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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

『読んでいない本について堂々と語る方法』/ピエール・バイヤール

タイトルが素晴らしい。素晴らしいのはタイトルだけだ。

まず題名からして本書が、いわゆる「実用書」であるのか、実用書を装った「お笑い本」なのか判断しかねるが、読んでみればどちらでもない。「方法」と謳っているわりには方法にまでは永遠に辿りつかず、その前提となる、「本当の意味で『読む』とはどういうことか」という話題をただ繰り返すのみなので、まったく実用性はないと言い切れる。

ちなみに、第一章で提示されている「未読の諸段階」というのは、
1.ぜんぜん読んだことのない本
2.ざっと読んだ(流し読みをした)ことがある本
3.人から聞いたことがある本
4.読んだことはあるが忘れてしまった本
となっている。まあだいたいそんな感じだろうという程度で、何も面白くないし、何の役にも立てようがない。作者はそんな自らの分類とは関係なく、「中身を知らなくても、それ以外の外的状況(世評とか)や断片的内容から、その本の位置づけを語ることは可能だ」というだけの一点張り。それはもちろんそうだし、内容よりもそういった客観的把握のほうが面白いこともよくあるのだが、その程度のワイドショー的な状況把握なら、すでに誰でも無意識にやっていることだろう。たとえば村上春樹の新作について、読んでいなくてもイメージと評判だけでとりあえず日常会話レベルでは語れるように。

一方で、本書になにか面白いボケ的要素があるかといえば、題材的にはそのチャンスはいくらでもあるのにまったくボケてはくれず肩透かし。たとえば「どんな状況でコメントするのか」と銘打った至極どうでもいい(つまり格好のネタふりになっている)第二章のチャプターは、以下のようになっている。
1.大勢の人の前で
2.教師の面前で
3.作家を前にして
4.愛する人の前で
もう中途半端としか言いようがない。4が微妙にボケ入ってる感じがするぶん、余計に。ボケるならばいっそのこと、「森で腹を空かせた読書家の熊にメルヴィル『白鯨』を読むべきか訊ねられて」くらいにはしてほしい。あるいは「明らかに整形後の逃亡犯にカフカ『変身』の話題を振られて」とか。そもそも、「どんな状況下で読んでいない本について語ることを求められるのか」を知ったところで何の解決にもならないわけで、そんなことにまるまる一章を割いて真面目に解説しても役に立つはずがない。役に立たないとなれば何かしらの面白さが欲しいところだが、このチャプター構成でわかるように、残念ながら特に変わった切り口はない。

本書から得られるのは、結局のところ、
「この世にあるすべての書物を読み尽くすことは不可能なので、たくさん読むことを目指しても虚しい」
「人間は忘れる動物なので、いくら読んでも完全に読んだことにはならない」
「内容からその本を語るよりも、他の書物との関係性からその本の立ち位置を把握するほうが大事」
「読み方は人それぞれ」
という程度で、あとはそれらを精いっぱい膨らませて繰り返すだけの詭弁である。詭弁もちろん結構だが、ならばそれは面白くなければ読む価値はない。中途半端に人の役に立とうとする本書の姿勢は、詭弁として評価するにはあまりにぬるく、本書こそ読まずに語るべきだったと後悔させられた。そういう意味では、作者の術中どおりなのかもしれないが。

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