、あまり見たことがない。だとするとこれは入手困難な特殊ネジなのかもしれず、ジャストサイズのネジが市販されていない可能性もあるのではないか。

そもそもネジの規格というものがどの程度のレベルで普及しているものなのか、そんなことすらさっぱりわからない。昔ラジコンを作っていたころの経験で、ネジというのはバリエーションが無数にあるわりに、ハマる時は意外とハマるという感覚もあって、相当な精密機械でもない限り、わりと一般に普及しているサイズのネジを使用しているような気がしないでもない。

と、このあたりまで考えたところで、僕はこの一本のネジを探し当てるというクエストが、自分にとってちょうどいい難易度を持っていることを予感したのだった。つまりこのミッションは、わりと気持ち良くゲームとして楽しめるのではないかと。

僕はまず、インターネット上でこのサイズのネジが市販されているのかどうかを調べることにした。それにはまず、失われしネジのサイズを測る必要がある。僕はいま一度ほかの蝶番からネジを外し、定規でサイズを測ろうとするのだが、しかしそこでふと疑問が湧いた。これはいったい、どこからどこまでのサイズを測れば良いのかと。特に長さに関して。

ネジ頭のてっぺんから測るべきなのか、それともネジ頭は含めずに、ネジ頭の裏側からはじまるネジが切ってある軸部分のみの長さを測るべきなのか。なんとなく前者のような気がしたが念のため「ネジ 測り方」で検索してみると、答えは後者だった。危ないところだったが、同時に「ちょうどいいぞ!」とも感じていた。

何がちょうどいいかというと、難易度が、である。「6:4」で前者かな、と思ったものが、調べてみると後者だった、という絶妙な裏切り加減。「8:2」の予想をひっくり返されるとなかなか腑に落ちないものだが、「6:4」くらいだとむしろ覆されたほうが気持ちいいのである。

そうして付け焼き刃の知識でネジを計測すると、「(直径)4mm×(長さ)5mm」であることが判明。さっそくネットで検索をかけてみる。すると、ジャストサイズのネジがどうにも見当たらないことに気づく。径に関しては4mm以下のものもあるのだが、長さに関しては、どうやら6mm以下のものはあまり市販されていないっぽい。つまり「4mm×6mm」のネジが入手可能な範囲で現物に一番近いということになるが、この長さ1mmの誤差を許容して良いものかどうか。

困ったものだが、ちょっと考え方を変えてみればこれはこれで悪くない。ここでいきなりジャストサイズが見つからず、わずか1mmの壁が出現するというのも、難易度設定としては絶妙であるような気がしてくるではないか。

しかしさらに問題なのは、ネットでネジを買う場合、小さいネジの場合は1本単位では売っておらず、何十本もセットで買うことになるということ。そして、ネジよりも送料のほうが高くなってしまうということだった。

となると、やはり店舗で買ったほうが良い。安くて小さい商品なので、それでも1本単位では売っていないだろうが、送料もかからないし、慣れない品は何よりも実物を見て買うほうが安心である。

それにネットで安易に解決することを許さず、現場へ足を運ばせるという難易度もまたちょうど良いではないか。

そう判断して、僕は後日東急ハンズへと向かった。ネジ売り場には無数のネジが並んでいる。その物量に圧倒されつつも、鋼鉄の海の中からなんとか「4mm×6mm」のネジを発見した。1本しか必要ないのに12本セットではあるが、とりあえずこれが最小単位であるようだ。さらにワッシャーとナットもセットになっているのは余計にも思われたが、考えてみればワッシャーはむしろ必要になるかもしれない。

僕の計測によれば、なくなったネジのサイズは「(直径)4mm×(長さ)5mm」であるのだが、長さ5mmのネジはやはりなく、仕方なく近似値である「(直径)4mm×(長さ)6mm」のネジを選んでいる状態である。つまりネジ穴に対して長さが1mm余る可能性があるわけだが、余った長さのぶんは、間にワッシャーを何枚か噛ませれば調整できるのではないか。

ここで余計なパーツがひとつ必要になるあたりも、難易度としては実にちょうど良い。

僕は目的の品を手に入れて満足気に帰宅すると、さっそく買ってきたネジを袋から取り出し、待ちくたびれているネジ穴へと放り込んだ。するとスムーズに放り込んだはいいが、どうにも放り込めすぎるのである。簡単に入りすぎる。ネジが回りすぎる。そしてすぐにポロリと取れる。……そう、ネジ穴のサイズが全然あっていないのだ!

焦った僕は再度、ほかの蝶番からネジを抜いて、新しく買ってきたネジと並べてみる。……全然太さが違うじゃあないか!

改めて定規で計測してみると、正しいネジのほうは、どうやら太さが4mmではなく5mmあるっぽいことに気づく。でもそれは、4mmと言ってもいいくらいの5mmだ。しかし5mmは5mmなのであって、どう転んでも4mmではない。たった1mmの差であるのに、全体のシルエットは見れば誰でもわかるくらいの別物である。なんて浅はかなケアレスミスであろうか。

しかし幸いであったのは、このネジ12本セットの入手価格が百円程度であったということだ。これくらいならば勉強料としてちょうど良い。不動産屋や修理業者とやりとりする時間を時給に換算すれば、きっとそれくらいは超えるだろう。

短すぎてほかにはさっぱり使い道のなさそうなネジだが、やはり一発で正解が出てしまったら簡単すぎてつまらないというのもあるから、この不正解すらちょうど良い難易度設定にひと役買っているとも言える。もはや「これはゲームなんだ」と自分で自分を洗脳しているようでもあるが、それで良いのだ。洗脳される相手が自分ならば、それは「洗脳」ではなく単なる「考え」であるから問題はない。

そして後日僕は、再び東急ハンズを訪れた。前回の経験値があるから、ネジ売り場でも迷いはない。今度は前回よりも1mm太い「(直径)5mm×(長さ)6mm」のネジを選んで購入した。やはりワッシャーつきで百円である。

帰宅すると、取るものも取りあえずシンク下へとしゃがみ込み、ネジをネジ穴へと放り込んだ。今度こそ確かな手ごたえ。それでも本来のネジに比べると1mm長いという不安は残っていたが、ネジ穴がいくらか深めに切ってあるようで、残りの1mmもワッシャーなしで難なく収まった。扉の開閉も問題なく、むしろ引っ越してきた当初よりも良くなったと言える。

こうして僕のクエストは無事達成された。たったネジ一本の話だが、これは人生の話でもある。難易度さえ適切であれば、それを楽しむ方法は確実に存在する。僕は窓の外の夕焼けを見上げながら、中尾彬のネジネジに思いを馳せた。

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