泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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スムーズに忘れるための覚え書き その1~藤原マリーゴールド

あいみょんマリーゴールド」の歌詞にある有名な一節「麦わらの」に続くフレーズが思い出せず、つい「藤原の」と歌ってしまった場合、それに続くフレーズは「不比等」「道長」「組長」「フジモン」のいずれでも良い。

また、最後の選択肢を取った場合、アーティスト名の「あいみょん」は「ふじみょん」と活用する。だから何がどうなる、というわけでもない。 

何はともあれいずれでも、良いのである。


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スマホゲームのハンドルネームどうつければいいのか問題

 

皆さんご存じではあると思うが、世界十大問題のひとつに「スマホゲームをプレイする際のハンドルネーム問題」というのがあって。

僕はそんなにゲーム全般に常時興味があるほうでもなくて、やるゲームといったら戦国シミュレーションかサッカーかオートバイレースかターン制RPGくらいなのだが……ってこうやって挙げると結構やっているように見えるがそうでもなく、やるときはやるがやらないときはやらない(皆そうだと思うが)。

つまりなんというか、そんなにあちこちやらないもんだから、ハンドルネームにも特にこだわりはなくて、しかしこだわりがないからこそ、どんなハンドルネームをつけていいものか毎度迷うハメになる。

いまやっているのは『戦国布武』というスマホアプリの戦国シミュレーションゲームなのだが、このゲームを始める際にも、ハンドルネームに関しては大いにそして無駄に迷った。この文章はその迷走の記録である。

そもそもこの手のゲームがおかしなことになっているのは、「プレイヤーがどの立場にいるのか」というポジション上の大問題が棚上げになっているということで。実際にフィールド上で戦うのは、織田信長豊臣秀吉徳川家康といったかつて実在した武将なわけだが、それとは別にそれら武将たちを操るプレイヤーという神的ポジションがあって、それが僕自身であるということになっている。

つまり登場する武将たちとは別に、プレイヤーは自身のハンドルネームを設定する必要がある。しかしこの事実を、果たしてどう捉えれば良いものか。

そもそも戦国武将が好きで始めたゲームなわけだから、プレイヤー名もやはり実在の戦国武将の名前にしたいという気分はある。しかしプレイヤーのハンドルネームをたとえば「織田信長」にした場合、ゲーム内の操作キャラにも「織田信長」は出てくるわけであって、そうなると僕という「織田信長」がゲーム内キャラの「織田信長」を操作しているという、ドッペルゲンガー的さらにマトリョーシカ的な珍妙な事態を招いてしまう。

まあだからといって、それに伴う不都合はあまりないのだけれど、しいて言えば織田信長の階層が複数あると、「信長」と言った場合に果たしてどの「信長」を指しているのかがちょっと紛らわしいということくらいだろうか。

だがそう考えてみると、それ以前にこの手のソーシャル系戦国シミュレーションゲームでは、頻繁に奇怪な事象が発生していることに改めて気づかされる。

それはこうやってハンドルネームにわざわざ武将名をつけなくとも、そもそもゲーム内に織田信長が無数に存在しているという奇妙な事実である。

当たり前の話だが、通常の世界観であれば、ひとつの世界線にひとりの人物が複数いるということはあり得ない。たとえばオフラインでプレイされてきたかの『信長の野望』シリーズ等でも、ひとつの日本地図上に織田信長という武将はひとりしか出てこなかった。

複数でプレイする場合でも、ひとりのプレイヤーが信長を所持していれば、他のプレイヤーは信長を保有することはできない。信長が欲しければ、他のプレイヤーが所持している信長を奪い取るしかない。当然の話である。

しかしこれがソーシャルゲームになると、状況は一変する。同じ地図上でプレイする各プレイヤーが、それぞれに織田信長を所持していたりするのである。つまり自軍にも敵軍にも両方に同じ武将がいるなんてのはザラで、このゲームにおいては戦闘時に武将6人の編成を組んで臨むのだが、時には6対6で対峙する対戦相手と武将全員が丸かぶりであったりすることすら珍しくない。

