泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

     〈当ブログは一部アフィリエイト広告を利用しています〉

連載小説「二言武士」/第二言:シェフの気まぐれ団子

f:id:arsenal4:20161229212121j:plain

刀剣ショップにて注文購入した刀を即座に「バールのようなもの」へと交換してもらい、その「バールのようなもの」でそこらじゅうの水道を破壊し尽くした挙げ句、やっぱり飽きたのでまた刀と替えてもらった覆之介は、結局その刀が気に入らずまたもや刀剣ショップへと赴き、再び取り戻した「バールのようなもの」を手に町を練り歩いていた。

この侍、「二言」どころではない。「武士に二言はない」という定説が、単なるファンタジーであることを証明するためだけに生きているような男である。

とはいえネットショップの台頭により販売競争が激化している昨今、刀剣注文者は購入後一週間の「お試し期間」内であれば、たいていのショップでは何度でも商品交換が可能なのである。ちなみに覆之介は購入時、プラス500円を支払ってショップ独自の延長保証にも入っているため、一年間は修理も交換もし放題であった。中には血のついた刀を手に平気で交換を申し出てくる猛者もあるというから、あるいはまだマシなほうかもしれない。

それにしても町中の蛇口を破壊するというのは案外疲れるもので、追い立ててくる民衆から解放された(実際には解放されたわけではなく、覆之介本人を問い詰めても埒が明かぬことを悟った町民らは城へ直訴に向かっている)覆之介は、ちょっと休憩したくなり馴染みの団子屋を訪れた。

覆之介は先ほどさんざんあちこちの水道を壊しまくったが、念のためこの店の蛇口だけは壊さないでおいた。壊すと言いながら場合によっては壊さなかったりするのも、「二言武士」の真骨頂である。

「あら覆さん、しゃいらつ~!」

格子戸を開けた瞬間、この店の看板娘である壱子の妙な歓迎の挨拶が飛んでくるのはいつものことだがいっこうに慣れない。なぜならばこの娘は芸能人でもなんでもないくせに妙な業界用語の使い手だからであって、「しゃいらつ~」というのはどうも「いらっしゃい」を業界用語風に逆転させて練り上げた挨拶のつもりらしい。

ゆえに覆之介はこの壱子が苦手であったが、反面それは「好き」の裏返しなのかもしれないと思わないこともない。特に団子が旨いわけでもないのに、毎度懲りずにこの店へと辿りついてしまうのが何よりの証拠である。

覆之介はお座敷席にあがると、壱子にみたらし団子を二本言いつけたが三十秒後にはまたすぐ壱子を呼んで一本を草団子に替え、さらに二十秒後に再度壱子を呼び戻すと二本とも「シェフの気まぐれ団子」にしてくれと言った。

結果、しばらくすると覆之介のもとに「たせおま~!」という壱子の声に乗ってなんの変哲もない二本のみたらし団子が届けられたが、これは最初に注文した「みたらし団子二本」ではけっしてない。これは過度なシェフの気まぐれにより、結果論的にたまたま「みたらし団子二本」になったというだけであって、あくまでも名目上は「シェフの気まぐれ団子二本」であるので、客は「注文が違う!」と今さら文句を言うことはできない約束になっている。

そんなことはメニューにも店のどこにも書いていないし誰にも聴いたことがないが、守らねばならない約束というものが世の中にはある。

客が客なら店も店である。むしろこういった世知辛い社会のほうこそが、覆之介のような「二言武士」を育てている、と言おうと思えば言える。言うのやめとこ、と思えば言えない。

そして自分が何を注文して何に替えた末に何が届いたかなど、そんな自らが起こした面倒な経緯などもはやすっかり忘れ、覆之介は少年のような目をして目の前の団子にパクついていた。そういう目をしたほうが、女にモテるとティーン向け雑誌でたしかに読んだことがあるからである。

しかし看板娘の壱子のほうはと言えば、そんな少年の眼球をいやらしく演じる覆之介にはもはや目もくれず、客の目も構わぬ奔放な態度でお座敷の隅に寝転びながら、少年のような目をした妻子持ちミュージシャンがバンギャに手を出して偉い目に遭っている女性週刊誌の不倫記事を貪るように読んでいた。

「御免!」

しかしそんな壱子が読書を中断せざるを得なかったのは、岡っ引きの集団がそう言って店内へドドドと押し寄せてきたからであった。六人の岡っ引きは、土足のままお座敷へ上がると真っすぐに覆之介のもとへ行き、それを取り囲んだ。

無論、覆之介には身に覚えがありありの有田みかんである。


tmykinoue.hatenablog.com

連載小説「二言武士」/第一言:バールのようなもの

f:id:arsenal4:20161229212121j:plain

「武士に二言はない」とよく言われるが覆之介は二言あるタイプの武士だった。

覆之介は今日、刀剣ショップへ注文しておいた刀を受け取りにいった。しかし実物を見てみたらその刀はカタログの写真と全然違って、なんかフォルムが思ったほどじゃなかったので、店頭にあったいまストリートで流行りの「バールのようなもの」と交換してもらうことにした。こちらはすこぶるいい感じだけど正しい振りまわしかたがわからない。

刀剣ショップからの帰り道、覆之介が「バールのようなもの」を自慢気に振りまわしながら歩いていたら、民家からおばはんが駆け出してきて水道の修理を頼まれた。「バールのようなもの」をあまりにも見せびらかしているから声を掛けてきたのだろう。おばはんは風呂の水が止まらなくなって難儀しているらしい。

どうにもおばはんの押しが強いので覆之介は「任しとけ」と安請け合いしてしまい、「バールのようなもの」で風呂の蛇口付近をいろいろと叩いたりつまんだりねじったりしてみたが、全然止まらないので「やっぱ無理!」と言い残してその場をあとにした。できないことをできない人がいくらやってもしょうがないのだ。

