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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

『犬のジュース屋さんZ』1巻/おおひなたごう

ネタ選びのセンスと、それを料理する腕前が高次元で両立。結果、キャッチーさも深遠さもいとしさも切なさも心強さも、さらには部屋とYシャツと私あたりまで、すべてがここに融合し、作者独特の世界を作り上げている。もしかするとこれだけの要素をいっぺんに盛り込むのは、ギャグ漫画という枠組みでしか不可能なのかもしれない。とはいえ世の大半のギャグ漫画は窮屈で仕方ないのだが。

ベースとなる材料自体に、それほど奇抜なものがあるわけではない。ギャグ漫画である以上、素材はジャンクなものばかりだ。格好良いゴミや、役に立たぬ美しいものを見つけてはポケットに詰め込んでいる小学生。そのポケットの中身には、夢と真実が溢れている。ドラえもんのポケットよりも手触りのある夢。おおひなた氏の根底には、そういった子供のような選択基準が、きっとあるんだと思う。

だが肝心なのは、そうして集めたガラクタを、どう使えば面白くなるのかということ。それを知らなければ、ガラクタはガラクタのまま放置される。実際、そういうギャグ漫画も多い。「素材だけで勝負」と言えば聞こえはいいが、要は料理する腕前がないだけだ。

だがこの作家は、「さすがにそれは使い道ないだろ」というレベルの物でも、独自の使い方、面白がり方を見つけ、見事に使い切ってみせる。この技がある限り、おおひなた氏にとって、ネタが切れるということは未来永劫ありえないだろう。世界中からすべての人間と物質がなくならない限り。

たとえば犬のジュース屋さんが、グラウンドの左中間にあるという設定。こんな無茶な設定、普通なら完全に出オチで、その一話の中で処理するのが賢明な判断というもの。爆発させるなりなんなりして、次の話は別のちゃんとした場所に変えるべきところ。しかしこの一冊において、その無茶な設定は最後まで貫き通され、むしろ逆に積極活用され、それがさらなる展開を生み出しさえする。使えば使うほど、素材の味がしみ出してくる。そんな限界を越えた味わい。

他にもおおひなた氏は、漫画表現上避けきれぬ数々のお約束を、そっと破ってみせる(あくまでも、そっと。痛くないように)。

たとえば漫画を描く際のセオリーとして、「キャラの目がいきいきとしていなければならない」というものがあるが、この漫画の主人公の犬さん、「いきいき」どころか「開いてさえいない」。いや見えてはいるのだろうが、目が一本線だ。つまり表情を目で表現できないようになっている。なのに、感情は伝わってくる。むしろ伝わってくる。

さらには、「のび太」的標準キャラの立体くんを、密かにかつ大胆に壊してみせたのも、実は今後の漫画界に影響を与えるすごい発明なのかもしれない。

そこらじゅうにあるものすべてを面白がってゆくこの絶妙な感覚を、ぜひ味わってみてほしい。

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