自らの美点を謙虚に捉え直すことで、いつの間にか身についていた不純物たちを計画的に排除することに、かなりの程度成功した力作。もちろん完全に音楽的方向性をコントロールすることなど、どんなに知的なアーティストにも不可能なことであるから、意識的に操作できる範囲としては、これ以上の精度を求めるのは酷かもしれない。少なくとも、同じような「原点回帰」を目指して作られたMETALLICAの『DEATH MAGNETIC』よりは、確実に精度が高い。
多くのファンが彼らに求めるのは、『RUST IN PEACE』までのインテレクチュアル・スラッシュ路線であると思うが、やはりそこにはどうしても、近作のまったりとした牧歌的感触もいくらか混ざってきてしまうのは仕方のないことなのか。
前半の楽曲に特にキレを感じさせるのは前作、前々作と同様だが、そこにある種の狂気が混ぜ込まれているのは、近作にはなかった手触りだろう。もちろんそこには、初期作に比べれば人工的な感触も含まれてはいるが、攻撃音楽への味つけとして非常に強力な効果を発揮しているのも確か。特にインスト①〜混沌疾走曲②への流れが強力だが、実のところ①はあまり大した曲ではなく、単にイントロとしての機能を果たすレベル。
初期の勢いを感じさせながらも、中盤以降の失速感が激しかったここ2作に比べ、相変わらずの竜頭蛇尾な失速感は確実にあるものの、ストレートな疾走曲⑨が後半をビシッと引き締める。後半に多い緩めにはじまる楽曲に関しても、どこかの段階で加速して緩急をつけてくるものが多いため、アルバムを通して完全に緊張感が失われることはない。
新ギタリストはかなり健闘しているが、フレージングから特に際立った個性を感じるほどではなく、やはりクリス・ポーランドやマーティ・フリードマンといった異分子との衝突を恋しく感じてしまうのも事実。
しかしこの段階で大きく体勢を立て直してきたデイヴ・ムステインの自己再生能力には、ある種の脅威さえ感じる。ファンに求められつつもベテラン・バンドが逃がれ続ける「原点回帰」というミッションを、これだけのレベルで達成できるバンドは稀有であろう。