壮大な物語というより、極上コントの連発という意味での大傑作。笑いという意味では、小説以外を含めても、これ以上のレベルには未だ誰も到達していないと言い切れる。
物語の筋など「城に辿りつきたいがいっこうに辿りつけない」という程度でしかなく、ただひたすらに城近辺を彷徨うのみ。場面の転換も不自然な箇所が多く目につくため、小説にスムーズさや完成度を求める向きにはお勧めしない。
だが一つ一つの場面の滑稽さは奇跡的で、特に凄いのが屁理屈会話の応酬。全員が全員、子供のような愚にもつかぬ自分勝手な理屈を押しつけあう姿に、この世に立派な大人など、実は一人もいないのだと叫びたくなる。
例えば『ガキの使い』の笑い飯や板尾絡みの企画、さまぁ〜ずのコント、伊集院光のラジオのコーナー等を好む人ならば、ここにあるより深い笑いにさらなる衝撃を受けることができるはず。純文学だからといって、構える必要はまったくない。ただ純粋に楽しんだもん勝ちなのだ。
「泣き」以外にも感動はあり、「泣く」以外にも小説の楽しみ方はたくさんあるということを、改めて思い知らせてくれる名作。というか、昔はそれが当たり前だったわけで、最近の号泣至上主義がむしろ異常だと思ったほうがいい。
もしこれ読んで泣ける人がいたら、嘘泣き名人として冠婚葬祭での活躍が約束されるはず。つまり泣ける作品ではないが、笑いの向こうに圧倒的絶望と、ある種の感動は存在する。