ちょうどそのころ、おばはん宅の隣の団子屋で新人ブラックバイトの不始末から火の手が上がり、あやうく大火事になりかけたがその止まらない水のおかげでシームレスなバケツリレーが可能となり、被害は最小限に食い止められた。

覆之介は「バールのようなもの」を差し棒代わりに振りまわして消火活動を取り仕切ってるっぽい感じを出してみたが、これは別に「バールのようなもの」でなくても定規でも指でもなんでも良かったし、そもそも彼の存在自体なんの役にも立たなかった。

自分がまったく消火活動に貢献していないことを自覚していた覆之介は、ここで「あえて隣家の水道を直さなかった自分の凄さ、もっと言えば先見の明」を周囲にアピールしていきたいと考えた結果、手に持っていた「バールのようなもの」で各家の水道を叩き壊しながら、「まもなく隣の家が燃えるから。そしたらこれが役に立つから」と吹聴してまわることにした。

そして「バールのようなもの」をすっかり使いこなした感のある覆之介は、早くも「バールのようなもの」に飽きてしまったのだった。彼は一帯の水道を壊し尽くすと再び刀剣ショップへと走り、「バールのようなもの」を返品すると、やっぱり最初に注文していた刀と取り替えてもらうことにした。

無論その日、他に火事など起こらなかった。水道を壊された住民たちが刀剣ショップから出てきた覆之介を取り囲み、直せ直せと詰め寄った。覆之介はいつもの調子で、「はいはいやっとくやっとく」と安易に請け負った。

しかしやがて住民らが具体的な条件面を詰めにかかると、最初からやる気など皆無だった覆之介は急に面倒になり、「基本的には部下に任せる」と言っていもしない部下の話を持ち出したり、腹の前の空間を丸くさすりながら「嫁がこれで」と、やはりいもしない胎児といもしない嫁を理由に断ろうとするなどした。

それでも住民たちがしつこく食い下がると、覆之介は実にマイペースに業を煮やし、今さっき新しく手に入れた刀を抜いて大上段に振りかざしては、この俺が持っているのは最初からこの刀であって水道を破壊することのできる「バールのようなもの」など見たことも聞いたこともないし、ましてこの刀では水道を修理することなどできるはずがないではないかと嘯いた。

今さら信じられないすっとぼけを聞かされた住民らは、「こいつじゃ話にならねえ」といよいよ賢明な判断を下し、殿様に直接陳情するため城へと向かったため、覆之介はすっかり解放された気分になり、我が新刀を改めてじっくり吟味してみることにした。

しかしカタログの写真ですっかりハードルの上がりきっていたその新刀は、実物を間近に見れば見るほどやっぱり気に入らないところばかりが目についてダサく感じられ、覆之介は懐からスマホを取り出してアマゾンにアクセスすると、その検索窓に「バールのようなもの 最新」と入力したのだった。

だが表示された一覧に「バールのようなもの」という商品名はひとつもなく、どれもこれも「のようなもの」ではない厳然たる「バール」ばかり。そのように断定的な名称を持つものは、まるで二言のない旧態依然とした武士のようでちっとも格好よくないと思った覆之介は、いま一度「バールのようなもの」を取り戻すため刀剣ショップへと向かうかどうか、心地よく迷っているところだ。


tmykinoue.hatenablog.com

サンタクロース目撃情報

f:id:arsenal4:20161226005629j:plain

今年も12月24日から25日にかけて、日本各地でサンタクロースが目撃されている。

ここにその目撃情報をまとめてみたい。

言うまでもなくすべてれっきとした、由緒なき、正真正銘の幻影である。


34歳・主婦「トナカイは大量にリストラされたらしくて、大きな荷台のついた自転車で配達をしているサンタを見ました。ウチに届いたプレゼントも、煙突投函のメール便でした」

67歳・理髪店主「配達途中にウチの店に来たからカットしてやったんだけど、標準サービスの『顔剃り』を断固拒否されたもんで掴み合いだよ」

36歳・主婦「息子が朝起きて、枕元に置いておいた靴下を確認したところ、サンタの使用済み靴下が入っていたそうです。ご丁寧にもマジックでサンタの名前入り。でもなんだかトナカイ臭くって」

31歳・会社員「どうにも今年のソリは静かすぎて、後ろから来たソリに危うく轢かれそうになりましたよ。今どきはソリもハイブリッドが流行ってるみたいで。ボンネットに、小さなトナカイのエンブレムがついてたんですが、ツノが片方折れてました」

48歳・会社役員「今年のサンタは、ずいぶん痩せてましたね。ジムのプロテインバーにいたので話を聴いたら、モテたくて糖質制限してるとか。『大量のクリスマスケーキを見せられるのは飯テロだよ』って愚痴が長くて」

21歳・大学生「毎年のことだけど、セコムとのトラブルが耐えないみたいで、ご近所中ひっきりなしに警報が鳴り響いてました。あとアルソックを設置してる家の前で、サンタが女子レスリングの選手に投げ飛ばされるのを見ました。投げられてからもローリング、ローリングで大変そうでしたよ」

42歳・コンビニ店長「店にサンタのソリが頭から突っ込んきたんですよ。どうやらトナカイのアクセルとブレーキを踏み間違えたみたいで。どこ踏んでんのか知らないけど。そういえば高齢者の事故、最近増えてますよね」

8歳・小学生「サンタが置いてったポケモンのゲーム、一個前のやつじゃねーか。しかも中古!」


tmykinoue.hatenablog.com

tmykinoue.hatenablog.com

Copyright © 2008 泣きながら一気に書きました All Rights Reserved.