1位『WONDERLAND』/SEVENTH CRYSTAL
当代随一の歌巧者、クリスティアン ・フィールの歌唱を味わい尽くすための一枚。いまや各方面のプロジェクトで引っぱりだこの彼だが、こちらはその本陣にあたるスウェーデン 産メロディア ス・ハード・ロック ・バンドの2ndアルバム。
昨年も彼の参加したGINEVRAを2位に挙げたが、あちらもそうであったように、さほど派手さがあるわけではない。むしろ質実剛健 な作りを感じさせる。強靱かつ繊細な歌を軸に置いたその方向性に迷いはない。
その歌はとにかく一音一音に至るまで神経がゆき届いていて、随所に思いがけぬ感動がある。そしてその細やかさは、実のところ歌にあるだけではない。歌を支える楽器陣の演奏に関しても、意外なところでリズム・チェンジが起こったりギター・リフが自在に変化したりと、極限までアレンジが非常に練り込まれている。
だがそれが単なる足し算ではなく引き算をもしっかりと感じさせるところに、北欧美旋律を堂々と歌い上げながらも、グランジ 以降のアメリ カン・ヘヴィ・ロックを通過してきた世代ならではのスマートさをたしかに感じる。
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2位『STARBOUND STORIES』/MARC HUDSON
DRAGONFORCEのVo.によるソロ・デビュー作。といっても所詮は後任ヴォーカルだし、なんとなくバンドの音楽性の延長線上にある劣化版が送り出されてくると思いきや、さにあらず。
いや、音楽性がほとんどDRAGONFORCEそのものであるのは間違いがないのだが、逆にそれをオリジナル・メンバーでない彼がわざわざやってくるのが意外でもある。よほどその音楽性に惚れ込んで加入したということなのか。
それはともかく問題はメロディの質のほうで、これが予想外に終始高い。もちろん声もべらぼうに高いのだが、次から次へと繰り出される歌メロが、どこまでも天井知らずに駆けのぼり続ける様は本家に勝るとも劣らない。
むしろその平均値の高さと明快さにおいては、こちらのほうに軍配が上がるくらいかもしれない。
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3位『OPERATION PHOENIX 』/CROWNE
ART NATION、DYNAZTY、EUROPE、THE POODLES 、H.E.A.Tのメンバーが集合したスウェーデン 梁山泊 による2作目。
有無を言わせず、キラキラした北欧美旋律ど真ん中を常時投げ込んでくるその覚悟が潔い。メロディの隅々までが自信と確信に満ちており、寄せ集めのプロジェクトでありながらも、実績のあるメンバーを集めた意味をたしかに感じさせる。
音楽におけるメロディの重要性に改めて気づかせてくれる作品。
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4位『MOSAIC 』/THEOCRACY
「アメリ カのプログレ ッシヴ・パワー・メタル・バンド」ということになっているが、むしろNOCTURNAL RITES あたりの北欧HMに近いものを感じさせる。息継ぎを許さないシームレスなメロディ展開はSONATA ARCTICA の影響だろうか。
最後に長尺曲は待っているが、全体にプログレ ッシヴな複雑さはさほど目立ってはおらず、純粋に良質なメロディを聴かせることに主眼を置いているのは明らか。たしかにそう思いたくなるほどの、高純度のメロディが惜しみなく搭載されている。
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5位『ANNO 1696』/INSOMNIUM
メロディック・デス・メタル 界の「あのちゃん」といえばINSOMNIUMのこの作品。前作から元SONATA ARCTICA のギタリストであるヤニ・リマタイネンが加入したこともあってか、ここへ来て美旋律が明らかに際立つようになってきている。
今年は他にもENSLAVED 、IHSAHN、KATATONIAなど、すでにベテランの域に達している北欧デスメタル 系が次々とゴシック的な耽美性を強めた作品をリリースすることにより、秘められていた新たな魅力を開花させているのが印象的だった。
https://tmykinoue.hatenablog.com/entry/2023/04/13/181829
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6位『THE VERTIGO TRIGGER』/CYHRA
なんと言っても元IN FLAMES のイェスパー・ストロムブラードがいるバンド、ということでいつも気になってはいるが、これまでは地味な印象も否めなかった。
今回も特別派手になったというわけではないのだが、3枚目にしていよいよこのバンドならではの、旋律の独自性が明らかになってきた感がある。引っかかるというよりは、むしろ心の静けさを感じさせるほどに流麗な。
その旋律の個性は一方で、どうしても各楽曲が似てしまうというリスクも孕んではいるのだが、少なくともいまの段階においては、クオリティを一定に保つ方向へ寄与しているように思う。
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7位『INCEPTION』/ART NATION
CROWNEに続いて、アレクサンダー・ストランデルが歌う作品をもう一つ。というかこっちが彼のホームか。
あちらに比べると躍動感に溢れ、そのぶん歌唱力の押しつけがましさを感じる部分も時にあるが、その感触も作を重ねるごとにこなれてきている。かつては楽曲の質のバラつきがやや気になったが、ここへ来てその点に関してもアルバム全体を通して着実に向上。
あるいは、二つのバンドを行き来することによる相乗効果がもたらされているのかもしれない。
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8位『III: WEIGHTLESS』/CREYE
スウェーデン 産「プログレ ・ハード」の3rd。といってもプログレ 感はさほどなく、KANSASあたりをイメージして個人的にそう呼びたいだけなのだが。
実質的にはポップ寄りのメロディア ス・ハード・ロック で、しかし前作で限界まで開き切ったポップさに、今回はハード・ロック らしいエッジを加えている。
ポップな前作も素晴らしかっただけに、この先ポップ←→ハード間のどこらへんに軸を立てるのかが悩みどころであるような気もするが、このメロディのクオリティさえあればどうにでもなるようにも思える。
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9位『DRIVE』/THE DEFIANTS
つい「往年の」と言いそうになるが、まだ現存しているらしいアメリ カン・ハード・ロック ・バンド、DANGER DANGERのメンバーによる3rd。とはいえ2009年を最後にDANGER DANGERの作品はリリースされていないので、実質的にはすでにこちらへの引き継ぎが完了していると考えて良いものかどうか。
音楽的にはやはりもろDANGER DANGERではあるのだが、キャッチーさという意味ではもはやこちらに軍配が上がるのではないか。古き良きアメリ カン・ハード・ロック の郷愁。
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10位『MEMORIAL』/SOEN
昨今、多くのデス/ゴシック・メタル 系バンドが耽美化/OPETH 化しているように感じているが、このSOENにはまさしくそのOPETH に在籍していたドラマーがいる。
だからといってクオリティが保証されるわけではないが、OPETH をさらにアメリ カ向きにモダン・ヘヴィ化させたような、重心の低いグルーヴが妙に心地好い。
個人的にはあまりグルーヴ重視で音楽を聴くほうではないのだが、この作品に関してはそれ以前に全編に渡って不穏な空気感を生み出しているメロディのクオリティが高く、安心してグルーヴに身をまかせることができる。その統一感は逆に言えば一本調子ではあるのだが、聴きはじめたら抜け出せなくなる中毒性がどうやらある。
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【次点の10枚】
『OUNAS I』/SUOTANA
『THE AWAKENING』/KAMELOT
『LIFE IS BUT A DREAM』/AVENGED SEVENFOLD
『RECONNECTED』/CARE OF NIGHT
『NEMESIS AD』/SERENITY
『VOYAGE』/TANITH
『HEIMDAL 』/ENSLAVED
『IV: SACRAMENT』/WYTCH HAZEL
『FATAL ENCOUNTER』/AIR RAID
『ID.ENTITY』/RIVERSIDE
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