まずは出演順に各論を。全体を観て感じたこともあったので、それはまた別の機会にあるかなしか。
事前に言うべき無関係なことは、本編前に放送された敗者復活戦特番が、あまりにも最低だったってこと。
【ナイツ】
堅実だが、やはり堅実すぎた。
後半の、塙の暴走を土屋が止められなくなる感じが彼らの真骨頂だと思うが、その前のベタな地固めに時間を掛けすぎた印象。かといって、後半の暴走具合も、本当にシュールなネタをやるコンビに比べれば本気の暴走ではないので、中盤から早めに暴走モードに突入したとしても、最終到達点は上がらないだろうという根本的問題がある。手数の多さとハズレの少なさは流石。
【南海キャンディーズ】
どうも観客とリズムが合っていなかった印象。
基本的にボケの手数が少なく、ツッコミの手数が多いのが彼らの特徴だが、ツッコミの連打を、観客が受け止め切れていない。観客の反応速度を超えてしまっていたように感じた。
その原因はおそらく、観客が基本的には「1ボケに対して1ツッコミ」という姿勢で構えているからで、それに続く第2第3のツッコミよりも、次のボケ(しずちゃんの動き)に期待と視線と耳が向いてしまっているという点。かといって観客のペースに合わせてツッコミの分量を減らすとなると、全体にかなり手数が減ってしまうので、短時間勝負においては大幅に不利になってしまう。もう聴いていないの前提で、ツッコミの連打を浴びせてぶっちぎる、というのも有効かもしれないが、この場でそこまでの賭けに出るのはやはり難しい。
【東京ダイナマイト】
もともとスピード感があるタイプではないので、K-1に曙が出てきた時のような違和感があった。最初から、もうルール的に勝てない状況。もちろん面白さはあるのだが、ライヴ慣れしている芸人特有の、観客に対するある種余裕のようなものが、逆にマイナスに出たようにも。
【ハリセンボン】
ネタ前に見せられた、上沼恵美子の過去発言の引用(「女芸人は恋をすると面白くなくなる」云々)が思いきりマイナスに作用し、無闇にハードルを上げてしまった。今回に限ったことではないが、ああいった番組上の余計なキャラ演出は、非常に不公平だと思う。そこでのプラスマイナスは、思いのほか空気を変えてしまう。
【笑い飯】
一本目はたしかに面白かったが、もちろん百点満点であるとは思わない。同じ設定をだんだんとシュールにしていく流れの中に、どこかしら必ずベタに逆戻りしてしまう箇所がぽっかりあるのが彼らの最大の弱点で、それはこのネタ中にも最小限ではあるが存在した。しかし一本目の中で一番面白かったのは間違いない。
二本目のネタは、後半、明らかに哲夫がひとつのアイデアを無理に引っ張りすぎたのが致命傷となった。「笑うまで繰り返す」というゴリ押しの手法を彼らはわりと頻繁に使う。だがそれは、最終的に笑いに繋がれば、それまでに費やされた時間が「タメ」として評価されるが、笑いに繋がらなければ完全な無駄となるわけで、あまりにもリスクが大きい。しかもそれが成功するかどうかを途中で判断するのは難しく、最後までやってみないとわからないという危うさが常にある。
だがこの危なっかしさこそが笑い飯の魅力でもあり、一本目の成功よりも二本目の失敗をこそ「らしさ」として評価してしまうのが、彼らのファンに共通するメンタリティであるようにも思う。実際、紳助や松本が最後、敗れた彼らに送った視線からは、そんな見守るような気持ちが感じられたし、僕もむしろ、二本揃わなかったことに、ファンの一人として変な安堵感を感じてしまったりした。
【ハライチ】
つかみの「犬が轢かれた」くだりで観客を一斉に引かせたのがかなり痛かったが、後半のたたみかけで予想以上に盛り返した。
お題に対し答えるという一問一答方式であるため、ひとつひとつのアイデアの評価がしやすく、独特の面白さは過不足なく伝わっていたように思えた。しかし観ていて、「その型からは絶対にはみ出さないはず」という予想を裏切って欲しい、という無茶な要望が自然にむくりと立ち上がってきてしまい、それが果たされなかったことに対する不満が残ったのも事実。
このスタイルの範囲内では、つかみの失策を除けば最大限の成果は挙げたと言える。それだけに、この型の限界も同時に見えたような気も。
【モンスターエンジン】
秀逸なコントに比べ、漫才は明らかに向いていないことが証明されてしまった。
コントと漫才で、これほど差が出るコンビも珍しいように思うが、それはどちらかしかやらないコンビが意外と多いからというだけなのか?
【パンクブーブー】
やや渋いが、普通に面白かった。完成度が高い。
突き抜けるものがないのがどうしても気になるが、今回の優勝という評価は順当だと思う。綺麗に二本揃えてきたのも見事だし、紹介VTRなどにも一切の有利不利要素が見当たらず、とても真っ当な評価だろう。笑い飯の二本目の失敗も想定内なので、文句なし。
【NON STYLE】
一本目はいつも通りで笑えなかった。だが客席は爆笑の連続。石田の動きひとつひとつにいちいち反応している。昨年のレビューでも触れたが、彼らの場合、スピードで押してくるので、一度波に乗ると降りられなくなるらしい。僕は乗れないので、波打ち際で膝を抱えて観ていた。
二本目は客席の笑いの量も回数も明らかに一本目よりも少なかったけれど、僕ははじめて彼らの漫才でいくらか面白いと思った。それはスピードをやや犠牲にすることで、いくらか深い場所にまで手が届くようになっていたからだ。
そもそも彼らの漫才における致命的問題点は、過度なスピードに観客がついていけないことにあるのではなく、まだ面白くなっていないのに次の展開にサッサと行ってしまう切り替えの無闇さにある。もう一段階掘れば面白くなる、というところで、彼らはさっさとそのネタを捨てて次の展開へと行ってしまう。それはたとえば、いわゆる「三段オチ」の一段目だけをズラリと並べてゆくような状態であって、観ているこちらは「まああるよね」というくらいの足の着く浅瀬を延々と泳がされ続ける。ギリギリの寸止めでもない、かなり手前で止められたまま、観ているこちらは一向に波乗りできず最後まで陸サーファー気分。
しかしこの日の二本目のネタでは、展開をややゆったりさせ、その分ひとつひとつを少し掘り下げようという姿勢が見えていたように思う。そしてそれは、確実にネタのクオリティ・アップに繋がっていたが、そのぶん勢いが減退してしまったのも間違いない。それによって逆に、彼らの評価ポイントが、ネタのクオリティではなくスピードと勢いであったということが証明される皮肉な結果となったが、方向としては二本目の方向で行くべきだと思った。