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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

鬼と仲良くする方法

恵方巻きがどうにも流行りすぎていて怖い。

節分の日、スーパーの寿司コーナーの9割方が恵方巻きで埋め尽くされている。しかし見た目的には、外皮部分にあたる海苔ばかりがひしめき合う様子を見下ろす形になるので、その一角は絶望的に真っ黒だ。平穏なスーパーの一角がここまで徹底的にPaint blackされているというのはそこそこの異常事態である。火事にでも遭わない限りそういうことはまずない。

だがもちろん恵方巻きの猛烈な勢いは、寿司コーナーに留まらない。パンや菓子コーナーにまで無慈悲に攻め寄せている。今や「恵方ロール」などと一部分だけ都合良く欧文に置き換えるなどして、寿司党だけでなく甘党をも貪欲に取り込んでいるからである。なんということでしょう。

とはいえさすがにそちらは黒くはなく、ありがちなロールケーキ以上でも以下でもありはしない。色も成分も味も似ていないが形状だけが辛うじて似ている。「形骸化」という言葉があまりにふさわしい。風習とはつまり「形骸化」のことであるのだが。

そもそも恵方巻きとはなんなのか。節分の日に恵方巻きを買うということは、あれで鬼を殴れということだろうか。豆を撒きながらノリ巻きで鬼をしこたま殴りつける。武器としての恵方巻き。

食べ物で殴られるというのは意外と屈辱的な行為だが、しかし案ずることはない。人はみな、殴る前にその恵方巻きを食べ尽くしてしまうからだ。

鬼さん朗報である。いやむしろ、人を殴るための武器をモグモグと食している映像は、猛烈に怖いかもしれない。戦国期に刀を食べる猛将がいたら確実にカリスマ性が出る。しかもどういうわけか一気食いすることになっている。こうなるともう武将というより完全にマジシャンである。縦縞の旗印を横縞にしたりもするに違いない(マギー一門)。

あるいは恵方巻きとは、犬、猿、キジから雇い主であるブラック企業カスタマーサービスセンター(祖父母)に寄せられる「鬼退治に行く際のギャランティーが少なすぎる」との苦情を元に考案された、きびだんごの代替案であるのかもしれない。だがそれも、やはり人である桃太郎が真っ先に一気食いしてしまうことになるから、犬、猿、キジの士気は著しく低下し、逃散すること請け合いである。桃太郎が恵方巻きを喉に詰まらせて窒息死することだけを望んでいる三匹。

こうなるとすっかりわけがわからないのでWikipedia恵方巻きについて調べてみると、こう書いてある。

《節分の夜にその年の恵方に向かって無言で、願い事を思い浮かべながら太巻きを丸かじり(丸かぶり)するのが習わしとされている。「目を閉じて」食べるともされるが、一方「笑いながら食べる」という人もおり、これは様々である。》

なんということでしょう(二回目)。瞳を閉じて(平井堅)食した場合、背後から鬼に襲撃される危険がある。また笑いながら食べることを「噴飯」と呼ぶくらいであるから、もし鬼の前でこれをすれば鬼は確実に激怒し、彼らの人類襲撃へのモチベーションは最高潮に達することだろう。ご飯粒を鬼の顔に向けて三つ四つ飛ばしてやれば殺されるには充分である。笑いながら幸せに死ねる。

結果、鬼と平和に暮らすには、鬼も人もなく仲良く酒を酌み交わすのが一番である。互いのおちょこに笑いながら注ぎ合う日本酒のパッケージに、「鬼ころし」の文字。

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