『新語・流行語大賞2016』の年間大賞語に選ばれた「神ってる」という言葉。受賞の勢いに乗ってメディアだけでなく政治家までもがこぞって使い出しているが、これがどうにも物足りない。
そう感じるのは、そもそも意味的には「神懸かってる」という既存の言葉ですっかり事足りるからである。そこから二文字省略したことで響きに若干のポップさは出るものの、意味的には特に変わらないので新語としてのパンチが足りない。
ならばポップな響きだけ残して、意味を変えてしまえば良いのではないか。何が「良い」のかはわからないが、良いことにする。どうせ元の新語が間違った日本語なのだから、気兼ねする必要はない。
言葉の意味を変えるには、漢字を変えてみるのが手っとり早い。以下、「神ってる」という言葉を様々にカミらせた顛末を記す。「カミらせる」の意味がもうわからないのだが。
【紙ってる】
《意味》
1.メモを取ること。
2.紙の本を読むこと。
3.トイレットペーパーで臀部を拭うこと。
4.観客席からステージに向かって紙吹雪を投げること。転じて、おひねり。
1~3の意に関しては、現代というデジタルな世の中ならではの表現ということができる。
ひと昔前であれば、メモを取るのも、本を読むのも、尻を拭く際も、手に取るものはわざわざ言うまでもなく「紙」であると相場が決まっていた。
しかし今どきは、メモを取るには紙ではなくスマホ等のデバイスが、本には電子書籍が、尻にはウォシュレットという選択肢が存在する。
だからわざわざそれらの行為を、「紙に」あるいは「紙で」しているということを示す言葉が必要になってきているのである。
一方で4の意は、古き良き伝統文化から受け継がれたものである。
無論、全部ひっくるめてこんな言葉はない。以下同様。
【髪ってる】
《意味》
1.髪を切ること。
2.髪を結うこと。セットすること。
3.パーマをあてること。
4.髪を染めること。
5.増毛・植毛すること。
6.禿げていること。禿げかかっていること。
7.カツラをかぶること。
8.カツラがズレること。
9.カツラを新調すること。
10.カツラが似合うこと。
つまり髪に関するすべて。もはや多義語である。
「部長、今日も髪ってますね~!」と言われた場合、それがどの意味に当たるかは、前後の文脈や自身の頭髪の具合、周囲からの認知度などを考慮に入れた上で、適切なリアクションを選択しなければならない。
【噛みってる】
《意味》
今まさに、ドーベルマンに噛みつかれている状況を表す。
正確には受動態で「噛みられてる」とすべきだが、どっちにしろ間違っているので大差ない。
こんなことを言う前に救急車を呼ぶべき。
【上ってる】
《意味》
「上さん=妻」が著しく機嫌を損ねている状態を指す。
「かみさんのカミナリ」というダブルミーニングから。
【仮眠ってる】
《意味》
仮眠している状態のこと。
「ごめん、いま仮眠ってるとこ」など、自らが仮眠=就寝中にこの言葉を発せられるかは謎。
「かみってる」と読み、「かみん」の「ん」は発音しない。
【カミってる】
《意味》
何かしらの秘密をカミングアウトすること。
それに対する正しいリアクションは、「だから何?」か「知らんがな」の二択。
【ケミってる】
《意味》
ケミストリー川畑式に、顎の下へサングラスをぶら下げて着用すること。
転じて、誤った行い。
もはや「カミ」ですらなく。