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ディスクレビュー『PREQUELLE』/GHOST

PREQUELLE (DELUXE EDITION) [CD] (LENTICULAR ALBUM COVER INSERT, 2 BONUS TRACKS, LIMITED)

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もはや全世界的に「メタル」というジャンルそのものを背負うまでに成長したGHOSTの新作。昨今はすっかりラップまみれでメロディを見失いつつある全米チャート第3位は、快挙と言っていい。メタルの世界基準はいまここにある。

前作「MELIORA」、そして続くミニアルバムに収められた「Square Hammer」に続く作品であり、音楽的にもまさにその斜め上へと正当進化を遂げている。歌メロの輪郭はより明瞭になり、フレーズの並びにも必然的なつながりがこれまで以上に強く感じられる。明らかに全体の精度が向上している。

特にそのメロディが放つ荘厳なロマンチシズムは圧倒的だ。牧歌的かつ荘厳、力強くも柔らか、重厚感あふれる浮遊感、絶望的な多幸感――あらゆる両極を射程に収めつつ、物事の両極はいつだって円環構造でつながっていることを証明してみせるようなメロディ。東西南北どの端も、一周まわってお隣さん、といった塩梅。

「荘厳」とは「グロテスク」であるということであり、「ロマンチック」であるとは「絶望」を知っているということである。そういえばこのバンドには、前作から今作までの間にこんな絶望的な出来事があった。

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《ライブ後の衣装は、ネームレス・グールズの一人がアパートの共有洗濯機を使って洗っていたことも分かった》
《ネームレス・グールズたちは雇われミュージシャンにすぎない》
《匿名で活動しているネームレス・グールズは代替可能だ》
《非常識なほど不誠実で、欲深く、ダークだ。ダークといってもゴーストが歌う曲のようなダークさではなく、富と名声に手が届きそうになると親友たちを裏切るようなダークさだ》

などなど、まさに「泥仕合」としか言うほかない訴訟が、中心人物であるパパ・エメリトゥス3世と、彼曰く「雇われミュージシャン」であるところの「ネームレス・グールズ」たちとのあいだで勃発していた。それにしてもあの変な衣装の洗濯は大変そうだ。

しかしこの絶望的な状況がこれほど良質な作品を生み出してくれるなら、絶望も悪くない。絶望と希望さえも、隣りあわせてすっかりひっくり返してしまうのがこのGHOSTの凄さであると言ってみようか。

結果的にパパ・エメリトゥス3世を除くネームレス・グールズたち、つまりバンドメンバー全員をクビにして総入れ替えした効果は明らかに良いほうに作用しているが、その効果の方向性もまた、二つの極に分かれているのが面白い。

ひとつは先にも触れたように「歌メロの明快化」で、これはより完全なワンマン体制が整ったという意味で、想像の範疇と言っていいかもしれない。すでに「キャッチー」を越えて「ポップ」とさえ言えるほど親しみやすいメロディにあふれている。

むしろ意外なのはもうひとつの方向、つまり「プログレ化」のほうで、楽器陣を総入れ替えした結果、より自由闊達な演奏が随所で繰り広げられるという効果が生まれている。

特に⑤や⑨あたりの、5分を越えるインスト曲の耽美性と展開力は完全にプログレッシヴ・ロックのそれであり、今回の訴訟を機にバックのメンバーを一気にグレードアップさせたか、あるいはさらにロボット化&下僕化して隅々に至るまで自らの指示を完全に行き渡らせたかのどちらかであろう。

なんとなく後者のような気がしないでもないが、パパ・エメリトゥスが本当にひとりでなんでもできるイングヴェイ型であるならば、必要なのは「有能な部下」より「従順な下僕」であるのも残酷な事実。

個人的なハイライトは、牧歌的な歌メロとギターの絡みが絶妙な⑧「Witch Image」と、柔らかな絶望に包まれつつ昇天できる⑩「Life Eternal」。

いずれにしろこれほど素晴らしいアルバムの日本盤リリースがないというのは、由々しき事態と言うほかない。たしかにメロディック・スピード・メタルほど即座に日本ウケする方向性の音楽ではないが、この良質さに気づかない、あるいは気づいていても売ろうとしないというのは、すなわち世界市場からの離脱を意味する。

ちなみにDELUXE EDITIONのボーナス・トラックに入っている「It's A Sin」(PET SHOP BOYSのカバー)が、バンドにおそろしくフィットしていて素晴らしい。むろん原曲のメロディが圧倒的に凄いのだが、こんなところとも美旋律を通じてたしかにつながっていると感じられるのが嬉しい。


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