泣きながら一気に書きました

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『MANIFESTO』/DEADLOCK


/Manifesto - Japanese Edition

輸入盤なのになぜか「Japanese Edition」なドイツ産ヘヴィ・ロック? メタルコア? メロディックデスメタル?バンドの4作目。メジャー感のある音像のせいか、なぜかアメリカ産だとばかり思い込んでいたが、今作における抒情メロディの充実はたしかにドイツ製と言われて納得のクオリティ。

より比重を高めた女性ヴォーカルの存在が、明らかにバンドの核を一段上げている。とはいえ特別声が魅力的なわけでも、歌唱力が優れているわけでもない。いたってストレートにメロディをなぞるだけのごく単調な歌唱で、おそらくこの歌い手の代わりはいくらでもいるだろう。

このヴォーカルの魅力はただひたすらに「女性らしい声である」ということに尽きる。そしてそれこそが、この作品の音楽全体の質を確実に底上げしている。つまりはヴォーカルそれ自体が良いというよりは、楽曲の中でのポジショニングが絶妙であるとの感触。歌声と演奏陣の相性が抜群なのである。プレーンな歌声が、まるですっぽり抜けた穴を埋めるような形で、まさに紅一点として全体を引き締める役割を担っている。別に最初から穴など開いていないのだが、なぜだかそのように感じるのだ。

この歌が絶対に必要かどうかはわからないが、この歌声がなかったら全体に数段退屈になってしまうことは容易に想像できる。だからこの声には明確な必然性がある。だがあえて繰り返すが、歌は別にこの人でなくても良い。そういう意味ではこの声に必然性はない。できればもっと緩急明暗強弱を幅広く表現できる、柔軟性を持った声が欲しいと思う。だが上手い歌唱は相手を選ぶ傾向があるから、相性を優先するならば、この手の直線的な歌声のほうが失敗は少ないのかもしれない。そういう意味では成功していると言える。

基本路線は北欧メロディックデスメタル、中でもARCH ENEMYだが、FEAR FACTORY〜CLAWFINGER的なデジロック風味や、いささか唐突なラップも織り交ぜ、バリエーションへの意識が伺える。だがARCH ENEMYをやるにはリフ、ソロともにギターのねじくれたアイデアと根本的力量が足りず、特に力押し一辺倒のリフは、ストレートな歌唱とあいまって楽曲の類型化を招いてしまっている。ストレートなギター・リフが、グルーヴの強化と引き替えに楽曲の類型化を招く点は、最近のIN FLAMESにも通じる問題であるように思う。

似た曲が多いという点をのぞけば、全体のクオリティは高レベルで安定しており、バンドの格に比して期待以上の出来映え。トランス風味もヒップホップも、作品全体の質を低下させるほどに取ってつけた印象はなく、またさほどの分量でもないため、それなりに消化されている。逆にこの二点がなければ、むしろディーヴァの存在感が際立たず、その他大勢のB級メロデスに陥る危険性も高い。

一聴した印象の良さに反し、聴き込んでもさほど深みは感じられないが、速効性のあるメタルとしては充分に機能的。激音ジャンルへ女性ヴォーカルを導入することの意義と限界を同時に考えさせてくれる一作。

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