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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

「動詞君ノンストップ」

短篇小説

駅前の喫茶店内であばれる君があばれ出したとき、勇敢にも彼を止めにかかったのは店長のふられる君ではなく常連客のつよがる君だった。ふられる君は昨日雇ったウエイトレスにたったいま厨房でふられたばかりで、それどころではなかったのだ。

とはいえ、特に格闘技をやっているわけでも体を鍛えているわけでもないつよがる君が百戦錬磨のあばれる君に立ち向かったのは、単なるつよがり以外の何ものでもなかった。つよがる君があばれる君のフック一発で倒されたのち、レジにいたバイトのあやまる君があばれる君のもとへと駆けつけた。もちろんあやまる君はあやまることしかできなかったが、やはりあやまるだけではあばれる君を止めることは叶わなかった。あばれる君のキックを顔面に喰らったあやまる君は、猛烈な痛みをこらえ依然として何かにあやまりながら店の奥へと消えた。

誰もが手をこまねいている中、いつもの時間に入口から平然と入ってきたのは、常連客のきらわれる君であった。きらわれる君は店員や他の常連客をはじめ誰からももれなくきらわれていたので、この場で初めて会ったあばれる君にもきっちりきらわれていち早く倒された。特にきらっていない人に対しても無差別にあばれるあばれる君が、直感的にきらいだと感じたきらわれる君に対してあばれを発揮しないはずがなかった。

その後も、客席から続々と有志が立ち上がっては倒れていった。しんじる君はあばれる君がもうあばれないとしんじて近づいたところを殴られ、ころぶ君はあばれる君に近づこうとしたところで椅子に足を引っかけて勝手に倒れ、ねむる君はあばれる君まであと一歩のところで睡魔に襲われた。おどる君は離れた場所でただおどりをおどっていた。今日は新人バイトのしぬ君が非番だったのは、不幸中の幸いであったと言える。

そんな状況を見るに見かねた客のてれる君は、スマホを取り出し110番することを決意した。しかし電話に出たのが女性であったためいつものごとくてれてしまい、何も言えぬまま通話は終了。きちんと連絡が取れていれば、とりおさえる君とけいさつてちょうみせる君とたいほする君が駆けつけて一件落着となったはずなのだが。

あばれる君は実のところ心底あばれたいわけではなかったが、名前がそうである以上あばれることをやめるわけにはいかなかった。つまり悪いのはすべてあばれる君という名前であり、その名を授けた父親であるのかもしれなかった。しかしあばれる君の父親の名はあばれさせる君であったから、父が子にあばれる君と名づけたのもまた必然であった。負の連鎖というほかはない。

やがてあばれるだけあばれたあばれる君は、喫茶店内をすっかりアバンギャルドな感じにした挙げ句、あくまでもあばれながら森へ帰っていったという。

その夏、森でヘラクレスオオカブトが大量に発見され、村の子供たちは喜びに沸いた。

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