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泣きながら一気に書きました

妄言コラムと気儘批評と悪戯短篇小説の巣窟

短篇小説「万物ファースト社会」

短篇小説

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果物ファーストの八百屋と珈琲ファーストの喫茶店とパーマネントファーストの美容院がショップファーストの商店街に並んでいる。いつの間にやら、この世はすっかりファーストまみれになってしまった。

果物ファーストの八百屋で野菜を買うともちろん店主に怒られる。あくまでも野菜より果物の総量が多くなるように買わなければ、レジを打ってもらえないのである。店側が「果物ファースト」を謳っている以上、当然といえば当然の所業ではある。

ちなみに客と野菜のどちらが「セカンド」なのかも定かではなく、あるいはそれらはとんでもなく下位に、たとえば「店主の嫁が脱ぎ捨てた靴下」の次あたりにランクインしているのかもしれない。

珈琲ファーストの喫茶店で紅茶を頼んだりしたら大変なことになる。いちおう紅茶もメニューに書いてはある(しかもセイロン、ダージリン、アールグレイの三種類!)のだが、だからといって頼むのは勇者の蛮勇、愚の骨頂である。この店では、紅茶一杯につき珈琲が二杯ついてくるシステムになっているからだ。もちろん料金は三杯分取られるのは言うまでもない。

店主はなによりも、「ファースト」の地位にある珈琲が機嫌を損ねてしまうことを恐れているのだ。この喫茶店における客の地位は、入口でカランコロンカランと鳴るドアベルの次であると言われている。

パーマネントファーストの美容院でパーマをかけないと人間扱いされない。ここではシャンプーよりもカウンセリングよりも先にまず、クルクル巻かれ球体をかぶせられる。

では天然パーマの客が訪れた場合どうなるのかというと、これは逆方向に曲げられる。この店ではそれを「カウンターパーマ」と呼んでいる。単にクセを伸ばすストレートパーマどころではなく、むしろクセ毛のカーブにカウンターを当てるように、同じだけ逆方向へクセをつけ返してやるのである。

なぜわざわざそんなことをするのかといえば、そのほうが「パーマかけてる感」を強く味わえるからである。美容師が感じる「パーマかけてる感」はパーマネントそれ自体の「やりがい」につながり、パーマネントは自分が「ファースト扱い」されていることをたしかに実感することができるというわけだ。

ちなみに薄毛の客は、足りないぶん他の毛を曲げられる。ゆえに曲げる対象となる毛を求めて、薄毛の客が店内で全裸にさせられるというのもよくある話だ。

そしてつい先日、このショップファーストの商店街の入口にある交差点で、カーファーストの自動車とバイシクルファーストの自転車とウォーキングファーストの歩行者が衝突するアクシデントファーストの事故が発生した。そこへポリスファーストの警官とドクターファーストの医者が駆けつけ、近いうちに裁判官ファーストの裁判が行われるという。


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ゼネラルステッカー キーホルダー ツイート 乱一世乱二世乱三世 TWK-037

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今さら『君の名は』あらすじ脳内諸説~信じるか信じないかは自分のさじ加減です~

コラム 戯れ言

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大ヒット映画『君の名は』をいまだ観ていない僕の脳内で、そのあらすじに関する諸説がいくつか浮かび上がり、情報が錯綜している。

あらすじを想像する手がかりは、「入れ替わり」「タイムリープ」「ラブストーリー」の三点のみ。

ここにその諸説をまとめ、特にその正当性を検討することなくほったらかしにしてみたい。


【第一の説】
徐々に巨大化してゆくグラサンに、鈴木雅之の身体が乗っ取られていき、やがて入れ替わるという未曾有の緊急事態が発生。

妙に歌の上手いグラサンの誕生。そしてやはりクワマンのセカンドバッグは盗まれる。

マーチンとグラサンの邂逅が涙を誘う青春ラブストーリー。青春とラブに著しく欠けているとの評判。


【第二の説】
過去から来た若人あきらが未来の我修院達也に出逢って「君の名は?」と訊ねる。

過去の本人と未来の本人が遭遇するタイムリープ太眉ファンタジー。

前者と後者の決定的な違いは、「郷ひろみのモノマネをやるかどうか」。


【第三の説】
志茂田景樹アシンメトリーな髪型の、ピンクと緑が入れ替わる奇跡。

しかし周囲の誰ひとりとしてその変化に気づくことはなく、いつも通り続いてゆく日常を淡々と描いたカラフルヒューマンドラマ。

3D上映。


人って、みな最初は石ころだもの (一般書)

