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不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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悪戯短篇小説「ウーピー対ゴールドバーグ」

賛成派の筆頭がウーピーで、反対派の筆頭がゴールドバーグだった。もはや何について賛成し反対しているのかは、誰にもわからなかった。とりあえずウーピーはコーヒーを、ゴールドバーグは野菜ジュースを飲んでいる。

ゴールドバーグがストローを加えた隙に、ウーピーが声高に主張する。

「我々が正しいことは、すでに明々白々であります。その証拠にほら、ゴールドバーグ氏は、先ほどからストローなんぞで飲み物を飲んでおられる。なんと了見の狭いことでしょう。しかもそのストローの飲み口は、激しく噛みつぶされているに決まっているのです。液体をいまから吸い込もうというときに、自らその入口を噛みつぶして進路を妨害する。そして時には、あろうことか吸うべき空気を吹き込んで液体を逆流させ、ぶくぶくしてみたりもしているに違いないのです。なんたる自己矛盾! 非効率! このような人間に、社の行く末を任せることなどできましょうか。ゴールドバーグ氏は、まさにこの会社をストローよろしく、丸ごと噛みつぶそうとしているのです!」

会議室内に、ウーピー派からの盛大な拍手が湧き起こる。ちょうど暇つぶしにストローでぶくぶくしていたゴールドバーグは、あえてその拍手に乗って自らも拍手を重ねることで、拍手自体が誰のためのものかを曖昧にすることに成功すると、両手で拍手を制して反論をはじめる。

「皆さん、騙されてはいけません。ウーピー氏が信用ならない人物であるのは、氏がコーヒーを嗜んでおられることからもおわかりになるはずです。氏がなぜコーヒーを飲んでおられるのか、皆さんおわかりでしょうか。氏の奥方にベッドで話を聴いたところによれば、氏は実のところコーヒーが好きなわけではないのです。ウーピー氏はコーヒーが好きなのではなく、『コーヒーを飲んでいる自分が好き』なのであります。つまり氏の思考回路は、すべてにおいて自己中心的であり、『優秀な部下が好き』なのではなく『優秀な部下を認めている自分が好き』、『チェスが好き』なのではなく『チェスを好きな自分が好き』、『ホエールが好き』なのではなく『ホエールウォッチングをしている自分が好き』といった按配なのであります。つまり氏は、『自分以外の何ものをも愛してはいない』のであります。このような身勝手な輩に、会社の舵取りを任せて良いものでしょうか!」

互いの主張をぶつけ合ったウーピーとゴールドバーグは待ってましたとばかり、それぞれ机の上に身を乗り出し相手の胸ぐらをつかみ合うと、そのグリップを合図に、会議室全体が一瞬にして闘技場と化した。

ただし組んずほぐれつ殴り合ったのは、人間同士ばかりではなかった。人間の動きに伴い、当然周囲の物も自然とぶつかり合うことになり、それは机の上に放置された飲みかけのコーヒーと野菜ジュースも例外ではなかった。背の高い野菜ジュースの紙パックの腰のあたりに、コーヒーカップの取っ手をぶつけるような形でその闘いははじまり、やがては転んだ紙パックに刺さっているストローの口から、コーヒーカップに野菜ジュースがしこたま注ぎ出されることとなった。

こうして図らずも、「健康+男の嗜好」を満たす理想的かつ画期的な新商品『ヤサヒー』(野菜入りコーヒー)が誕生することとなった。二人は和解し、会社名が「ウーピー・ゴールドバーグ」になったのは、もはや言うまでもない。そもそもの会社名がなんだったのかなど、今となっては社員の誰ひとり思い出すことができない。

まさしく効果的な会議の好例であると言えよう。

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