さて、アーセナル好きとしては最注目のイングランド。いまや屈指のタレント軍団である。
まずは右ウイングに、どちらもエース級のサカとフォーデンのどちらを使うのか、そういえば今季ブレイクしたパーマーもいるし――なんて思っていたら、フォーデンを右にしてしれっとサカと両立させてきた。一方でパーマーの立場が、いくら好調とはいえまだ代表では確立されていないのもわかる。
だが意外なのはそれだけではなかった。スタメンにウォーカー、トリッピアー、アレクサンダー=アーノルドと、なぜか右サイドバックの名前が3人も並んでいる。どういうこと?
蓋を開けてみればトリッピアーが左サイドバック、アーノルドがボランチ、そして本命の右サイドバックはウォーカーということらしい。それにしてもなぜ右サイドバックばかりを招集したのか。いや有能な選手が多いと監督が判断したからだろうが、それにしても本職の左サイドバックが誰もいないというのも珍しい。
つまり今回のイングランド代表は、異様に右寄りの人選なのである。もちろん思想の話ではなく(いやそこに関しては全然知らないし興味もない)、本職ポジションの話である。ちなみに上記ウイングの3人は、いずれも「Inverted Winger」と呼ばれる、外側からカットインしてシュートを打つ左利きの右ウインガー。
今回のイングランド代表に問題があるとしたら、一流選手たちと中堅監督のレベル差にあると危惧してはいたが、これは結構な謎采配ではある。まあ以前からちょくちょくやっていたようではあるが。
結果としては案の定というか、攻撃時の右サイド偏重が甚だしく、サカの相手を背負ってボールを収める能力ばかりが際立つことに。フォーデンがあんなに機能していないのは初めて観たかもしれない。
《餅は餅屋》――試合を観ていて、そんなことわざが何度も頭に浮かんだ。やはりいつもやっている仕事でこそ、人は輝けるのかもしれない。もちろんいまどきの流行りは複数ポジションをこなせる「ポリバレント」だし、アルテタのアーセナルもそういう選手を集めがちではある。
しかしそのためには相当な時間をかけて練習をしているに違いなく、事前に監督から緻密なプランもインストールされているはずだ。たとえば左サイドバックで起用されるときの冨安のように。
しかしどうやらサウスゲイトは、特にそれ用のプランなどないにもかかわらず、単に「能力値の高い選手がピッチ上にいっぱいいたほうがいいから」というだけの理由で、専門外のポジションに選手を配置しているように見える。これではまるでサッカーゲーム初心者のやりかたではないか。
たとえば右利きのサイドバックを左に置くというのは、グアルディオラがかつてカンセロで、アルテタが今シーズン冨安でおこなった「偽サイドバック」の手法だが、今回のトリッピアーは特に中に入ってボールを捌くわけでもなく、単なる「利き足を間違えた(間違えられた?)左サイドバック」でしかなかった。
出だしこそベリンガムの一撃で目が覚めたし、彼にはもはや王者の風格すら漂っているが、イングランドの試合中盤以降における得も言われぬギクシャク感は、やはりその不自然すぎるフォーメーションと無計画な采配にこそあると思われる。
個の能力に疑いはないが、この形のまま大会中に成熟してチームとして機能してゆくものなのかどうか。サウスゲイトに現状修正能力はあまり求められそうにないので、選手内の誰かがリーダーシップを発揮して選手たちだけでなんとかするしかなさそうだが。
終わってみれば1-0でイングランドの辛勝。とりあえず勝てたのは、相手もまたあまり戦術的ではないセルビアであったお蔭だろう。
ポーランド対オランダは、期待のシャビ・シモンズが全然活躍せず、テン・ハーグがわざわざ連れてきたわりにはあっさり袖にしたでっかいのが、出てきた途端に決勝点を決めるという意外な展開。しかしオランダは、いまのところあまり上手くいっているようには見えない。監督のクーマンも、ある種サウスゲイト以上の不安要素であるような気が。
スロベニア対デンマークは、エリクセンのミラクルなシュートだけハッキリ観ていた。やはり素晴らしい選手である。
そして今夜は、ややピークを過ぎた感のあるベルギー(トロサールに期待)と、イングランドと同じくスター軍団だがすでに実績も充分のフランスが登場。サリバはあれだけチームで活躍してもまだ、先発はさせてもらえないのでしょうか?