泣きながら一気に書きました

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『DYSTOPIA』/MEGADETH 『ディストピア』/メガデス

dystopia

dystopia

近作の傾向に違わず、基本的に冒頭でピークを迎える「竜頭蛇尾」な作品。というのが一聴したところの感想だったのだが、やや地味に感じた中盤以降も聴き込むうちに不思議と味が出てくるというところが、ここ最近のMEGADETH作品とは決定的に異なる。

アルバム全体の構成は今回妙に明確で、大雑把にいえば「前半=スラッシュ」「中盤=ヘヴィ・ロック」「終盤=パンキッシュ」というように、あえてタイプ別に色分けして楽曲が配置されているとの印象がある。ただし盤によって曲目が異なり、ボーナストラックの種類によってアルバムの印象が結構変わってくるので、そこは注意が必要かもしれない。

第一印象としては、やはり中盤のヘヴィ・ロック的なミドルテンポ楽曲が続くパートで「中だるみ」を感じる。しかし⑥「Post American World」⑦「Poisonous Shadows」あたりのギター・リフと歌メロの絡みには、ある種全盛期のALICE IN CHAINSにも通じるマジカルな中毒性があり、聴き込むごとに身体に馴染んでくる感触がある。

後半のパンキッシュな楽曲群は、FEARのカバー「Foreign Policy」を含め、中盤に失われた疾走感を取り戻す効果はあるものの、展開に乏しくやや単調に感じられる。そのぶんとっつきやすいとも言えるが、いずれもやや練り不足の感は否めない。

注目のギタリスト、キコ・ルーレイロ加入の効果は、インスト曲「Conquer Or Die」において顕著だが、その他の楽曲内では今のところ求められる範囲内のプレーに徹しているというプロフェッショナルな印象。特にラテン風味を前面に押し出すということもなく、さすがにマーティ・フリードマンほどの異化効果を楽曲にもたらすレベルには達していない。そこはこの先、ムステインが彼に何をどこまで求めるかにもよるだろう。とりあえず現状でバランスは取れているようにも思うが、そのバランスを壊してまで新たな要素を求めるのかどうか。

と、もろもろの聴きどころを踏まえたうえでも、本作のベスト・チューンは間違いなく①「The Threat Is Real」だろう。それに続く②「Dystopia」も素晴らしい。やはりこの不穏な興奮こそがMEGADETHなのだ、と改めて思う。

近作に比べると、諸々の挑戦が全体の足を引っ張ってはいないという感触はたしかにあるが、それらが新たな魅力を引き出すほどには実を結んでいないというもどかしさも、また同時にある。バンドの持っている全要素が、まんべんなく順番に出てくるという意味で、現時点におけるMEGADETHの集大成、というより「フルコース」的なアルバムである。

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