泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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ゆとり鬼逃走中

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ここ数日、節分から逃げてきた鬼たちがわが家に続々と駆け込んでいる。もちろん、うちに豆シェルターを完備しているからである。

毎年のことではあるのだが、今年はちょっと数が多いような気もする。やはりゆとり教育のせいで、豆に弱い鬼が増えているのだろうか。鬼の世界にも、昔は容赦なく豆を投げつける先生がいたものだが、近ごろは鬼親の苦情やネットでの悪評を怖れて、すっかりそういう鬼教師はいなくなったらしい。

昔は鬼教師の投げた豆を、金棒で豪快に打ち返す不良生徒が各クラスに2~3人はいた。今は金棒のように物騒な物を学校に持ってくる鬼生徒もなく、給食のグリーンピースを残すくらいが学校教育に対するせめてもの抵抗だという。時代は変わった。

そして近年はそんな金棒に代わり、関西から転校してきた鬼生徒が持ち込んだ武器を、節分の時期に隠し持っている生徒が多いらしい。武器の名を「恵方巻き」という。

私がその異常事態に気づいたのは、節分から逃げてきた鬼たちの被害状況を調べるため、彼らの身体検査をしていたときだった。

体にあらかじめ赤や青の色がついているため目立たないが、節分を乗り越えた鬼たちの体には、例外なく無数の豆サイズの痣が見受けられる。しかし数年前から、その中に何かストロークのある、棒状の痣がいくつか混じりはじめていることに、私は気がついたのである。

真っ先に思い浮かべたのは彼らの得物である金棒だが、先に述べたように今どき校則を破ってまで金棒を学校内に持ち込む輩はいないと聞いている。それにその痣は、金棒の表面にマウントされた鋲の尖りやヘッドからグリップへの逆三角形のラインを感じさせるものではなく、表面が平らかつ細長い長方形で、やや柔らかみすら読み取れる独特なものであった。

危険な行為や物質を表面的に禁止すれば、その危険は単純にこの世から消え去るというわけではない。それらはいったん地下に潜ったうえで、また別の形を伴って必ず再浮上する。それは人間社会が延々と繰り返してきた魔性かつ不毛なローテーションに違いないが、どうやら鬼社会でも、まったく同じようなサイクルが存在するのは避けがたい事実であるようだ。

というわけで次はいよいよ恵方巻きシェルターを作らねばならないが、はて、なぜ鬼たちを助ける必要が?


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ルパンに奪われしものたち シーズン3

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ルパンはこれまで、世界中の人々からさまざまな物を奪ってきた。いや、奪われたのは物だけではない。心や概念までも。

これはルパンの最新版盗難記録である。


銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのモスキート音です」(ジャパネット高田姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの息子の運転免許証です」(志茂田景樹姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの首の自立心です」(横山弁護士姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのレインボーブリッジを封鎖する権利です」(織田裕二姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの坂下千里子をひな壇に置きたがるところです」(池上彰姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのあばずれな涙腺です」(徳光姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの元アイドルという肩書きです」(彦摩呂姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの松岡修造に引っ張られがちなテンションです」(織田信成姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたのウーパールーパー感とゴールデン感とハンバーグ感です」(ウーピー・ゴールドバーグ姫に)

銭形「いや、奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの子供がまだ食ってる途中の料理です」(田中邦衛姫に)


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短篇小説「忘却無人」

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ポストにちらしが入っていたのがすべてのはじまりだった。ちらしといっても広告ではなくちらし寿司である。ポストかと思ったものはホストで、要はホストが家の前でちらし寿司を食っていたのである。いや食っていたのではなく、繰っていたのかもしれない。ということはやはりちらし寿司ではなく、広告のほうのちらしだったのか。だとしたらホストではなくポストだと考えたほうが自然だということになる。

いつも帰宅時にするように、鍵を差してひねってポストの蓋を開けたところ、中から大量のちらしがこぼれてきた。そのときツンとする酢の匂いを嗅覚が記憶しているということは、やはりそれは広告の別名としてのちらしではなく、酢飯をベースとするちらし寿司だったのだろう。しかし焼き上がり直後の写真というのもある種酸っぱい匂いのするものであるから、広告のほうのちらしであることも完全には否定できない。

もしも中身が酢飯だとするならば、やはり私が開けたのはポストではなく人間、つまりホストの口であったのかもしれない。もしも口に鍵のついたタイプのホストがいればだが。それはとんでもなく口の固いホストということになるだろう。ホストにとって「口が固い」というのが、はたして良いことなのかどうか。

こぼれ落ちたちらしは黄・赤・緑と実に色とりどりで、その色彩感覚はカラーの広告にもちらし寿司にも共通している。それを見てさすがに食べる気は起こらなかったが、そう感じた原因が紙であるせいなのか、地面に落ちて不潔であるせいなのか、他人の口の中にあった気持ち悪さのせいなのかは、いずれとも判断しかねる。しかし食べたいとは微塵も思わなかったのは事実だ。

ちらしが何を伝えたがっているのかはよくわからなかったが、それはちらしの文字情報が相も変わらず空間恐怖症的にゴチャついていたせいだろう。もしくはホストの口の中が、ちらし寿司で埋め尽くされていたからかもしれない。

もちろん、それがホストクラブのちらしであった可能性もある。その場合のちらしとは、いったい広告なのか寿司なのか。ホストとの相性という点から考えると、寿司のほうが良いような気はする。アフターで客と寿司屋へ行ったのか。しかしうちは寿司屋ではないのだが。

結局私は面倒になり、ポストあるいはホストとちらしはそのままにして、家に入り鍵を閉めて風呂に浸かってその日は寝た。幸い次の日は休日であったが、朝早く暴力的なインターホンに叩き起こされたのだった。玄関のドアを開けると二人の男が立っており、一人が警察手帳を誇示しつつ、今日未明あなたの家の前にあるポストの中から、ちらし寿司と広告ちらしにまみれたホストの死体が発見されたと告げた。死体はすでに撤去したという。

そのあと手帳を見せつけてこないほうの刑事から、つきましてはちょっとお話をお聞かせ願いたい、まずはこのちらしをどうぞと言って手渡されたものは、捜査情報をまとめ急ぎ作成されたちらしであったか、あるいは取り調べ時にドラマで刑事がよく頼んでくれるカツ丼的な意味あいにおけるちらし寿司であったか。

どちらにしろその時、食べたいと思わなかったことだけは憶えているのだが。


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