泣きながら一気に書きました

不条理短篇小説と妄言コラムと気儘批評の巣窟

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全自動不信症候群

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どうも「自動」というやつがいまだに信用ならない。それは「任せといてください!」と豪語する部下を信頼して仕事を任せたらよけい面倒なことになった、という感覚に似ている。

昨日は最高気温35度。まだ絶賛梅雨期間中にもかかわらず、ほぼノーモーションでいきなりの猛暑を喰らい、いてもたってもいられずエアコンのフィルター大掃除祭りを開催した。しかしこのエアコン、「自動お掃除機能」つきだったはずなのである。その証拠に、スイッチを消した後もたまにウィンウィンいってるし、ダストボックスにもちゃっかりホコリが溜まっている。だが同時に、フィルターにもそこそこホコリが溜まっているのである。おすまし顔で。

自動のやつ、適度にサボッてやがる。そのうえフィルターへのほこりの溜まり具合がまた、「いや普段はそれなりに仕事してますよ。でもやっぱ労働基準法とかもあるし、1時間やったら15分くらいは休ましてもらわないと。あ、コーヒーおかわり」ぐらいのリアルな休みっぷりを感じさせる量で、機械というよりは妙に人間味を感じさせるあたりがまた憎い。

結局、全部手洗いすることになるのである。「経費の精算をバイトに任せたら、計算が微妙に間違っていることが発覚して、全部自分でやり直すハメになった」みたいな虚無感を背中に漂わせつつ、フィルターを人間的に洗った。「人間的に」というのは、「機械にできないレベルで」ということだ。なにが自動だ。単なる二度手間ではないか。ドラマ『下町ロケット』でも阿部寛が、機械よりも人間の手作業のほうが精度が高いことを証明していた。ならば俺だって下町ロケットだ。このフィルターをいつか宇宙へ飛ばすのが夢だ(死んだ目)。

被害はこの一件だけではない。自動ドアがなぜか自分のときだけ開かなかったり、自販機に何度千円札を入れても跳ね返され、思いがけず白熱のラリーを繰り広げるなど日常茶飯事である。時には、できないことをできないと言う勇気も必要だ。しんどい時は有給を取ったほうが万人のためになる。

しかしこの程度の事象ならばまだ良い。そう思うに至ったのは、ついに自動車の自動運転機能による死亡事故がアメリカで起こったからである。このニュースを耳にして、「やっぱり」と感じた人は多かったのではないだろうか。フィルター自動お掃除機能の不完全さと、自動ドアの気まぐれ加減と、自販機紙幣投入口の狭量さの延長線上に、どうもこの事故はあるような気がしてならないのである。

事故の原因は、「日差しが強かったため、自動運転装置が白い色のトレーラーに反応せず、ブレーキがかからなかった」とのこと。奇しくもアルベール・カミュの小説『異邦人』の主人公・ムルソーが人を殺した動機「太陽が眩しかったから」とまったく同じ理由ではないか。もちろん機械に感情はないはずだから意味的には全然違うが、だとしても「眩しいからよく見えなかった」というのは、あまりに理由として人間的すぎやしないか。見えろよ、機械なら。

この先も、「よく聞こえなかったから」「見たことのない形状だったから」「歩道を歩く露出度の高い女性につい目を奪われて」「なんとなくムシャクシャして」「遊ぶ金欲しさに」など、妙に人間的な「動機」が事故の原因となることが懸念される。そう、機械に感情はなくとも、「動機」くらいは立派にあるのかもしれないではないか。そもそも「動く機械」と書いて「動機」なのだから。

なにもかも自動化が進む世の中、各種機械のバッテリー表示の横に「モチベーション」という目盛りが追加される日も、そう遠くはないのかもしれない……。

投票用紙の思いがけずツルッとした書き心地~18歳選挙権から考える民主主義のリアル

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こたびの参院選より、いよいよ選挙権が18歳から与えられる。これは大変なことになった。何しろ18歳といえば若い。こう書かれてムカついた18歳がいるとしたら、それこそが若さだ。「若い」と言われて怒るのが子供で、喜ぶのが大人である。僕も18歳のころは洟たれ小僧だった。その時期ちょうど風邪をひいていたのだと思う。

国の行く末を決める選挙である。ここはやはり、選ぶ側も選ばれる側も、「立派な大人」であってほしいと誰もが願っているはずだ。ではいったいどんな人間が、「選挙権を与えるに足る立派な大人」だというのか? これはきっと誰にもわからない。わからないからこそ、国はとりあえず年齢だけで選挙権のある/なしを区切っている。犯罪者とそうでない人を事前に見分けることが思いのほか困難であるように、選挙権を与えていい人と与えちゃダメな人を選別することは難しい。犯人が逮捕されるとご近所から必ず、「いつも挨拶してくれる、ちゃんとした人だったけどねぇ」というまさかの証言が出てくるものだ。

そもそもが、「しっかりした」「立派な」人というのは、いったいどういう人のことなのか? 「ちゃんと働いて自立している人」「偏差値の高い学校を出ている人」「結婚して子供がいる人」「自分の意見を持っている人」――様々な基準があるだろうが、つい先日も、偏差値の高い大学を出て、何度も別れてはいるが家族を持ち、自分の意見を世間に表明し続け、もちろんちゃんと働いて自立している立派な都知事が、「ズルのレベルが幼稚だ」と日本中から叩かれて、実質的に引きずり降ろされたばかりである。そういえばその前の都知事も、カバンに札束が入る入らないの寸劇を繰り広げて辞めていった立派な人だった。

