「80年代の有効利用法」を最高の形で提示した作品である。これは皮肉でもなんでもなく、紛れもない褒め言葉だ。
70年代リバイバルというのは、ロックに限らず(ファッションなども含めて)あらゆるジャンルでもうすっかり定番化していて、70年代にルーツを持っていることは、アーティストにとっても受け手にとっても、すっかり安心の目印となって久しい。たとえばまもなく新作が発表されるTHE ANSWERなどは、それをとても上手にやっていて頼もしい限りだ。
それに比べ「80年代を真正面から捉えなおす」という行為は、これまであまり行われてこなかったように思う。時間的距離が近すぎてまだ価値が定まっていないというのもあるし、世紀末を席巻したグランジ勢が大仰に80年代を否定してみせた影響が残っていたせいもあるだろう。
だがここへ来て、80年代を堂々と肯定してみせるアーティストが出てきはじめているのは、非常に面白い。何のてらいもなく「DEF LEPPARD大好き!」などと言えるのは、90年代以降のアーティストにはありえなかったことだ。やはり時代は巡るということか。
そしてこのアルバムには、もう一つ明快な特長がある。それは「90年代(=グランジ)の影響を奇跡的に免れている」という点だ。
たとえば、いま彼らとひとくくりにされて語られることの多いNICKELBACKやBLACK STONE CHERRYやSHINEDOWNあたりのアメリカン・ヘヴィ・ロック勢には、80年代アリーナ・ロックの影響とともに、明らかにグランジ/オルタナティヴの重さが宿っている。だがCINDER ROADの場合、その手の重さが感じられるのは1stシングルの“Get In Get Out”くらいなもので、基本的に重さや憂鬱さといったものからきれいさっぱり解放されている。どちらが良い悪いという問題ではないが、これは結構珍しいことのように思う。
しかしだからといって、80年代ヘアメタル的享楽感に満ちあふれているかというと、実はそういうわけでもない。むしろメロディは柔らかな憂いを帯びていて、バラード系の落ち着いた曲も多く、感触としてはENUFF Z'NUFFにもっとも近い。あるいはGOO GOO DOLLS、NEVE、THIRD EYE BLINDあたりの、よりポピュラーなアメリカン・ロックにも隣接している。ところでENUFF Z'NUFFはともかく、上記3バンドがことごとく日本のHRファンから無視されていたのは未だに信じがたいが、いずれも日本人好みの素晴らしいハード・ロックを鳴らしているので、CINDER ROADが気に入った人はぜひ聴いてみてほしい。
これは文句なしにメロディ愛好者必聴の名盤である。