広島東洋カープ25年ぶりの優勝により、球団歌『それ行けカープ』があちこちでかかっている。これが結構いい歌で脳内を巡り続ける、というのは球団歌にはよくあることで、阪神タイガースの『六甲おろし』も、「ウォウウォウウォウラ~イオンズ」としげる松崎が叫ぶ西武ライオンズの『地平を駈ける獅子を見た』も、一度聴いたら耳から離れないにもかかわらず、ファンならば何度でも歌いたくなるという、実にコクのある魅力を備えている。
特に後者は作詞:阿久悠/作曲:小林亜星という超一流のソングライター二名を召喚しているから、そのキャッチーな吸引力も当然といえば当然かもしれない。
ところでそのカープ球団歌、いきなりサビから始まる「つかみ重視」の構造を持っているのだが、この最初に繰り出されるサビの歌詞からして、妙に引っかかるようにできている。歌ってみるとむしろ自然なのだが、これを文字に書き起こしてみると、かなり変な語順なのである。
ただ球団名を歌っているだけで、何もおかしなところはないじゃないか。そう思ったかたは、このフレーズに身近な人名を代入してみるといい。
先ほど僕は、ライオンズ球団歌のくだりで、松崎しげるのことを「しげる松崎」と書いた。これは完全にコミカルな雰囲気を出そうとして書いている。それが結果的に面白いかどうかは、重要だが別にして。
ではこの松崎しげるの球団歌を、カープ方式で作ってみよう。「広島」を名字、「カープ」を名前と解釈し、松崎しげるの姓名をそれぞれ代入するだけで良い。それより「松崎しげるの球団歌」って何?
《しげる しげる しげる松崎 松崎しげる》
どうだろう。これでようやく、カープ球団歌が繰り出してくる語順のトリッキーさが、わかっていただけたのではないだろうか。心なしか、しげるがさらに一段階焦げたような気がするはずである。
《名前、名前、名前+姓、姓+名前》というこの独特な語順。最初は思わせぶりに下の名前だけを二度にわたって教え、ちょっとフルネームも知りたくなったところに、「姓名を逆転させて発表する」という業界用語的手法で煙に巻き、「あれ、本名は言いたくないのかな?」と相手が思ったあたりで、とっておきの本名を正しい語順でズバッと繰り出す。
なんと小悪魔的な手法であろうか。これでは好きになってしまうではないか。しげる松崎を。
ちなみにこの語順が、逆の意味で違和感をもたらす人種というのも存在する。
《ショーン ショーン ショーン川上 川上ショーン》
《ジェームス ジェームス ジェームス三木 三木ジェームス》
結びの一語以外は「欧風化策」としてむしろ正しい手順であるようにも思えるのだが、ラストの姓名の部分が、単なる間違い、あるいは悪ふざけに聞こえてしまう。やはり締めくくりには、「正式な名前」が来なければならないようだ。
「川上ショーン」なんてほぼ「村上ショージ」だし、そもそもこの人の場合、どれが正しい名前なのかさっぱりわからない。さらに「マクアードル」まで付け加えられた日にゃあ、もう打つ手がない。
最後に、カープの優勝を記念して、ここは広島カープが生んだあのレジェンドの姓名をこの球団歌に代入して、祝辞に代えさせていただきたい。では。
《サチオ サチオ サチオ衣笠 衣笠サチオ》