泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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短篇小説「電動アシスト式告白機」

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 たいした脚力も必要なく坂道をすいすい登れる電動アシスト式自転車に驚いていたのも、今は昔。近ごろではすっかり、何から何まで電動の力を借りるようになった。箸の上げ下げに至るまで、今や電動アシストなしには考えられない。もはや人類そのものが、すでに「電動」であるといっても過言ではないのかもしれない。

 電動アシスト式スニーカー、電動アシスト式マフラー、電動アシスト式カツラ、電動アシスト式たて笛、電動アシスト式入れ歯――人間のあらゆる部位に電動アシスト機能は役立っているが、ここへ来て人間の「部位」ではなく「行動」を、いわゆる「もの」ではなく「こと」をアシストする電動システムが発売される段階に至ったのは、進化を続ける人類にとって大変に喜ばしいことである。

 その先駆けとなるのが、先日発表された「電動アシスト式告白機」であることに疑いはない。「告白」とはもちろん「愛の告白」にほかならない。

 この「電動アシスト式告白機」は、電気の力により、あらゆる場面において動作主の「愛の告白」をサポートするという画期的システムである。

 そのために、動作主である人間の体内には運動神経をコントロールする三十四個のICチップが埋め込まれ、三日に一度肛門からの充電を必要とする。だが告白を成功させるためとあらば、その程度の労力は厭わないという市場アンケート結果が出ていることは、驚くに値しないだろう。

 そもそも国や所属企業や学校、そして配偶者からも行動監視用にいくつかのICチップを埋め込まれることが当たり前となっている世の中であるから、それがいくらか増えたとてたいして変わりはないという考えかたは、今やむしろ一般的な価値観であるかもしれない。逆に言うならば告白という行為が、肉体改造のリスクを遙かに超えるほどの、人生における最重要事項であるとも言える。

 しかしいざ「電動アシスト式告白機」と言われても、いったい愛の告白に至るプロセスのどこに、電動でアシストするようなことがあるのか?と疑念を抱く人も少なくないだろう。何を隠そう、筆者の私も当初はそのひとりであった。

 だがこの画期的新商品を生み出したウィズライフ社は、「人生のあらゆる場面は、電動によってアシストすることが可能である」との理念を掲げて常に精力的な商品開発を行っている。ではここから、「電動アシスト式告白機」の具体的な機能について見ていこう。

 意中の相手に告白するためには、まず相手を確実にどこか適切な場所へと呼び出さなければならない。そのためにまず本機に備えられているのが、「電動アシスト式ラブレター代筆機能」である。

 今や文字を手で書くにも電動アシストが必要な時代であるから、ペンの軌道を電動でサポートする動きは驚くに値しないが、それに加えて告白をサポートする「自動甘言翻訳機能」がついているのが本機の特長である。

 これは頭に浮かんで今から手紙に書こうとしている言葉を、愛をささやく甘い言葉に自動翻訳したうえで紙面に落とし込んでくれるという代物である。ちなみに指先を電動制御することで記されるその書体も、「愛明朝体」と呼ばれる色気あふれる手書き風書体が採用されている。

 そうして書き上がったラブレターを意中の相手の下駄箱へ投入したあなたが次にやるべきことは、約束の時間に待ちあわせ場所へと向かうことである。ちなみに本機のプログラムの根底にある行動規範は、ラブコメ全盛期の80年代アニメやドラマが基準となっている。もっとも告白が盛んに行われていた時代の感覚を取り入れたというのが、開発者側の言い分である。

 先の「ラブレター代筆機能」により、たとえば動作主が高校生であれば、待ちあわせ場所は自動的に校舎の屋上と設定され書き記される。だが昨今では安全上の理由から、屋上は立ち入り禁止となっている学校が多いのも事実である。

 しかしだからこそ、禁断の地に二人して足を踏み入れたとなれば、そこには「吊り橋効果」のような特別な興奮状態が生まれることになる。そこで必要となってくるのが、屋上へとつながる重い鉄の扉の鍵を開けるための「電動アシスト式屋上解錠機能」である。

 これは日本全国津々浦々の学校の屋上扉を調査した膨大なデータを元に、電磁力のアシストにより鍵穴の内部構造を自在に動かし、その約九割の鉄扉を解錠することができる仕組みとなっている。

 この機能が泥棒に悪用されることを案じる向きもあるだろうが、そこはご安心を。こちらは使用者が屋内にあり、かつ扉の向こう側が屋外であることを自動検知した場合にのみ作動する機構が採用されているため、貴金属を保存してあるような屋内へとつながる扉に対しては動作不能となっている。

 さて、いよいよ意中の相手と二人きりで秘密の屋上にまで足を踏み入れてしまえば、もはや告白は成功したも同然である。あとは本機に搭載されている各種機能が、自動的に次々と作動することで確実に告白をサポートしてくれるからだ。