そもそもついでにもひとつそもそも論を言うと、そもそも選挙によって実現される民主主義とは、むしろ「立派な人」の力を奪うために登場した制度なのではないか。民主主義成立以前の段階において、独裁政治を行ってきた為政者たちは、少なくとも何らかの意味では、民衆にとって「立派な人」であったはずなのだ。そしてその「立派な人」を支えてトップに押し上げるのもまた、官僚や町の有力者といった「立派な人」たちであった。

つまり、政治に明るくない一般大衆は、自分たちよりも「立派な人」たちが選んだ「King of 立派な人」ならば、自らの運命を託すに足ると考えた。無知な自分たちが間違った選択肢を選んでしまう危険に比べれば、「立派な人」にすべてを任せたほうが安心であるはずだ、と。

しかし結果はご存じのとおり、「立派な人」に任せていたら、それぞれの国が大変なことになった。どういうわけか「立派な人」も、トップに立つとすぐに権力を振りかざして民衆を虐めだし、すっかり「立派な人」ではなくなってしまうようなのだ。ちなみに英語で「ripper」といえば「切り裂き殺人鬼」を意味する。関係ないね(柴田恭兵)。

これではいけない、もうこれ以上「立派な人」たちだけに国を任せておくわけにはいかない。そう考えた結果、民衆は「立派じゃない人」もみんな、国政に関わったほうが良いという結論に至った。無知であろうと立派でなかろうと、全員参加したほうが安全だと考えた。それが実際のところ民主主義というものの、本質なのではないか。

だから無知でいいと言っているわけでも、いっそ3歳児に投票権を与えてもいいと言っているわけでもない(投票権に拙い字で「パパ」と書いてあるのも悪くないが)。イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票みたいに、全員参加が迷走の予感を漂わせることもある。

ただ間違いなく言えるのは、民主主義というものが、「立派な人」だけが「立派な人」を選ぶためのシステムではないということだ。そして自分が大人になってみるとわかるが、大人たちは、思ったほどみんながみんな立派な人間であるわけではなく、昔は立派だったけど今は立派じゃないとか、やっぱり一生立派にはなれないだろうなとか、そのほうがお金が儲かりそうだから便宜上立派なフリしてるだけとか、結構いろんな段階にある人が等しく選挙権を持っている。

だから18歳19歳の若者も、臆さず気負わず面倒がらずに選挙へ行ったほうがいいよと、老婆心ながらおすすめしておく。そこで自分が投じた一票の「重さ」と「軽さ」を同時に感じることは、民主主義の「可能性」と「限界」をリアルに体感するということでもある。まずは投票用紙のあの異様にツルッとした書き心地くらいしか、記憶に残らないとしても。

《虚空人名辞典》-二度見村チラ美

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二度見村チラ美(にどみむら チラみ、1970年3月31日-)は、芸能リポーター、万引きGメン、視力回復療法士である。青森県むつ市出身。ルックルック視力回復センター所長。

・両目ともに3.5という驚異的な視力を誇ることから、愛称は「サンコン」「オコエ」「デリカット」。しかしケント・デリカットのような遠視ではなく、近くもよく見えるという万能な視力を持つ。かつて雑誌のインタビューでその類い稀なる視力の理由を問われた二度見村は、「人並みはずれた好奇心」と答えているが、実際のところは「学生時代のカンニングによって鍛え上げられたもの」だと後に告白している。

・遠くが見えるという特技を生かし、離れた場所から尾行できると考え、高校卒業後に上京し探偵事務所の門を叩く。しかし衝撃的なシーンを目撃するとついつい大きく首を振って二度見してしまう癖があだとなり、その不自然なリアクションが原因で、かなり離れていても尾行中にバレてしまうという致命的なミスを連発。二度見しても構わない職業を消去法で考えた結果、芸能リポーターを志す。

・ワイドショーを中心に芸能リポーターとして活躍するなか、万引き犯に直撃インタビューする機会に恵まれる。そこで万引き犯の中年女性の口から発せられた「はやく捕まえてほしかった」という心の叫びに胸を打たれたことがきっかけとなり、万引きGメンに転身。しかしいくら捕まえてもそのように殊勝な台詞を吐いてくれる万引き犯は現れず、開き直って逆ギレする犯人ばかりで嫌気が差し、一年半で万引きGメンを引退。

・すべてを失った状態から再就職を考える中で、「もっと直接的にこの驚異的な視力という才能を生かす道があるのでは」と思い立ち、メガネチェーン店の前を通りかかった際に「視力回復センター」をやるべきだとの啓示を受ける。二ヶ月後、「ルックルック視力回復センター」を西新宿で立ち上げる。

・独自の視力回復法として、あらゆる物体を高速で何度もチラ見する「スピードルッキング」という視力回復トレーニングを考案。「見流すだけで視力がみるみる甦る」というラジオCMのキャッチコピーが話題を呼び、メディアで得意の二度見を披露する機会が増加。その流れに乗り、「二度見専用メガネ」なるものを製作・販売したものの、驚くほど売れず巨額の借金と使えないメガネの在庫を大量に抱える。

・この二度見専用メガネの失敗により、ホームページに挙げられている視力回復体験談の数々がすべて嘘だとミソがつき、まもなくルックルック視力回復センターは閉店に追い込まれた。

・近年、日本野鳥の会に入会したとの噂がある。

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