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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

翳る尻を乾かす方法

コラム

サプリやお菓子を完全消費すると袋の中から残念賞のようにこぼれ落ちてくるあいつ。あるいはサプリの錠剤を2粒3粒と取り出すたび一緒に出てきては、「お前じゃねーよ!」と植木等扱いでお呼びでない罵声を毎度浴びせられるあいつ……。

――奴の正体は泣く子も乾かす乾燥剤。その名は「シリカゲル」。漢字で書くと「尻翳る」。

「尻翳る」――なんという淫靡な響きだろうか。わざわざ言われなくとも、尻ならば最初から翳っている。いちいち丸出しにして日に当てない限りは。あるいはパンツを穿くなどして翳らせている尻など邪道、鬼畜の所業、下衆の極みであり、本来はツルリと剥き出し日輪の如く照り輝かせるべきであるとの裸族の主張が、その名に込められているとでもいうのか。

いずれにしろ尻が翳っているとなると、乾くというよりはむしろ湿った印象が強い。どう考えても乾燥剤の名前としてはふさわしくないだろう。

しかし焦りは禁物だ。こういう場合こそ、まずはしっかり尻を翳らせるなどして落ち着いて、数手先まで言葉のイメージを展開してみることだ。その先には、開発者にしか見ることのできなかった、我々ユーザーには想像もつかない光景が開けているのかもしれない。「尻翳る」の先に待つ未曾有のランドスケープが。

ではまず、尻が翳ると我々はどうなるのかを考えてみよう。といっても、我々文明人は普段から下着を着用することで尻を翳らせているのでなんともならない。「尻翳る」はむしろデフォルトの状態なのである。ではいったん下着を脱がせて尻を照らしてからいま一度翳らせてみればどうか。これはやはり相対的に「落ち着く」という気持ちになるだろう。以下、そのようなイメージに沿って言葉を展開させてみよう。といっても難しく考える必要はなく、思いつくまま適当に連想するだけで良い。

尻翳る→落ち着く→眠くなる→寝る→寝ている間に多くの水分が失われる
→乾燥する=「シリカゲル」

誤算だった。こんなに早く目的地に到達しては面白味に欠ける。もっと遠回りをしなければ展開させる醍醐味がない。寄り道こそが人生さ。

尻翳る→落ち着く→たばこを吸ってさらに落ち着く→珈琲を飲んでもっと落ち着く→すごく落ち着いたがカフェインの影響で眠くない→ならばちょっと出かけようか→駅まで歩く→電車に乗る→間違って逆方向の電車に乗ってしまった→せっかくだから知らない町で降りてみる→迷う→交番で道を尋ねる→怪しまれ逆に職務質問される→気分を害したまま再び歩き出す→やっぱり迷う→たばこ屋のお婆さんに道を尋ねる→ちょうど夕飯時だから上がって飯でも食っていけと誘われる→「東京に出た子供は全然連絡よこさないし、旦那にも先立たれてしまってね」→出された煮物の味が異様に濃い→喉が渇く→乾燥する=「シリカゲル」

やはり翳る尻が乾燥剤になるためには、これくらいの面倒なプロセスが必要だ。あたい、軽い女だなんて思われたくないから。

何をどうこねくりまわしたって、単に名前の響きが面白いってだけの話。

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