泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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『FEVER』/BULLET FOR MY VALENTINE

フィーヴァー(初回生産限定盤)(DVD付)

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「才能がようやく適切な形を得た」というような、理想的な進化作である。それによって失った部分ももちろん少しはある(それはどんな進化にもある)のだが、1stで見せた才能の片鱗に「スラッシュ・メタル」という別の形を与えてしまった2ndを考えれば、この三歩目は相当に難しい一歩だったに違いない。2ndが潔いくらいスラッシュ一辺倒の明確な方向性を持っていただけに、3rdではとりあえず1stの形に戻るか2ndそのままか、いずれにしろ次の形を見つけるまでにはまだまだ相当な時間が掛かるものと覚悟していた。しかしこの3rdにはまったく迷いがない。迷いなく新しい形を獲得するためには、その過程に相当な迷いがあったはずだ。と言うと矛盾しているように響くが、迷った末でなければ迷いのない形は取れない。

今作の制作過程において重要なのは、迷いでありそこから生まれる衝突である。LINKIN PARKらを手掛けた大物ドン・ギルモアをプロデューサーに迎えたことにより、楽曲には明確な形が与えられ、歌メロの強化が図られている。それが彼らの音楽性に重大な変化をもたらしたのは間違いないが、しかしそれだけが重要なのではない。彼らは歌ばかりを重要視し楽器陣を軽視するドンの姿勢に異を唱え、一時はクビにする一歩手前までの険悪な状況を招いたという。これは余程のことだ。

しかし結果として本作で聴かれるのは、明確な歌メロと楽器パートのせめぎ合いである。つまりはそこまでの衝突があったにもかかわらず、歌メロを重視するドンの要求はきっちりと取り入れられている。そのうえでバンドが自分たちらしさを発揮し、正真正銘のメタル・サウンドを完成させている。どちらも犠牲になっていない。こんなことは、よほど謙虚でなければできることではない。謙虚であるということは、ちゃんと迷うということでもある。そしてその上で、わからないことは「わからない」と、納得いかないことは「納得いかない」と、素直に周囲に伝えることでもある。外から意見を取り入れ内を強化するというのは、そう簡単なことではない。

楽曲の構成はシンプルだが疾走感は失われておらず、タイトだが一面的ではない。前作における“Hearts Burst Into Fire”のようなハッとする飛び抜けた曲はないが、これまで楽曲中に散見された「隙」がほとんど見当たらなくなっており、全体のクオリティが如実に向上している。歌メロ重視の姿勢ゆえ、特にバラード系の楽曲においては、声の魅力がもっと欲しいと感じる部分があるのが課題か。

方向性的にはAVENGED SEVENFOLDにも通じる「NWOBHMLAメタル」な感触が前面に出てきており、欧州も米国も狙える絶好の位置を獲得している。いやもちろん、やりたいことをやりきった結果なのだと思うが、このポジションにいるバンドが果たすべき役割は大きい。

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