近ごろ読んだり聴いたりしたもの。共感にしろ違和感にしろ突き抜けているもの。
【小説】
★『ゼーロン・淡雪』/牧野信一
後藤明生の『小説は何処から来たか』に取り上げられていて、気になった作家。
後藤明生が好むということはつまりユーモア作家なわけだが、読んでみると、彼が好むゴーゴリやドストエフスキーほどわかりやすいユーモアでもない。
しかしタイトルになっている「ゼーロン」とは一体何か、戦前の洒落た輸入品か何かの意味ありげな名称かと思いきや、単なる馬の名前で驚く。
全体にそういう感じの、かなりねじれたユーモアが漂っているが、一読ではなかなかに掴みづらい。しかし癖になる何かがある。特に馬が出てくると途端に面白くなる。
感触としてはカフカに近いのかもしれず、再読の必要あり。
★『遊戯の終わり』/コルタサル
南米の作家。
「短篇の名手」と書いてあるので読んだが、たしかに「面白い」というよりは「上手い」短篇が並ぶ。
ただ、どの短篇も手法が類似している印象があって、案外バリエーションは少ない。
小さな意外性を緻密に積み重ねていく丁寧な手つきが特徴で、そのぶん大胆な意外性は期待できない。
魅力的な匂いは冒頭から漂っているのだが、読みはじめに抱いた期待を読後に越えることはあまりなく、しかし着地はビシッと決めてくるので読んだ感触は強く残るという、不思議なバランスは面白いといえば面白いが、着地に頼りすぎの印象。
★『壊れかた指南』/筒井康隆
文庫化を機に。
実験的短篇が並ぶが、これまでの短篇集に比べると方向性の幅が大きく、笑いを期待すると叙情性の海に置き去りにされたりもする。
実験なのか不完全燃焼なのか、尻切れ気味に終わる作品もあるが、そこも含めて短篇の枠を広げようという試みはやはり感じられる。
【音楽】
★『CLOCKWORK ANGELS』/RUSH
RUSHのロックサイドを代表する一枚になるかもしれない。
とにかく一度聴いたら聴き続けるしかなくなる。もうずっとこればかり聴いている。
特別キャッチーなわけではないし、逆にわかりにくいわけでもない。
しかしシンプルさと複雑さ、明快さと違和感が交互に繰り出されるような感触があり、その変幻自在なペースに完全に飲み込まれる心地よさがある。
そのため同じ曲でも聴くたびに印象が変わるから、とにかく繰り返し聞きたくなる魔性の一枚。