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短篇小説「犯罪動機One & Only~それでもボクはやってます~」

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刑事「お前がやったんだな。で、動機は?」
犯人「はい、ついカッとなって
刑事「ありがちだな。工夫がない」
犯人「えっ、没とかあるんすか? 動機なのに?」
刑事「当たり前だ。没のない社会があるか。誰だって上司や取引先に没を出されて、それでもやり直してやり直して必死に生きてんだよ」
犯人「はぁ……じゃあ『つい魔が差して』とかで」
刑事「どんな魔だ?」
犯人「どんなって?」
刑事「魔にもいろいろあるだろう。人生いろいろ。悪魔もいろいろ。メフィストフェレスからデーモン小暮までいろいろある」
犯人「じゃあ、ゴブリンでどうでしょう。それ以外思いつかないので……」
刑事「小っさいけどいいんだな? 比較的かわいいぞ。で、どこを?」
犯人「はい?」
刑事「『魔が差して』って言ってんだから、どこを差したんだって話」
犯人「いや、そんなこと言われても……やっぱり『遊ぶ金欲しさ』に変えてもいいですか、動機」
刑事「変えるのはお前の自由だが、その案は没だ。さっき取り調べした奴とかぶってる」
犯人「え、動機ってかぶっちゃいけないんですか?」
刑事「決まってるだろ。お前、ミスチルの歌詞パクッて平然と歌うタイプの演歌歌手か?」
犯人「だったら、さっきの『魔が差して』も他の人とかぶってるんじゃ……」
刑事「だからわざわざ『どんな魔か』と訊いたんだ。せっかくゴブリンは前代未聞だったんだが」
犯人「なんかすいません……じゃあ、『遊ぶ金欲しさ』の、『遊び』の部分を具体的にしたらどうですかね?」
刑事「お前、わかってきたな」
犯人「たとえばゲームとか。『プレイステーション4欲しさに』ってのは?」
刑事「悪くはないが、まだありがちだな。もっと飛躍がほしい」
犯人「じゃあ、『キャバクラ行きたさに』とか?」
刑事「お前らしくないな。一般的な犯人像に寄せすぎだ。犯人というのは、必ずキャバクラに通い、パチンコ屋に並び、そして馬券に残りの全財産を注ぎ込むものだとお前は思っている。そうだろう?」
犯人「そうかもしれません」
刑事「犯罪の動機ってのは、もっと自由でいいんだよ。既存のイメージに縛られる必要なんてまったくない。みんな違って、みんないい。ほら、お前も世界にひとつだけの花を咲かせてみろ」
犯人「はい。じゃあ、『つい魔(ゴブリン)が差して、キャバクラやパチンコや競馬以外で遊ぶ金欲しさに、俺だけの、俺による、俺のための世界を手に入れるため』でどうでしょう」
刑事「それな」
犯人「はい、それで」
刑事「歯ブラシ一本を万引きした動機がそれな」
犯人「それで!」


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