強い武将や相性のいい武将の組み合わせというのはどうしても決まってくるから、ある程度のレベルまで行くとだいたいみんな同じ編成で部隊を組んでいる場合が多く、そうなるとほぼドッペルゲンガー合戦の様相を呈してくるのである。

これはもちろん、ガチャというシステムを中心に置いている以上仕方のないことで、そこは割り切って遊ぶしかないのだが、自軍と敵軍に同じ武将がいることに、時おり違和感を覚えるというか思い出してちょっと妙な気分にはなる。

というわけで何が言いたいかというと、ここではそういうガチャ偏重のスマホゲームシステム自体を批判したいわけではなくて、いやいい加減ガチャ以外のシステムを誰か考えてよ、とは思っているがそれは道端に置いといて(カレンでもジェシカでもアンジェリカでも)、どうせ武将の名前かぶりがゲーム上で頻繁に起こっているならば、プレイヤーのハンドルネームと武将の名前がかぶっていたところで、今さらたいした問題ではないのではないか、というのが本題である(突然の本題回帰)。

というわけでゲーム開始当初、僕は自身に好きな武将である「竹中半兵衛」のハンドルネームをつけようと思った。しかしこれは案の定、すでに他の者が登録しているから駄目に決まっとるやないかボケカス、とアプリに叱られた。世の中そんなに甘くない。

仕方がないので他の武将名にしようかとも思ったが、この調子だと「黒田官兵衛」も「真田昌幸」もすでに使用されているに違いなく、およそ実在の武将名では登録できないだろうという現実的な判断を働かさざるを得ない。

その結果、斬った張ったの真剣なゲームに臨む姿勢として大変不本意ではあるが、「武将名をモジる」という新たな方向性を思いついた。そこで僕が思いついたのが、「竹中全兵衛」という革新的かつ激安なハンドルネームであった。「半兵衛」の「半」を、倍掛けにして「全」にしてしまおうというこの怖ろしいまでに苦し紛れなモジリズム。

とはいえ、「竹中全兵衛、竹中全兵衛……」と何度か口にしているうちに割とこの響きが気に入ってきて、自分の中でだいぶしっくり来たところでハンドルネーム入力欄に「竹中全兵衛」と打ち込んでみる。

するとあろうことか、即座に却下。なんとこんな半端なモジりすら、他の誰かに使われているというではないか。

誰なんだ竹中全兵衛。こうなるとむしろ、僕と同じ思考回路を持ったハンドルネーム竹中全兵衛を紹介してほしいくらいだ。ただちに彼と同盟関係を結びたい。

この時点ですっかり心が折れた僕は、仕方なく倍掛けが無理なら半減させるしかないとひらめいて「竹中四分の一兵衛」などと考えてはみたものの、そうなるともはやモジった箇所の文字数(「四分の一」の4文字)が元の名前の文字数(「竹中」+「兵衛」の4文字)と同じになってしまうという、自分の中で勝手に設けた「モジりルール違反」となってしまうため、もう武将の名前をモジるという選択肢は諦めることにしたのであった。

そして結果、特に戦国っぽくもない適当なハンドルネームをつけてしばらくプレイしているのだが、やはり名前というのはモチベーションに直結するもので、ゲーム内で武将っぽい名前をつけているプレイヤーを見かけるとちょっと羨ましくなったりもして、やっぱりそれっぽい名前に改名したいと考えてないでもない昨今。

「竹中反米」とか「竹中半炒飯」とか「竹中半透明」とか、それはそれでイジってるみたいで興醒めだなぁなどと思いつつ。


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短篇小説「夢のまた夢のまた夢」

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 目が覚めると僕はプロ野球選手になっていた。これは僕が生まれてはじめて抱いた夢だ。寝て見る夢ではなく、起きて抱く夢だ。だからこれは夢の中の話ではなく、外の話ということになる。どちらが現実かなんて、取るに足らないことだろう。

