泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『REQUIEM OF TIME』/ASTRAL DOORS 『レクイエム・オブ・タイム』/アストラル・ドアーズ

今やすっかりヴィジュアル系ニュースキャスターに転身してしまった古舘伊知郎的に表現するならば、「納豆唱法」とでも呼びたくなる粘っこ〜い歌唱法でおなじみ、ニルス・パトリック・ヨハンソン率いるバンドの5thアルバム。

基本的には相変わらずの後期BLACK SABBATH路線なのだが、「歌が数段飛び抜けている=バンドの演奏が歌に比べて圧倒的に地味」なあたり、どちらかというとDIOに近いかもしれない。今回はキーボードがかなり前面に出てきていることもあって、よりDIOっぽく感じられる。

ミドルテンポの楽曲が主だったり、ギターがリフ・ソロともに終始物足りなかったり、リズム隊に工夫がなかったりと、そのあたりもまったくDIOっぽくて、たとえばギターがトニー・アイオミでベースがギーザー・バトラーあるいはニール・マーレイでドラムがコージー・パウエルだったならば、おそらくあらゆる問題点は華麗に解決する。

しかしそうなれば当然まるっきり後期SABBATHだし無理なわけで、だがこの演奏陣の弱さが見過ごされたまま5作目を迎えていることには、どうにも歯痒さを覚える。

ところどころ顔を出す疾走曲がいつも通り魅力的なことも考えあわせると、どうやら「ミドルテンポの曲が作り出す空間を埋めるだけのアイデアが演奏陣にない」という点が一番の問題のように感じられるのだが、とはいえ彼ら自身は相当ミドルにこだわりがありそうなので厄介というか仕方ない。実際のところ、肝心の歌がそのありあまる空間を伸びやかに駆けめぐる様相は、このバンドの長所そのものであったりするわけで、ならばこのままで良いのかとも思えてくる。

それにしてもギター・ソロの手数の少なさは、このジャンルにしてはちょっと珍しいくらい作業量が足りない印象なので、ここにテクニシャンを入れるのは急務だと思う(というかこれまでずっと思い続けてきたが叶わなかった)のだが。ニルスの場合、どうしてもリチャード・アンダーソンの超絶キーボードとのあの激烈バトルの熱量が記憶にあるため、やはりそれ相応のパートナーとの邂逅を期待してしまう。まあもちろん、彼ひとりでも充分に熱いんだけど。

珍しく畳みかけるヴォーカル・パートのあるボーナス曲⑮“Stockholm Bloodbath”は新境地。歌の緩急に関してはまだまだ工夫の余地があると思うので、このチャレンジは今後に生きてくるだろう。

しかし何はともあれニルスの歌唱は本当に格好よくて、それはもう歌メロとか声質とかいうレベルの問題ではなく、なんだかもっと「なんとなく」の部分で格好いい。

と、そんなことを言ってもちっとも伝わらないと思うので例を挙げると、その発音。まあイメージでいうと発音というよりは「発語」という感じなのだが、彼の場合、特に「メタル頻出単語」の発音が恐ろしく格好いいという稀有な特性を持っている。それは例えば、「warrior」「danger」「forever」「oblivion」「fight」といった言葉で、多少歌メロが弱い場面でも単語レベルで立て直す力がある。彼の歌の凄さに関しては、以前SPACE ODYSSEYのレビューでも触れているのだが(http://d.hatena.ne.jp/arsenal4/20090214/1234625361)、ここまで歌い方が気になるヴォーカリストは滅多にいない。

3/24には彼が歌うもうひとつのバンドWUTHERING HEIGHTSの新作『SALT』もリリースされるので、そちらも注目。これまでのパターンだとバンドによって結構歌い方を変えてきたりもするので、どういうモードで来るのかも含めて興味深い。

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