泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

     〈当ブログは一部アフィリエイト広告を利用しています〉

『BLACK ROSES』/THE RASMUS 『ブラック・ローゼズ』/ザ・ラスマス

The Rasmus - Black Roses

どキャッチーな前々作『DEAD LETTERS』で日本でも大ブレイクを果たしたものの、前作『HIDE FROM THE SUN』が詰め甘だったためか、イマイチ評判にならぬ本作ゆえ、しばし見て見ぬふり。HMVウィッシュリストにウィッシュされっぱなしでの不遇の数ヶ月を過ぎたとて、来日の話もなく、初回盤は店頭に残り続け、とはいえ悪評も聞かず。しかし悪評どころか評判自体をあまり聞かず、つまりはあまり売れておらぬようで、それはおそらく、名盤の後を継ぐ作として順当な出来と一般に見なされていた前作に、実のところ不満あるいは飽きを誰もが感じていたということの証左であるやもしれぬと思い至り。

てな感じでネクスト・バッターズ・サークルにどっかと座り続けた末、ようやく重い腰を上げYouTubeにて本作からの1stシングル“Livin' In A World Without You”を視聴したところ、北欧産とは思えぬほど映画的なそのPVの作り込み具合もさることながら、抜群に曲の出来が良いことに驚く。その歌メロはPET SHOP BOYSの地味名曲“Happiness Is An Option”を連想させる強烈な哀愁を湛え、より占有度を増したエレポップ風味もここでは冷徹さの強化へと有効に機能している。

思えば前作『HIDE FROM THE SUN』は、『DEAD LETTERS』の縮小再生産盤であった。全体の体裁は維持しつつも、一曲一曲の角が削られて平均化されたような、妙な安定感を醸し出していた。それはもちろん、一曲たりとも平均値を下回らぬ彼らの基礎体力の高さを表してもいたのだが、小さくまとまってしまった印象があったのも事実。言うなれば『DEAD LETTERS』の行間からこぼれ落ちたB面集のような、そんなこじんまり感。だが本作は何かしら思い切りがいい。

BON JOVI黄金期を手掛けた、かのデズモンド・チャイルドによるプロデュースという要素には、実のところマイナス要素のほうが大きいように思えた。おそらくはアメリカでのブレイクを狙っての人選であり、彼らの持つ「ポップ」と「哀愁」の二大長所のうち、ここでは明らかにポップ方面に偏る戦略を取ると容易に想像できたからである。

しかし蓋を開けてみれば、その音楽性はこれまでになく「哀愁」に寄っている印象。むしろこれまでになく「フィンランド産」であることを強く感じさせる冷たい旋律が支配的で、「哀愁」はいよいよ「絶望」にまで到達したと言える。デズモンド・チャイルドによる緻密な音作りは、予想していたようなニュー・ジャージーの爽やかな青空ではなく、むしろ真っ白に広がる非情な銀世界を現出させる方向に迷いなく機能している。

とはいえもちろん、彼がこれまで手掛けてきた他アーティストの作品同様、ポップさも随所で際立っており、拾うべきフレーズをすべて的確に拾っていったような濃密さ。そのチョイスの正確さが、前作との一番の違いかもしれない。THE RASMUSの音楽を気に入っていた彼のほうからバンド側へアプローチしたとのことだから、制作前からすでにこのバンドの長所をしっかりと把握できていたのだろう。アーティストが大物プロデューサーのコントロール下に置かれているといった感触はなく、対等なコラボレーションによって生み出された作品であると感じる。

全体に渡るゴス風味の強化と、電子楽器およびプログラミングの増量が、純ハード・ロック・ファンに戸惑いを与えるかもしれないが、それを「元から持っていた要素を有効に使っただけ」と割り切れるのは、ひとえに楽曲クオリティの高さゆえだろう。北欧的美旋律をこれでもかと詰め込んだ充実の一作。

Copyright © 2008 泣きながら一気に書きました All Rights Reserved.