 しかしプロ野球選手の僕は、引退後に生き甲斐を失い、酒びたりの毎日を送ることとなった。毎日が無力感に溢れていた。子供のころ、引退後のことまで夢に見ることを忘れたからだ。こんなことならば、第二の人生まで計画的にしっかり夢に見ておくべきだった。だが夢に計算など似合わない。ひとり酒を飲んで前後不覚で眠る日々を続けるうち、再び目覚めの時が訪れた。

 目が覚めると僕はパイロットになっていた。これはたしか僕が二番目に抱いた夢だったような気がする。

 だが複雑な機器が並ぶコックピットに、エチケット袋は似合わない。幼少期の僕は、自分が激しく飛行機酔いする体質であることをまだ知らなかった。こんな体質で、なぜパイロットになれたのかは不思議だが、やがて僕は操縦席で脱水症状を起こし、気を失った。そしてまた、目覚めの時が訪れた。

 目が覚めると僕はJリーガーになっていた。これは僕が三番目に抱いた夢で、ちょうどそのころJリーグが発足したという影響が大きい。

 そして僕は、最初から最後までJ3のチームでプロ選手生活を終えた。夢を見る際に、ただ「Jリーガー」と思い描いていただけで、「J1所属のJリーガー」とまでは厳密に指定していなかったからだろう。今度は酒ではなくギャンブルで身上を潰し、借金取りに追われビルの屋上から屋上へと飛び移る瞬間に意識を失い、やがて目覚めの時が訪れた。

 目が覚めると僕はギタリストになっていた。これは中学の頃、軽音楽部に入って抱いた第四の夢だ。

 しかしプロになって組んだバンドにはもう一人リード・ギターの男がいて、僕は地味なリズム・ギターに徹していた。リードの彼には作曲能力も備わっていて、彼が人気者になるとバンドはまもなく空中分解した。ちゃんと「作曲能力のあるリード・ギタリスト」を具体的に夢見るべきだった。僕は酒でもギャンブルでもなくストレスによる過食から、巨大プリンの海で溺れている上から宇宙船サイズのハンバーグがエンドレスに降ってくる悪夢にうなされ、そして目覚めの時が訪れた。

 目が覚めると僕は社長になっていた。大学受験を控え、それまでよりも地に足の着いた現実的な選択肢を考えるようになったころに抱いた五番目の夢である。

 そして今回も、やはり具体性に欠ける夢が仇となった。僕のオフィスには、社長の僕ひとりしかいなかった。「社長」の前に「大企業の」をつけ忘れて夢見てしまったせいだ。僕が夢見た社長はたとえば、『情熱大陸』や『プロフェッショナル 仕事の流儀』でひとり格好よくインタビューを受けている社長の姿で、大勢の社員たちと創立記念パーティーをしたり、社員旅行に行ったりといった賑やかなシーンを思い描くのを忘れていた。僕は話し相手がいないことから精神を病み、薬を大量摂取して気を失ったのちに目覚めの時が訪れた。

 目が覚めると僕は父親になっていた。これは僕が六番目に抱いた夢、と言いたいところだが、僕は父親になることを夢見たことはない。

 だからこれは、僕がわざわざ抱かなかった夢だ。しかしだからこそ、僕はどんな父親であろうとも、父親であるというだけで満足できている。そこには理想像も具体的なリクエストも必要ない。夢に抱いていない夢こそが、本当の夢なのかもしれない。それは間違いなく、最高に幸せな目覚めであった。

 だが目覚めの時は、またやがて訪れるだろう。夢とは畢竟、現実ではないのだから。


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耳毛に憧れたって駄目―悪戯短篇小説集 (虚実空転文庫)

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