 たとえば動作主が男性であれば、話し声が自動的に低く甘く変換される「電動アシスト式イケボ機能」、中敷きを膨らませて十センチ背が高く見える「電動アシスト式シークレットブーツ機能」、告白のタイミングに合わせてスマホから小田和正ラブ・ストーリーは突然に」が勝手に流れ出す「電動アシスト式DJ機能」、屋上の雰囲気を劇的に演出する「電動アシスト式ゲリラ豪雨機能」、大事な告白の言葉を一言一句確実に相手へ伝えるため、手に持ったタブレットにその台詞を映し出して見せる「電動アシスト式告白文字幕スーパー機能」、そして屋上扉の隙間からこそこそ様子を伺っている彼女側のつき添いの友人たちを、モスキート音を発生させることで巧みに遠ざける「電動アシスト式お友達退治機能」などなど、その場でAIが必要と判断した電動アシスト機能が次から次へと適時繰り出され、あなたの告白を間違いなく成功へと導くこと請けあいである。

 しかしそうは言っても相手は人間、万にひとつくらいは、告白に失敗することもあるだろう。だが怖れることはない。そんなときのために、本機には「電動アシスト式フォロー機能」というものまでついている。

 これは意中の相手にフラれた状態を自動的に感知して発動するもので、落ち込んでいる動作主に対し、耳元に埋め込まれたICチップを通じて適切な慰めの言葉が送り込まれるというもの。しかし動作主が男性である場合、その台詞が「女は星の数ほどいるさ」といういかにもありがちで中身のないフレーズ一辺倒であるのは、非常に優秀なこの商品において唯一改善の余地がある部分と言えるかもしれない。


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ガレージ・インク(紙ジャケット仕様)

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短篇小説「よろずサポートセンター」

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 私は何か困ったことがあると、必ず「よろずサポートセンター」に相談することにしている。みんなもそうするといい。電話に出た「よろずサポーター」が、なんでも解決してくれる。本当に最高のサービスがここにある。その手段さえ問わなければ。

 仕事から帰ってきて部屋の電球が切れていることに気づいたときも、私は即座に「よろずサポートセンター」に電話をかけた。すると電話に出たよろずサポーターの指示により、三十分もしないうちに一流テレビ局の照明スタッフ数名が駆けつけ、様々な角度から、夜が明けるまで私を激しく照らし続けてくれた。

 おかげで私は一睡もできなかったが、初めて俳優のような気分を味わうことができた。替えの電球など、翌日の仕事終わりにでも買って帰れば良い。

 夜中にちょっと小腹がすいた際にも、私は「よろずサポートセンター」に電話をかける。するとやはり三十分後には、かなり形が崩れてはいるが、おいしそうなクリームパイが我が家に届けられる。

 その一週間後に、私はテレビのバラエティ番組のドッキリ企画で、そっくりなクリームパイが中堅リアクション芸人の顔面に襲いかかるのを観た。その画面下には、「※スタッフ全員でおいしくいただきました」というテロップがご丁寧にも表示されていたのだが、特に気にするほどのことでもないだろう。私はテレビ番組のスタッフに入った憶えはない。

 私が交通事故に遭って入院したときに、「よろずサポートセンター」がしてくれたことは筆舌に尽くしがたい。歩行中の私を轢いた車の運転手は、いっこうに罪を認めぬうえ、借金まみれで賠償金の支払い能力も一切ないと弁護士から言われていた。しかし私が一ヶ月の入院生活を終えて退院する際には、すべての治療費が「よろずサポートセンター」名義ですっかり支払われていたのだった。

 その三日後には、私を轢いた男が謎の死を遂げたとの噂を耳にしたが、何かあったのだろうか。

 そしていま、私は冬の雪山で遭難しているが、やはり「よろずサポートセンター」には大いに助けられている。猛吹雪により視界の閉ざされた雪山の中、私は「よろずサポーター」による電話越しの指示に従って歩くことで、無事に山小屋を発見することができた。

 そして山小屋の上空には、「よろずサポートセンター」が用意したヘリが日に数回やってきては、水や食料品や毛布を定期的に投下してくれる。さらに毎日きっかり十五時には、三時のおやつまで降ってくるのだから有難い。まさに至れり尽くせりである。

 おかげで私は真冬の山小屋で、すでに三日間に渡り生き延びることができている。外の雪はますます強くなるばかりで、いっこうに止む気配がない。よろずサポートセンターが毎食時によこすヘリは、常に一定の高度を保ち、それ以上降下する様子はない。もちろん、そこから縄梯子が降りてくるなんてこともない。

 本当のサポートとは何か。私はこの段になって、遅ればせながらそんなことを考えはじめている。もしかすると、私にはもっと他に、連絡すべきセンター的な組織があるのかもしれない。

 だが何しろあちらは「よろずサポートセンター」と言っているのだから、それ以上よろずに渡って私をサポートしてくれる組織など、どこにもあるはずがないと私は思う。

 まもなくこの小屋は、跡形もなく真っ白な雪に埋め尽くされるだろう。


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Sound of Madness

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短篇小説「抽選の多い料理店」

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 近ごろ、美食家兼ギャンブル好きのあいだで評判のレストランがあるという。その店は、「抽選の多い料理店」と呼ばれている。

