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短篇小説「柿食えば鐘鳴る機」

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「こないだ寺で柿食ってたらさ、ちょうど鐘が鳴ったんだよね」

政尾加志貴(まさお・かしき)が自慢の横顔を見せつけながら得意気にそう言うと、友人らは「ま、そういうことってあるよね」と軽く受け流したので、加志貴は意地になって、

「……てゆうことが今年三回もあってさ!」

と慌ててつけ加えたのだった。もちろん、口から出まかせである。そもそも普通に生きていて、年に三度も寺で柿を食う機会などあるものではない。喫茶店に集っていた三名の友人らは、その発言に驚くどころか「嘘つけ!」と一笑に付した。二回分の嘘を盛ったお陰で、真実の一回目すらも虚言であると断じられてしまったのである。

加志貴はその日から嘘つき扱いされ、「ホラッチョ」と呼ばれることになった。学生時代のショーンKと同じあだ名だ。

加志貴は悔しかった。だから柿を食えば必ず鐘の鳴る機械を作ってやろうと思った。そして実際に作った。器用な男だった。

胸元につけたリモコンが、柿を囓ったときに飛び散る成分(タンニン等)を感知。するとそこから寺の鐘を突く撞木をくり抜いて内蔵されたレシーバーへと電波が飛び、自動的に鐘を打つというシステムである。その電波は、鐘の音が明瞭に聞こえる地域全体をカバーしている。

むろん寺の許可は取っていないので、加志貴は夜中に何度も寺に忍び込んでは撞木に手を加え、送受信実験を繰り返した。胸元のリモコンに柿の成分を感知させねばならないため、あえてワイルドに汁を飛び散らす柿の食いかたも、ずいぶんと上手くなった。

「柿食えば鐘鳴る機」が完成した翌日、加志貴は彼を嘲笑った三名の友人を寺の門前に呼び出した。彼は懐から柿を取りだして言った。

「いいか、俺が柿を食えば鐘は必ず鳴るんだ。俺がために鐘は鳴る。見とけ!」

加志貴は柿を勢いよく囓った。するとその0.7秒後に鐘が鳴った。友人らは期待どおり驚きの表情を見せた。

「やったぞ。俺はやってやった!」

だが加志貴がそうやって成功に酔っていられたのは束の間だった。鐘は何度も何度も繰り返し鳴った。そんなはずはないのだ。鐘は一度だけ鳴るようにプログラミングされている。しかもその鐘の音はいつもの「ゴーン」という低音ではなく、「カーンカーン」と不快に響く聴き慣れぬ高音であった。

何かがおかしい。俺以外にも柿を食っている奴が近くにいるのか? しかし俺以外に、こんな馬鹿げた機械を発明する奴などいるはずもない。

加志貴はあれこれと思案を巡らせながら、いつしかこの鐘が早く鳴り止んでほしいと願っていた。友人らはいつの間にやら雲散霧消していた。それは単なる鐘ではなく、早鐘だった。近隣住民に危機を知らせる早鐘だった。

やがて鐘の音は、青空を埋め尽くす米軍機のエンジン音に掻き消された。


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