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tmykinoue.hatenablog.com

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最近聴読作品所感~穏やかに見えて先鋭~

プレイリスト

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近ごろ読んだもの聴いたもの何かしらの引っかかりがあったもの。


【小説】

★『ある完璧な一日』/マルタン・パージュ

ある完璧な一日

ある完璧な一日

フランスの若手作家、と13年前のデビュー作に書かれていたから今は若手ではないのかもしれない。

この人の作品は、いつもジャケットとタイトルに惹かれて手にとってしまう。
『僕はどうやってバカになったか』『たぶん、愛の話』など。

リチャード・ブローティガン的なポップさと死のイメージ。
剣呑な自殺のイメージと平穏な現実をシームレスに描く手法は、効果的といえば効果的だが、それが面白いかというとそうでもない。
この人の作品はいつも寸止め感があって、面白そうな雰囲気を全体に漂わせながらも、どうも期待したところまでは行ってくれないもどかしさがある。

作品それ自体が狂気というよりは、狂気を衣服として適宜着脱するような巧みさを感じる。その巧みさが、フィルターとなって生々しいユーモアを濾過してしまうのかもしれない。


★『地鳴き、小鳥みたいな』/保坂和志

地鳴き、小鳥みたいな

地鳴き、小鳥みたいな

穏やかに見えて先鋭。それが保坂和志の本質だと思う。

「思考の流れ」という文学的手法があるが、ここで繰り広げられているものは、もはやそれどころではない。それ以前に「認識の順序」さえもが如実に伝わってくる文体。
普通ならば省かれるプロセスが省かれず、むしろさらに粘り強く考えることによって、そのプロセス自体が小説としての魅力を発散しはじめる。

以下のトーク動画でも、まさにそんな思考回路の手触りを感じることができる。
トークの面白さの本質というのもまた、巷間で有り難がられる安っぽいまとめ能力などではなく、粘り強い逡巡と迂回の道程。


★『古森の秘密』/ディーノ・ブッツァーティ

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

古森の秘密 (はじめて出逢う世界のおはなし)

カフカの後継者と呼ばれる作家は多いが、その中で最も精度の高い作家のひとりがイタリアのブッツァーティだろう。
カフカは抜群に真似したくなる作家だが、一方で真似すると怪我をする確率も高い。

とはいえ本作は初期作品(長編第二作)ということもあり、後のカフカ的な作品群に比べて随分とベタにファンタジーしている。
森の精霊に代表されるように、いかにもなファンタジー的記号が多く用いられ、物語も起承転結が明確にある。全体にエンタメ寄りの作風。

ベタな要素が多いので読みやすいが、やはり後の『タタール人の砂漠』や名作短編群に比べると明快すぎて文学的な不穏さが足りない。
とはいえ、そこに至る作風の変化を感じ取れるという意味では興味深い作品。


【音楽】

★『SORCERESS』/OPETH

SORCERESS-DIGIPAK

SORCERESS-DIGIPAK

スウェーデンプログレッシヴ・メタルバンドの12作目。
デス・メタルからプログレへの変化/進化は珍しくはないが、まさかここまで来るとは。

その音像はとにかく耽美的。暗く、重く、ひたすらに美しい。
やはり美しさを手に入れるためには、暗さと重さが必須なのだと改めて思い知らされる。

近ごろはとにかくこればかり聴いている。
ジャンル関係なく、偏見なしにまっさらな気持ちで触れてみてほしい傑作。


★『BATTLES』/IN FLAMES

イン・フレイムス『バトルズ』【通常盤CD(日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入)】

イン・フレイムス『バトルズ』【通常盤CD(日本盤限定ボーナストラック/歌詞対訳付き/日本語解説書封入)】

こちらもスウェーデン出身のメロディックデスメタルバンドの12作目。

ここ最近はすっかりアメリカナイズされ、元来の疾走感も哀愁も失いかけていた彼ら。
なのであまり期待はしていなかったが、これは久々に聴き込み甲斐のある一作になっている。

とはいえ、原点回帰した印象はない。
近作と方向性に基本的な変わりはなく、ただそのクオリティが劇的に向上している。

それはおそらく、プロデューサーにHOOBASTANKDAUGHTRYらの大ヒット作を手掛けたハワード・ベンソンを迎えた効果が大きいだろう。
精彩を欠いていたここ数作に比べ、無駄が削ぎ落とされ、メロディが丹念に磨かれている感触がたしかにある。

そういう意味で、かなりソリッドかつタイトな作品に仕上がっている。
だがそれは、初期の疾走感や激情を取り戻したという意味ではない。むしろ都会的洗練の度合いは進んでいる。

その洗練を良しとするかどうか。
個人的には、メロディの質の高さゆえ気に入っている。

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