泣きながら一気に書きました

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『TUNGUSKA』/TREAT

ツングースカ【通常盤】

ツングースカ【通常盤】

名盤は、時として摑みどころがない。

それはまるで取っ手のないトランクのようなもので、一聴したところ、どこを掴んで良いものかわからない。

なぜそのようなことになるかというと、作品の中に山が多すぎて、結果的にそれは平坦に見えてしまうからだ。山が多ければそれは山ではなく山脈になり、もっと多ければ台地になる。楽曲粒揃いであればあるほど、形状としては起伏の少ない台地に近くなる。そこにはある種平坦な印象が伴う。

たとえば、あのインスタント食品に付属している調味料小袋類の「マジックカット」。切れ目が入っていればそこから切れば良いとすぐにわかるが、切れ目不在のマジックカットはどこを切って良いものかわからない。しかし実際には、「どこからでも切れる」ようにできている。言ってみれば全部が山場(谷間?)であり、それがウェルメイドであるということだ。

別の言いかたをすれば、名盤とは、「聴くたびにピークがズレる作品」のことである。聴き手は一聴してまず、「あ、この曲が一番好きだな」というピークを作中に発見する。多くの場合、その先聴く回数を重ねても、最初に見定めたピークがズレることはない。恋愛バラエティにおける常套句「第一印象から決めてました!」というのは音楽との出会いにも当てはまるありがちな事実で、そう簡単に人の判断が変わることはない。

だが名盤とはピークの多い作品のことである。そしてどういうわけか、人がひとつの作品の中に、複数のピークを一度に発見することは困難であるらしい。あるいは聖徳太子なら可能なのかもしれないが……アイスのあたり棒を持っているアイツなら。

その結果、お札にもなれず憲法も作れない一般的な聴き手は、名盤を聴くたびに新たなピークをひとつずつ発見することになる。それは実際には「たくさんの山を次々に発見していく」プロセスなのだが、聴き手の印象としては「作中の山場が前へ後ろへとズレていく」という、アルバム全体を折れ線グラフで捉えているような感覚がある、ような気がする。

ずいぶんと一般論的な前置きが長くなったが、この『TUNGUSKA』という変な名称のアルバムは、それほどまでに普遍的な魅力を放っているということだ。普遍的なことを伝えるためには一般論が要る。

本作はスウェーデンのメロディアス・ハード・ロック・バンド、TREAT8枚目のアルバムであり、再結成後3作目のアルバムとなる。

TREATは80年代に3rd『DREAMHUNTER』、4th『ORGANIZED CRIME』という2枚の傑作をリリースしているが、個人的には再結成後の1作目である『COUP DE GRACE』を、アルバム単位での最高傑作と捉えている。18年振りの再結成作で最高傑作を生み出すなどという奇跡は、滅多にあることではない。しかし続く前作『GHOST OF GRACELAND』は、その充実した雰囲気を引き継ぎつつも、内容的にはいま一歩及ばない仕上がりであった。

実はこの『TUNGUSKA』を初めて聴いた際にも、それとまったく同じような印象があって、正直、またもや『COUP DE GRACE』を薄めたような作品だと感じていた。いや実際のところ『COUP DE GRACE』とは、このバンドにとって十字架といってもいいほどに完成度の高い作品であった。比較対象が悪すぎる。

そう思いながらも、やはり過去3枚もの傑作を生み出しているバンドの新作を信じないわけにはいかない。そう思って繰り返し聴き続けるうち、まさしく先に述べたようなスライド現象が、聴き手である自分の中に起きていることに気づいた。

「アルバムの、ピークが、ズレていく!」

こういうレビューもあまりないと思うので、思い出せる範囲でその「本作に対する自分内ピークがズレてゆくプロセス」を具体的に描写してみたい。

当初は先行MVにもなっていたことから、⑦「Build The Love」を、なんとなく自分の中でアルバム内のピークに設定して聴きはじめた。第一弾MVに選んだというのは制作者サイドの自信の表れでもあるだろうし、アルバムリリース以前から聴いていた曲であるがゆえに、他の曲より耳馴染みが早いのも自然なことだ。だがやはり、『COUP DE GRACE』に収められていた名曲「Papertiger」あたりに比べると、メロディの輪郭が不明瞭でやや弱いとは感じていた。

そこから聴き進めるうち、今度は⑫「Undefeated」の魅力に気づきはじめる。なぜこの曲をわざわざこんな後ろに置いたのかはわからないが、このメロディならば『COUP DE GRACE』が誇る名曲群に対抗できるような気がじわじわとしてくる。このあたりで、実はこれは全体的に凄いアルバムなんじゃないか?という予感を抱きはじめる。
 
と、そうしてちょうど自分内ピークがアルバム中盤からラストへ移行したころ、ネットで④「Rose Of Jericho」のリリック・ビデオが公開されたとの情報を目にする。「なんで『Undefeated』ではなく、あえてそんな地味な曲を?」と訝しがりつつ、リリック・ビデオを観る。やはり地味だ。

と思いつつも、再びアルバム全体を通して聴いていると、どうにもこの「Rose Of Jericho」という曲が気になりはじめる。いやもう気になるどころか、気づいたらタイトル・フレーズを口ずさんでいる。「これは……恋なのか?」というくらい自然に、この曲が好きであることに気づく。ここでアルバム内ピークは4曲目に移る。

そうなると、続く⑤⑥も④からの流れで注目するようになり、どちらも良いメロディを持った佳曲であると認識する。すでにだいぶ空欄が埋まってきた感がある。

そこまで来ると、今度は急に前半に見落とし聴き落としがあるような気がしはじめ、やはり1曲目をもっとちゃんと聴こうという気になる。すると今さらながら、①「Progenitors」の壮大なスケール感とアンセム的な力強さ、そしてもちろんその芯にあるメロディの質の高さに頭をぶん殴られた気分になる。さらにはこのバンドのリズム隊が実は強力であることをも、改めて痛感。なぜ最初からこれに気づかなかったのかと、自分の鈍感さに怒りを覚えるほどに。

というわけで今のところ、個人的な本作のピークは1曲目に移行している。ただし⑨「Riptide」もキャッチーでいい曲だし、1曲目からの流れで聴く2、3曲目もやはりいい。いや客観的に見れば、やっぱり⑫「Undefeated」が本作のベスト・ソングかもしれない。まだまだピークが移り変わってもおかしくないし、どこを切り取っても美味しい。そんなアルバムはそうそうあるもんじゃない。

パッと聴いたときの印象では、あの衝撃の復帰作『COUP DE GRACE』ほどの、誰もが振り返るようなキャッチーさがあるわけではないから、入門者にはやはりあちらを勧める。しかしそのぶん、繰り返しの聴き込みに耐えうる強度と、聴けば聴くほど味が出る深味を持っているという意味で、個人的には今や総合力で本作に軍配を上げる。つまりこの『TUNGUSKA』が、現時点におけるTREATの最高傑作だと感じている。

それはよくアーティスト本人が口にするような、「最新作が常に最高傑作」的なお決まりの論法ではなく、真っ当に正面から向きあって聴き込んだ末に出した、現時点における結論。

間違いなく、今年のベスト・アルバム第1位最有力候補作である。


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