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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

『薬草まじない』/エイモス・チュツオーラ

「薬草」といえば真っ先に『ドラクエ』あたりのRPGを想起するが、この奇想天外なアフリカ文学への入口として、そのイメージはどうやら間違ってはいない。これはファンタジックな冒険譚であり、言うなれば「日本型RPG」小説である。その証拠に、主人公の狩人が目指す場所は「さい果ての町」だ。いかにも和製RPGの最終目的地っぽい名称ではないか。

ただし日本製の王道RPGと違い、キャラクター描写に可愛らしいデフォルメは効いていない。無茶な設定を振りまわす剛腕タイプの作者ではあるが、描写はリアルかつグロテスクである。その点に関しては、表現上のごまかしを許さない米国産RPGだと思ったほうがいいかもしれない。というよりはむしろ、こういった冒険譚の根底にある民話こそが、あらゆるRPGの原型なわけだが。

ファンタジックな設定だからといって、ラノベのような構築されたプロットを期待してはいけない。あらかじめ計算された、建造物のようなプロットなどつまらない。むしろここには、壊れた因果律こそが全体を覆い尽くしている。何が当たり前で、何が異常なのかがわからない世界。読者はまず、暗闇の中にその基準をひとつひとつ探り当てることからはじめなければならない。それこそが本当の冒険というものであり、文学的体験というものだろう。

それは一見、すっかり文明化された現代を生きる我々にとって狂った世界のようにも見える。しかしそれは実のところ、「かつてあった世界」であり、今あるこの世界から「失われた因果律」なのかもしれない。

読みはじめるとまず、各章につけられた見出しに思わず笑ってしまう。開始わずか8ページ目に早くも《ついにローラと結婚》と来て、《残忍な尾なしザル》《ジャングルのアブノーマルな蹲踞の姿勢の男》《山の乳房の長い母》《頭の取りはずしのきく凶暴な野生の男》と見慣れない言葉の連なりが続く。

唐突な展開と違和感あふれるフレーズのオンパレードだが、それら当然読者が抱くであろう疑問点に関して特に説明されることはなく、すべてはこの小説内において自然なものとして扱われる。「この世界観に違和感を感じるとしたら、それは読み手であるあなたの感覚(とあなたの生きている世界)のほうが間違っている」と言わんばかりに。

そしてその独特な世界観は外的なものに留まらず、当然のごとく人物の内面にまで及ぶ。主人公は複数の心を持ち、それらと語り合い時には欺かれたりしながら、なんとか物事を決断して危機に対処しつつ旅を続けてゆく。現代的な価値観でいえば、あるいは「病」に分類されかねないほどに分裂した精神状況であるのかもしれないが、ここではそれが当たり前のものとして、むしろ健全に描かれている。いわゆる「天使」と「悪魔」が脳内でそれぞれ指示を出してくるパターンに近いが、そこまで明確な対立構造でないうえに種類も多く、時にはそれら「心たち」が一斉にサボタージュを決め込んだりもするのが、妙に人間的で面白い。

物語中盤のバトルシーンが続くあたり、この世界の不思議な因果律に読み手が馴染んでくるせいもあって、同じパターンの繰り返しと感じられやや飽きが来る部分もあるが、後半にはまたトリッキーな展開が待っている。お約束ではなく本当の意味での「意外性」や「不思議な話」を味わいたい向きには、恰好の冒険譚であると思う。

作品の世界観としては、場所も文化もまったく違えど大江健三郎同時代ゲーム』に共通するものがある。つまり人生はある種のRPG=ゲームであるということか。

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