「抽選の多い料理店」を訪れるには、まず抽選に当たらなければならない。なにしろ「抽選の多い料理店」なのだから、当然の話である。しかしこの入店権を得るまでの道のりも、やはりひと筋縄ではいかない。

 この店の噂を耳にした人間は最初、必ずやインターネットの検索窓に「抽選の多い料理店」と入力して店のことを調べる。驚くべきことに、この段階で早くも抽選が行われているとも知らずに。

 そこで表示された検索結果一覧に店側の用意した抽選ページが表示される人は、ごく少数に限られている。同じワードを入力した多くの人の検索結果には、「抽選の多い料理店」にまつわる情報など一件たりとも表示されることはない。それはもうすでに、抽選で落とされていることを意味している。本人が落とされていることにさえ気づかないうちに。

 この段階で落とされた人にとって、「抽選の多い料理店」とは、実在の店舗ではなく単なる都市伝説として処理されることになる。すっかり「検索社会」となったこの現代において、検索に引っかからないものは、すなわち存在しないものとして扱われるからである。

 さて、ここで万が一、貴殿の検索一覧に「ようこそ抽選の多い料理店へ。抽選はこちら」という幸運な文字列が並んでいたとしよう。喜び勇んだ貴方は、その文字列を迷わずにクリックすることだろう。

 しかし大半の場合、その先に立ち上がるのは「抽選の多い料理店」の抽選ページなどではなく、海外発の怪しいエロサイトと相場が決まっている。ここでもまた、抽選が行われているというわけだ。まるであなたの食欲が、確実に性欲を凌駕しているのか否かを試してでもいるように。

 ここで「抽選の多い料理店」の抽選ページが立ち上がった貴方は、すでに相当な幸運の持ち主といっていい。抽選ページの真ん中に表示される「抽選はこちら」と表記されたバナーをクリックすると、次に表示されるのは「抽選整理券の抽選はこちら」というバナーである。

「抽選の多い料理店」への入店権を手に入れるための抽選を受けるにはまず、その前に「抽選整理券」というものが必要であり、その「抽選整理券」を入手する段階においてもまた、当然のように抽選が行われるのである。

 ここまで来るとすでに奇跡的な確率となるが、引き続きすべての抽選に当たり続けてゆくという前提で、当選ルートに則って話を続けよう。晴れて「抽選整理券」を入手し、そのクーポンコードを入力して次の入店権の抽選にもさらに当選した奇跡の人には特別なページが現れ、一週間後に招待状が郵送されてくるとの内容が画面上で伝えられる。 

 この特別な招待状は、まず「抽選の多い料理店」で働く店員の手により最寄りの郵便局へ持ち込まれ、店員はそのまま郵便局裏に設置された小屋へと通される。その小屋には薄汚れた一匹のヤギが鎮座しており、店員はポストではなく、ヤギの口へその手紙を投函することになる。

 そこでヤギが手紙をうまうまと食べてしまえば、当たり前だがその招待状は届かない。つまりそれは、抽選ではずれたことを意味するだろう。

 だが逆に、もしもヤギが手紙を噛まずに吐き出してくれたならば、その手紙は改めて郵便局員の手によって確実に配達される。「抽選の多い料理店」から手元に届いた招待状が、雨でもないのに必ずや微妙にふやけて異臭を放っているのは、ここでヤギがいったん口に入れているからに他ならない。

 そうしてようやく届いた招待状にも、やはり当たりとはずれがあるのは言うまでもない。だがここでのはずれには、「小はずれ」と「大はずれ」の二種類が存在する。

「大はずれ」の招待状には、ただ料理のメニューと営業時間が載っているのみであり、そこには店の住所も地図も一切記載されていない。

 一方で「小はずれ」の招待状には、メニューの裏面に文字を使わず絵だけで構成されたアバウトな店の地図が描かれている。ただしこちらも住所はもちろんのこと、最寄り駅の名前や近所の店名といった、地域を特定するために必要不可欠な文字情報はひとつも書かれてはいない。

 この「小はずれ」の招待状を手がかりに、なんとか店の場所を特定しようと躍起になる人も中にはいるというが、それで店舗を探りあてた者はいまだかつていないという。つまりどっちにしろ「はずれ」であることには変わりないのである。

 さて、ここまで来るとすっかり天文学的な確率になってくるが、逆に言えばもはや「抽選の多い料理店」に辿りついたも同然である。あとは招待状の地図と住所を頼りに、営業時間内に現地へ向かえば良い。

 そしておそろしく運の良い貴方は、今ようやく「抽選の多い料理店」の入口に立っている。だがその古びた木の扉は営業時間内であるにもかかわらず、固く閉ざされている。扉の中央には一枚の貼り紙があり、そこにはこう書かれているだろう。

「当選者の発表は、賞品の発送をもって代えさせていただきます」

 後日、料理が自宅に届けられたという話を、私はいまだかつて聞いたことがない。


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