泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

虚実空転日記「サバといつまでも」

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騒音おばさんがじっくり煮込んだサバの味噌煮をご近所の玄関口にぶちまけたころ、著名なジャズマンは中学生ドラマーのドラムスティックを豪快に放擲していた。『ガリガリ君』のあたり棒の次に大切にしていたスティックを取り上げられた中学生は、素手によるドラムソロを続けることによりジャズマンの怒りを増幅させ、ジャズマンの往復ビンタを食らう。

ステージ脇にいた同じジャズマンであるところのKワマンは、そんな衝撃的シーンに目を奪われている間にまたしても自らのセカンドバッグが盗まれていることに気づく。セカンドバッグを盗まれてしまったら人間、ジャズどころではない。

玄関口に放たれたサバの味噌煮の第一発見者は、もちろん近所の野良猫である。思いがけぬ大好物の登場に猫まっしぐら。結果的に騒音おばさんと猫の間に、はからずも「Win-Win」の関係が成立する。猫にとってこれは僥倖以外の何ものでもなかった。

やがてKワマンのセカンドバッグが顔を黒く塗った何者かによって交番に届けられる。交番に呼び出されたKワマンが中身確認のためバッグを開けると、中にはサバの味噌煮だけが詰まっている。入っていたはずの印鑑も通帳もスマホも見当たらず、しかしサバの背の光りがメールの着信を知らせているようにも思える。

中学生への指導を終えたジャズマンが家に帰ると、隣家から大音量で女性ボーカルのJ-POPが聞こえてくる。ジャズマンはジャズマンだからJ-POPのことはよくわからないが、耳障りであることは間違いない。先ほど思いがけずビンタを繰り出した右手はいまだ熱を帯びている。

しかし先ほどは明らかにやりすぎた。このうえ近隣住民にまでビンタを浴びせるわけにはいかない。なんとか自分を抑えるために、そして音には音で正々堂々と対抗するために、ジャズマンはケースから愛用のトランペットを取り出す。そして力強く吹く。

ところがドとミとソの音が出ない。いやそれだけでなく、どれだけ吹いてもあらゆる音が出ない。不審に思ったジャズマン、明らかな異変に首をかしげつつトランペットの吹き出し口をのぞいたら、サバの味噌煮がギッシリ。


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